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[DVD]:ピカソとダンス

 

Picasso_dance

 
●ピカソとダンス「青列車」「三角帽子」
 パリ・オペラ座バレエ
 WPBS-90163/ワーナー・ミュージック・ジャパン
 2006年3月発売
 
 わーいわーい。このタイトルのDVD化は誠にめでたい限り。
 
 もう10年前になるか、これはVHSとレーザーディスクで発売されていた。私はLDを持っていて、お気に入りで何度も観ていたのだけれど、数年前にプレーヤーが故障してしまい、それ以来観ることができずに寂しく思っていたのだ(早く修理に出せってば)。
 これがDVDになったということは、同じ頃出ていた『パリ・オペラ座バレエ ディアギレフの夕べ』にも近々再見できるかもしれない。わくわく。
 
 DVDならではというか、字幕は英語・ドイツ語・スペイン語・フランス語・イタリア語・ポルトガル語・日本語の7種類から選べる(音声は英語)。つーてもこれ、リージョンコードは2(日本国内向け)なんだけどね。
 バレエのDVDになんで字幕が入るのよ、と言われそうだが、「青列車」と「三角帽子」のふたつのダンス作品とともに、「ある結婚——画家と舞台芸術」というドキュメンタリー作品が収録されていて、それに字幕が必要になる、というわけなのだ。
 
 
 その表題の『ピカソとダンス』について。よく知られたことなのかどうか、パブロ・ピカソは1910年代後半から20年代前半、バレエやダンス作品の舞台美術や衣装をいくつか手がけている。仕掛け人はあのディアギレフで、当然、大半がバレエ・リュスのための仕事だ。以下、1998年に東京と滋賀でやっていた展覧会『ディアギレフのバレエ・リュス展』図録から、ピカソ関連作品を抜き出してみる。

     
  1. 『パラード』(1917年/台本:ジャン・コクトー/音楽:エリック・サティ/振付:レオニード・マシーン)
     
  2. 『三角帽子』(1919年/台本:グリゴリオ・マルティネス・シエラ/音楽:マニュエル・デ・ファリャ/振付:レオニード・マシーン)
     
  3. 『プルチネッラ』(1920年/台本:レオニード・マシーン/音楽:ジョヴァンニ・バティスタ・ペルゴレージ/振付:レオニード・マシーン)
     
  4. 『クァドロ・フラメンコ』(1921年/ファリャ編曲)<バレエ作品というよりはフラメンコそのもの>とのこと
     
  5. 『牧神の午後(再演版)』(1922年/台本:ワツラフ・ニジンスキー/音楽:クロード・ドビュッシー/振付:ワツラフ・ニジンスキー)
     
  6. 『青列車』(1924年/台本:ジャン・コクトー/音楽:ダリウス・ミヨー/振付:ブロニスラワ・ニジンスカ)
     

 バレエ・リュス関連以外では『メルキュール』1924年、『ランデヴー』1945年、『イカール』1962年、の3作品もピカソが美術を担当しているということだが、今ちょっと詳細を調べる余裕がなかった。
 
 このDVDには、このうち『青列車』と『三角帽子』が収められている。もちろんバレエ・リュスの初演の映像ではなく、1993年にパリ・オペラ座バレエが遺された資料を基に再現した舞台の映像化である。1993年はピカソ没後20年にあたるので、それを記念して…ということもあったんだろう。舞台装置や衣装なども可能な限り忠実に再現されているらしいので、まんま1920年代の雰囲気が味わえる、非常に貴重なディスクだ。ちなみに『青列車』は衣装をココ・シャネルが担当している。これがまたとても洒落ていて、なるほど時代は感じさせるものの、いまでも充分ファッショナブルさを失っていないのはさすが。
 
 『青列車』の初演時に主演したアントン・ドーリンという人はイギリス人で、子供のころからミュージック・ホールに出ていてショウ・ダンスやアクロバットが得意だったという。この作品はドーリンの個人的な技能を発揮させたものなので、<再演は振付者ニジンスカの娘イリーナ・ニジンスカとバレエ史家フランク・ライスの手になるが、初演を忠実に踏まえているという保証はない>とのことだが、うーん、そう言われると気になるなぁ。どこかに断片フィルムでも残ってないものかしら。
 コクトーの手になるこの作品は、バレエ作品というよりも、ダンスで表現したコメディ・スケッチという方が当たっている。ディアギレフ自身は「オペレット・ダンセ」と呼んでいた。
 1924年といえば両大戦の間にあって、欧米がバブルに浮かれていた時代。アメリカが流行の最先端を走っていて、フランス人も英米風のヴァカンスを楽しんでいた。そんな南フランスのどこか架空の保養地を舞台に、当時社交界で人気のあったテニス・プレイヤーとゴルファー(プレイボーイで有名だった当時の英国皇太子)をモデルに借用して、ちょっとしたドタバタを演じさせたもの。タイトルこそ青列車とあるけれども、舞台には列車のレの字も出てこないという、まことに人を食った作品だ。しかし、これが楽しいのなんの。もとよりかっちりとしたストーリィなどなく、カリカチュアライズされた登場人物の動きを単に眺めているだけで楽しくなってくる、明るい作品だ。
 
 
 もうひとつの『三角帽子』も喜劇で、ファリャが音楽を担当しているのでもわかるようにスペインが舞台。レオニード・マシーンの代表作として知られている。こちらはかっちりと構成されたバレエ作品だが、全編スペイン情緒がたっぷり味わえる民族バレエである。
 マシーンは振付にとりかかる際に、ガルシアというグラナダのフラメンコ・ダンサーと知り合い、彼からフラメンコを伝授される。マシーンに熱心にレッスンをしたガルシアは自分が主役を踊るものと思いこんでいたそうで、そうではないと知ってショックを受け、失意の内に精神病院で亡くなったという、なんともやるせない悲話が残されている。
 
 DVDに収録された1993年の復刻上演では、パリ・オペラ座の面々がマシーンの振付を忠実に再現しているが、バレエ作品らしくきれいにまとまり過ぎているようにも感じられる。マシーンのダンスはどんな風だったんだろうか。
 『青列車』のドーリンとは対照的に、ガルシア自身のダンスは映像記録が残っている。その一部はドキュメンタリー『ピカソとダンス』の中にほんの少しだけ使われている。断片でしか観られないが、こちらはさすがというべき非常にシャープで情熱的な踊りだ。ガルシアのこの映像を観たあとで本編を観ると、どうも迫力がなぁ…と感じてしまうのは、こちらの贔屓目だけではないと思うのだが、いかが。

2006 04 22 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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