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[exhibition]:Raoul Dufy

●ラウル・デュフィ展 Raoul Dufy A Celebration of Beauty
大阪展 2006年4月5日〜4月17日 大丸ミュージアム・心斎橋
福島展 2006年4月22日〜6月4日 いわき市立美術館
静岡展 2006年6月10日〜7月23日 静岡アートギャラリー
東京展 2006年9月7日〜9月26日 大丸ミュージアム・東京
【写真】展覧会カタログ
ラウル・デュフィ 美・生きる喜び
ラウル・デュフィ出版委員会/2006年4月発行
シャーリー・R・ハワース文/門田牧子訳
デザイン:スピーク
美術の展覧会に足繁く通いはじめた学生のころ、いちばん最初に好きになったのが Raoul Dufy ラウル・デュフィ(1877〜1953)だった。いま、手元の展覧会図録を探してみたら、1983年と1988年のデュフィ展のものが出てきた。あれれ、もっと観に行ってたような気もしてたんだけど。
伸びやかな描線と透明感のある色彩。人生をすべて肯定するかのような、すみずみまで明るい画面に強く心を奪われた。ほとんど即興の一筆描きのようなラフなタッチは、しかしよく見ればわかるのだが、たとえばヴァイオリンを演奏する指やドラムスティックの持ち方など実に正確に描かれていて、たしかなデッサン力とともに、この作家が音楽のことをとてもよく知っていることがわかる。
それにあの色の使い方! 水彩画では、おおきな刷毛でざっくりと色分けされた画面に、その上から人物や静物をスケッチするように描いていくのがデュフィのスタイルだが、どの絵の具もまばゆいほどに輝いていて、濁ったところが全くない。作画中に迷いやためらいがあれば到底あの透明感は実現しなかっただろう。実際、描くスピードは速かったのではと思われるが、ざっくりとごく適当に描いているようでいて、しかし完成された作品はほどよく調和がとれていて、何度眺めてもとても楽しくなってくるような、明るい幸福感に充ち満ちている。
今回のデュフィ展は、大きく二部構成になっている。前半は、これまでのデュフィ展でもさんざん紹介されてきた「画家としてのデュフィ」。後半は、服飾デザイナーのポール・ポワレの助力もあってアール・デコ期に熱心に取り組んでいた「テキスタイル・デザイナーとしてのデュフィ」である。とくに後者は、(全くなかったわけではないが)これまであまり大きく取り上げられることのなかった側面なので、たいへん興味深く見て回った。
「画家・デュフィ」だけを見ている限りでは、このひとは気分のおもむくまま勝手自在に筆を走らせていたんだろうなあと思わせるし、私などは彼のそういう自由なスタイルが好きだったんだけど、テキスタイルデザインという仕事はそれでは勤まらない。たとえば、ファブリックのパターンをデザインする場合、小さなブロックをひとつ作って、それを上下左右にくり返すことによってパターンが無限に続く生地が出来上がるわけだけど、そのとき、当然ながら端の部分はきっちりつながるように作っておかなければならない。職人的な精密さが要求される仕事であり、「気まぐれに、気分のおもむくままに」筆を動かしていては絶対にできない作業でもあるはずだ。
デュフィは「画家として売れないからやむなく」でもなければ「余技として手すさびに」でもなく、ちゃんと「ビジネスとして」真剣にデザインに取り組んでいたし、同時にタブロー画家としてもフォービズムやキュビズムなどの新しい絵画理論を自分なりに咀嚼しつつ、オリジナリティを追求していた。テキスタイル・デザインでキュビズム的な実験をしてみたり、薔薇のモチーフを執拗に追い求めていったのは「画家・デュフィ」のなせる技だったろうし、観る人をいつもにこにこさせてしまう油彩画や水彩ドローイングの数々は、<顧客の存在>を常に意識している「デザイナー・デュフィ」のそれであったに違いない。今回の展覧会では、これまで以上にこの作家のことが理解できる構成になっていて、とても有意義だった。
デュフィのデザインしたファブリックは、今でも製品として「生きて」いる。会場には彼の生地を使って創られたドレスが展示されていたし、売店にはスカーフなども販売されていた。もちろん画家としても、没後50年以上たった今でも人気の高い作家のひとりだろう。版画商が運営しているウェブサイトでも大きく特集されている[depo.jp]ことからも、それはよくわかる。つーかこのサイト、「版画オンラインショップ」を謳っているわりに、価格はどれも「お問い合わせください」って…それって「オンラインショップ」とは言えないんじゃ(笑)
2006 04 12 [design conscious] | permalink
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comments
この図録の表紙の青はいいですね。ウエブ上でもきれいに見えます。
以前は緑や茶系が好きだったんですが、この頃青が気になってます。
これは見に行きます。
と思って大丸ミュージアムのサイトを見たら、このニキ・ド・サンファルも面白そうじゃないですか。
posted: おおしま (2006/04/12 9:57:55)
コメントありがとうございます。
そうそう、デュフィを好きな理由のひとつに、あの独特の「青」があります。あの透明感は、ひょっとするとオフセットの印刷物よりもRGBのディスプレイの方が再現しやすいのかも。
>ニキ・ド・サンファル
それ、大阪展は見逃してしまいました。チラシをみて楽しそうだな、とは思っていたんですが。東京はこれからなんですね。ぜひ感想をお聞かせください。
posted: とんがりやま (2006/04/12 17:46:31)