« [book]:Viva La Musica | 最新記事 | ワイルド・チキン »
切手で旅する、音楽世界一周。

●世界の民族音楽〜切手でみる楽器のすべて〜
江波戸昭著/生活情報センター/2006年3月刊
ISBN4-86126-249-6
デザイン:鷹觜麻衣子
およそ150以上の国と地域が発行した、楽器を主題にした切手のコレクションである。その数、1,300点以上というから壮観だ。
見知らぬ国(地域)の、見たことも聴いたこともない楽器が切手という非常に小さなグラフィックとなって収まっているのを観るのは、たいへん楽しい。それぞれの国が自分たちの「伝統音楽」や」「伝統文化」をどう規定しているのかを伺う上でも貴重だし、また、たとえばCDショップでどこかの国の、言葉も読めない輸入CDを買った時、そのジャケットに見慣れぬ楽器が写っていたら、それが何という名前の楽器なのか、この本を調べればたちどころに判明する。もちろんここに登場する以外にももっと多くの「民族楽器」が存在するし、同じ楽器であっても地方によっては形状はもちろん名前さえ違っている場合だって少なくないんだけれども、そのあたりさえ事前にわきまえていたら、この本はちょっとした「民族楽器図鑑」としての使い方さえ可能だ。
世界で最初に切手が発行されたのは1840年のイギリスとされている。以来160年余り、情報通信産業の主役として文字通り「世界を股に掛けて」活躍したのが切手だ。あの小さなスペースに自在なグラフィックスを施すという「遊び」を、誰が最初に考えついたかは知らないが、おかげで切手は額面に印字された国情報/金額情報とはまったく別の情報をもつメディアとしても成立するようになった。この「発明」はつくづく凄いと思う。
現在、世界の独立国は190をこえ、未独立の地域ないし国内の一部で独自の切手を発行している地域を含めると、切手発行国は250をこえる。(「はじめに」p.6)
たんに音楽を主題にしただけなら莫大な数になるのだろうが、楽器、それも自国の民族楽器を2枚以上のシリーズとして発行してことがあるのは、このうち150の国・地域ということだ。本書にはそういう「シリーズ切手」を中心に収録されているのだが、150/250というのは、はたして多いのか少ないのか。
いまだに民族楽器シリーズの発行をみていない主要国は、音楽切手といえば作曲家中心できた西ヨーロッパのいくつかの“音楽先進国”と、洋楽一辺倒を志向してきた日本くらいのものである。(p.8)
とほほ。日本が取ってきた音楽政策がこんなところにも如実に表れている、というわけか。なんだか情けないハナシではある。
というわけで、本編最初に登場するのはわが日本なんだけど、「ふるさと切手」などにわずかに描かれた民謡を主題にしたものと、源氏物語絵巻や浮世絵に楽器が描かれているものを集めて、なんとかページを埋めている。うーん、ひじょーに、涙ぐましいぞ。
そのなかにあってさすが沖縄は、占領下にあった琉球政府時代に、地方文化の粋といえる三線の切手をはじめ、組踊シリーズなどを発行しているのが嬉しい。(p.18)
沖縄はさすがだなあ。それにひきかえ…って、のっけからがっかりだが、まあ、自国の伝統文化に敬意を払わない三流国家のことなどほっとこう。
本書はオールカラーで、掲載図版もたぶん原寸大だと思われる。どの国のどの切手も、眺めれば眺めるほどほれぼれするくらい美しい。私の好みでいえば、たとえばカレリア共和国が1997年に発行した、それぞれデザインの異なる12種類のカンテレの図柄には圧倒される。カレリアの人々のカンテレに対する思いが、これだけで痛いほど伝わってくるではないか。
いくらかでも見知っている楽器だけでなく、本書でまったくはじめて出会う図柄を観るのも、やはり刺激的である。それらの楽器からどんなリズムが刻まれるのか、どんなメロディが奏でられるのか、とても気になってくる。
ここしばらく、ろくに音楽CDを買っていなかったけれども、ひさしぶりに輸入CDショップを覗いてみようかな。そんな気にさせられる本である。
…とはいうものの、いま、街のCDショップの「民族音楽」コーナーって、充実度はどうなんだろ。90年代のような異常とも言えるほどの品揃えは、今は望むべくもないのかなあ。珍しいモノが欲しけりゃネットで探せ、って時代だもんなあ。これもまた、ちょっと、とほほである。ま、便利っちゃあ便利なんだけどさ。
2006 04 18 [face the music] | permalink
Tweet
「face the music」カテゴリの記事
- ブルガリアン・ヴォイスにくらくら(2018.01.28)
- 55年目のThe Chieftains(2017.11.25)
- blast meets disney!(2016.09.11)
- ホールに響く聲明(2014.11.01)
- YYSB2014『展覧会の絵』『新世界より』(2014.06.29)