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DVD-R版"Canciones, Antes De Una Guerra"をめぐって(追記)
いま、マリア・パヘス舞踊団が来日中だ。えーと、舞踊団公演としては4度目になるのかな。ワールド・プレミアとなる今回の演目「セビージャ Sevilla」の感想はいずれ書くとして、その前に、前回公演の「Songs Before A War」のDVDを観ることができたので、そのことを少し。
正確にはDVD-Rで、盤面のレーベル印刷はジェットプリントによる簡易印刷。品番もナニもない。といってもいわゆる海賊盤などではなく、同舞踊団が制作・販売している正規のものである。
この舞台は、私は2004年5月に日本公演(「完全版」としては世界初演)を観ている。そのときに書いた感想はこちらとこちらにあります。
このディスクに収録されているものは、そのあと、2004年9月28日に彼女の故郷セビージャで行われた舞台のようだ。ちなみに、左の写真はその時の公演プログラム。今年の来日公演の会場内で販売されていた。兵庫公演ではパンフレット付きは限定50セットのみだったんだけど、14日からの東京公演でも販売されるのかな?
まあそれはともかく。「Songs Before A War」は私としてもぜひもう一度観たい舞台だったので、喜び勇んで買って帰り、帰宅してからいそいそとプレーヤーにセットしたのであります。
ところが、内容がかなり異なっていたのでびっくり。あ、あの曲がないっ!!
* * *
マリア・パヘス舞踊団のDVDは以前にも出ていて、前回公演時には「ラ・ティラーナ La Tirana」を売っていた。左の写真がそのジャケットで、これも同じくDVD-R。日本では2001年の2月から3月にかけて来日公演が行われた舞台だが、DVD収録のステージは2000年のものらしい。
実は「La Tirana」はVHSビデオ(2001年11月)で、のちにDVDとなって(2004年8月)、パセオから日本版が発売されている。ところが、日本版と見比べると、こちらも内容がずいぶん異なっているのである。
このエントリを書くために、2台のDVDプレーヤーを使って日本版DVD(写真右・PFBR-0002/株式会社パセオ)と同時に流し、見比べてみた(ヒマだなあ…笑)。結論から言うと、DVD-R版はかなり短縮されている。要するに、いくつかの演目が完全にカットされているのだ。
「La Tirana」の場合はしかし、見終わったあとの全体の印象としてはそれほど大きく異なるものではない。ステージは生ものでもあるので、いくつかのダンスがカットされても「ああ、こういうバージョンもあるのかな」程度で済ますこともできる。実際私も、DVD-R版を観て「<雨に唄えば>がな〜い!」と思わず叫んだものの、まあさほど気にしていなかったのだ。ところが、今回の「Cansiones, antes de una guerra」の場合、エンディングが異なっているのである。
以下ネタバレのような記述になるかもだが、私が観た日本公演版では、ブログにも書いたようにジョン・レノンの「Imagine」で締めくくられていた。それまでシリアスありコミカルありと、静と動を巧みに織り交ぜつつ展開していたいくつものダンスが、このラストで一気に収斂されて、重く大きなテーマを提示して終わる…という、まことに印象に残るエンディングだった。
ところが、DVD-R版ではラストがルイ・アームストロングの「When the Saints marching in」で終わっているのだ。えっ…。
この曲、私の記憶では日本公演版には存在しなかったはずだ。慌てて公演パンフを引っぱりだしてみたが、やはり曲目リストには載っていない。
イマジンと聖者の行進とでは、エンディングの持つ意味が全く違ってしまう。私は、この舞台のテーマはラストに集約されている、と思っていたので、これは衝撃的だった。曲を変更したことにはどういう意味があるんだろうか。うーむ。
と、よくよく考えてみたけどどうもわからない。「イマジン」とともに大きく映し出されていた「青い地球」の画像も出てこないまま、ディスクは唐突、といった感じで終わってしまうのだ。
改めて、DVD-Rと一緒に求めたセビージャ公演版のプログラムを眺めると、曲目リストが全体にわたってかなり異なっていた。セビージャ版の方が数曲多く、多いだけでなくかなり差し替えられており、日本公演版とは順番も違う。だとすると、「完全版」と銘打たれた日本公演版のあと半年たらずの間に、作品そのものに大きく手を加えられたということなんだろうか。
よくよく見ると、「Imagine」はセビージャ版にもちゃんとエンディングに据えられていた。それを確認して、私は少し安堵した。あの曲がラストに置かれ、しかもいちばん重要な意味を持っているという事実には、おそらく変わりがないだろうからだ。
日本公演版からセビージャ公演版への「改変」が、どういう理由でなされたのかは知らない。先にも書いたように舞台は生ものなので、「完全版」と言ってもいくらでも手直しはあるだろうし、今後もし日本で再演があったとして、その時にはさらに変化している可能性は大いにある。
DVD-Rにエンディングがカットされている理由も、私にはわからない。伝聞なのでアテにはならないかもだが、単に舞台で使用する場合と映画などの映像作品として使用する場合とでは、楽曲の使用料金が大きく異なることがあると聞いたことがあるので、あるいはそういった著作権関係による理由かもしれない。なにしろ、いくら正規版とはいっても、所詮は私家版みたいなディスクなんだし。DVD-Rは、Tシャツとかバッグと同じような、公演会場に来た人にだけの単なるスーベニア・グッズのひとつ…と思ってもいいのかもしれない。
まぁしかし、そうなるとセビージャ公演版の「完全版」を見たくなるのは人情というもの。日本版をぜひパセオから出して欲しいなあ。出してくんないかなあ…とおねだりしてみたりして。社長っ! お願いしまっす!
【2006年5月14日追記】
14日公演会場では、セビージャ公演版のプログラム付きはおろか、DVD-Rそのものも販売されていなかった。ひょっとして、兵庫だけで全部はけてしまったんだろうか。うーむ。
2006 05 13 [dance around] | permalink Tweet
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comments
へーっ、そーなんだあ、とドキドキしながら読んでたら、うわっ、突然そー来たかよっ。
……いやあ、そうだとしたら私も驚いた。あれはひとつの完成形だと思ってたからなあ。
オレも出してーなあその完全版。その手続きと費用対効果を考えただけで意識が朦朧としてくるけど、とにかく明日、担当スタッフたちに話してみるよ。
posted: 社長 (2006/05/14 15:50:42)
唐突&不躾な記事に、ご丁寧なコメントをありがとうございました(汗)。
まずは肝心のDVD-Rをぜひ確認していただいて…と思ってたら、追記しましたように、少なくとも14日公演では影も形も見あたらなかったです(涙)。
>手続きと費用対効果
はい、そのあたりはよくわかりますです。すでに2本も出して頂いていること自体、まるで奇跡のようなもので、ファンの一人として深く感謝しております。これ以上の贅沢はバチが当たります。
…と、舌の根の乾かぬうちにナニですが、今回の『セビージャ』はさらにパワーアップされてまして、もしもDVD化するならむしろこちらの方が売りやすいかも…などとこっそりつぶやいてみたりして…あ、いや、独り言で(大汗)
posted: とんがりやま (2006/05/14 23:18:59)
今日マリア・パヘスのインタヴュー(月刊パセオフラメンコの)があるというので、早速担当者にその辺(国内発売)の可能性についての突っ込みを頼んでおいた。とは云うものの、あんまり期待はしないでおくれよな。
で、今回新作『セビージャ』もまたやってくれたみたいだなあ。オレもこの後、オーチャードであの快感にどっぷり浸かってくるわ。
posted: 社長 (2006/05/15 16:08:06)
やたっ!インタビューされたんですね!次号に掲載ですか?楽しみにしてま〜す\(^o^)/
posted: とんがりやま (2006/05/16 13:24:58)
こんばんは。
私も16日のオーチャードホール観てきましたが、
何と申しましょうか、いまだ半ば放心状態にあります。
とんがりやまさんのステージ評、どのようなご感想か期待しております。
前作?「Songs Before A War」も今回の「セビージャ」も
DVD出たら即買いですよ、私。
(はぁ~。。。この余韻が堪らない。。。)
posted: Fujie (2006/05/17 1:33:51)
兵庫に観に行きました~。でもパンフしか売ってませんでした。
この舞台かっこよかったので是非DVDになったら買いたいです。
衣装も可愛かったです~。日本人もオーディションで8人加わっていたので
きっとDVDになりますよね!終わったあとも舞台から降りて何度も手を振ったり投げキッスしてくれて、感動しました。
posted: むせお (2006/05/17 2:09:09)
コメントありがとうございます。
>Fujieさん
私もまだ夢の中でございます。こういう舞踊家と同時代で生きてるんだなあ…などとぼんやり考え込んでみたり。
>むせおさん
兵庫、終演後はグッズ売り場に大勢が殺到してましたね。私は開場と同時にグッズコーナーに走るヒトなんで(笑)、終演後の混乱には関係なかったんですが、あの勢いではDVDも一瞬で完売してたかもしれませんね。
posted: とんがりやま (2006/05/17 12:10:41)
オーチャードホールで3夜連続堪能してきました。
先行予約開始後すぐに予約したおかげなのか、初日は7列目、15日は最前列、16日は4列目で、マリア・パヘスの表情をしっかり目に焼き付けてきました。 買ったCDにサインを貰いました。 グラビアや映像や舞台上の顔付きからは 「猛女」 という印象があったのですが、意外と細面で深い眼をしていました。 微笑みながら小さな声で 「グラシアス」 と言ってくれました。
しばらく社会復帰が困難です・・・・・。
posted: 雪化粧の男 (2006/05/18 22:41:09)
>雪化粧の男さん
コメントありがとうござます。
げげ。3日連続ですか。うらやましすぎます〜。最前列ということは、フィナーレ後の挨拶は文字通り目と鼻の先だったんではないでしょうか。いいなあ。
> しばらく社会復帰が困難です
ですよねえ。次回公演のためにせっせと貯金しておかなくちゃぁ、と思って働くことにします(笑)
posted: とんがりやま (2006/05/19 13:21:23)