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マリア・パヘス、走り続けるダンスの化身(追記)

●Compañia María Pagés 《Sevilla》
公演プログラム
朝日新聞社+カンバセーション発行/2006年5月
デザイン:宮地功(共立コミュニケーションズ)
…いやはや、それにしても、だ。いったいこの人のコンセントレーションの高さ、つーか密度の濃さは、どこから来ているんだろう。
『リヴァーダンス』はもちろんのこと、マリア・パヘスの来日公演は可能な限り見続けている私でありますが(愛・地球博にも来ていたんだが見逃した…orz)、毎度驚かされるのは「この人の辞書にはスランプってコトバがないのかしらん」ということ。舞台の上で常にベストを尽くすのはまぁ当然としても(凡人にゃそれすら尊敬に値するんですケドね)、表現のレベルの高さが半端ねぇ、というか公演のたびごとにどんどん高みにいっちゃっているんであります。
マリア・パヘス、この方ははたしてどこまで行ってしまうんでしょうか。
今回の来日公演は世界初演となる『セビージャ Sevilla』。ふつうのガイドブックだとセビリア、もしくはセビーリャと表記してますが、南スペインの古い街であります。フィガロっつー名前の散髪屋さんで有名ですな。と、もちろんそれだけではなく、伝統ある街ならではの風物がたくさんあります。って、ワタクシ一度も行ったことがないんでアレですけど。
バリオ・サンタ・クルスの風情あふれるパティオ(中庭)、カルメンゆかりのタバコ工場、セマーナ・サンタの神秘的なお祭り、全スペインで一、二を争う規模を誇るラ・マエストランサ闘牛場。そして大聖堂とその横にそびえるヒラルダの塔…。いま、手許にある観光ガイドブックから名所を適当に抜き出してみましたが、これらの全てがこの作品内に取り入れられているんですね。
そしてまた、『リパブリック Republic』や『ラ・ティラーナ La Tirana』で観客を楽しませた数々の趣向——豪快かつ華麗なマントンさばきやリズミカルなアバニコ、カスタネットのソロ、そしてスクリーンのうしろで画像と一体化する視覚トリックなどなど——も盛りだくさんだし(さらに新趣向もある)、なんといっても今作はマリア自身の出番が非常に多いのがファンには堪らない。まったく、疲れるってことを知らないんじゃないのか。なんてタフなんだろう。
マリア・パヘス自身の生まれ故郷であるセビージャの街の魅力と、これまで彼女が切り開いてきた劇場型フラメンコの可能性をミックスさせ、ぎゅぎゅっと濃縮させた全一幕・90分のステージ。いやもう、心ゆくまで堪能させていただきました。
見どころがいっぱいありすぎて、というかワタクシいまだ興奮さめやらぬ、といったところなんで、観てきたステージの全てを冷静にスケッチするのはちょっと手に余る作業なんですが、特に印象に残ったシーンを、メモがわりに列記してみます。
・オープニング。客席が薄暗くなって、しかし完全には照明が落ちないまま、三拍子の曲が流れる。やがて会場が真っ暗になり、しばらくしてようやく幕が上がる。舞台中央には、くるくると回転しているマリア・パヘス。他のダンサーたちは彼女を眺めている。ひとしきり廻りきったあと、全員が踊り出す。背景は夏の夕暮れのパティオだろうか。
・ミュージシャンは6名。ギター2名、カンテ2名(大好きなアナ・ラモンは今回も凄かった!)、パーカッションに加え、チェロが非常に大きな役割を果たしていた。チェロが一台プラスされるだけで、音楽にこれだけ厚みと広がりがでるものなんだぁと、びっくり。
・とはいえ全編生演奏ではなく、録音も多用。もちろんそれだけの必然性があるが故で、音楽に対する造詣の深さとセンスの良さを伺わせる。「カルメン」のソロで使われていた古い録音、あの歌手は誰なんだろ。レコードが欲しいなあ。
・群舞は総勢16人。さすがにこれだけの人数が一斉に踊り出すと迫力満点。今回、その半数(男女各4名ずつ)を日本人ダンサー(小松原庸子スペイン舞踊団)が占めている。群舞の振付はマリア・パヘスの得意とするところでもある。
・マリアのソロはいくつあったっけ? ほとんど出ずっぱりなんじゃないかという印象がある。闘牛場のシーンも凄かったが、そのあとのソロも鬼気迫るものがあった。パルマ(手拍子)が二名、ミュージシャンの陣取る舞台下手に立ち、そのリズムにあわせてマリアがソロを踊るのだが、両者のあいだに見えない糸がピンと張りつめているかのような、ものすごい緊張感があった。その見えない糸は、客席に座っている我々からの視線と舞台後方に配置されたダンサーたちの視線からも発せられていて、全ての視線が幾層にも織り重なり、まるで荘重なゴブラン織りのよう。その中を、マリア・パヘスは延々と踊り続けるんである。まるで全世界を相手にたったひとりで屹立し続けるかのような、強烈な彼女の意志を、私はそこに見た。鳥肌が立つどころの騒ぎではない。ことここに至って、私は観ているうちに泣けてきてしょうがなかったのだ。ホントにいったい、なんなんだこの人は。宇宙の全てを背負って立つつもりなのか。
・マリア・パヘスは相当なダンスおたくである。というのが私の持論なんだが、特に、古いハリウッド製ミュージカルが大好きなんだろうなあって気がする。つーか、振付をやる人って、今でもバズビー・バークリーから多くを盗んでいるんじゃないだろうか。光る靴の小粋なシーンに和みながら、ふとそんなことを感じた次第。
・同様に、80年代ポップス・シーンで一世を風靡したMTVにもずいぶんハマっていたんだろうなという気がする。世代的にも彼女の青春時代とぴったり重なるはずだし。多分に映像的な舞台づくりと照明設計は、もちろんパートナーであるホセ・マリア・サンチェスの力によるところが大きいんだけれども、マリア自身の趣味やセンスによりマッチしていることは間違いないと思う。
…ことマリア・パヘスのこととなると、いくらでも書けるなあ(笑)。我ながら苦笑するしかありませんです。きりがないので、まぁこのへんで。
次回の来日公演はいつになるのかな。また2年後なのかな。その時には、またもやこちらの想像をかる〜く上回る、凄みのあるステージで魅せてくれることでしょう。その日が来るのを、今から楽しみに夢見ているワタクシなのでありました。
え? 気が早すぎますぅ?
【5/18追記】
なんか社長のブログに大きく出とりますが(汗)『月刊パセオフラメンコ』誌に無理矢理…いやちがった、脅迫…いえなんでもないです、えーと、畏れ多くも公演評を書かせていただきました。ボツになってなければ8月号(7/20発売)に掲載されるとのことですが、はっきりと何年とは書いてないので、ひょっとすると西暦2634年の8月号かもしれません。ご用とお急ぎでない方は、本屋さんで見かけた節には何卒よしなに。
2006 05 17 [dance around] | permalink
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comments
いやあ、アップ早かったねえ、うれしーよ。
私は15日のを観たんだが、もうメロメロでしたわ。
で、ずっとその余韻を引きずりっ放しだったのだけど、これを読ませてもらって、さらにあの快感が増幅されてる感じだ。私の方にトラックバックしてくれると有り難いんだが。
ところで、うちの編集長のレビュー原稿依頼を受けてくれてどうもありがとう。オレはノータッチなもんだから、うれしビックリだったよ。
あ、それからマリアのインタビューだけど、掲載号は未定とのことでした。
posted: 社長 (2006/05/17 20:29:55)
コメントありがとうございます。
>あ、それからマリアのインタビューだけど、掲載号は未定とのことでした。
あららそーなんですか。楽しみに待ってま〜す。
>トラックバック
トラバせずにはいられないような記事をアップしてくだされば、いつでも(^_^)/
posted: とんがりやま (2006/05/18 0:48:24)
あら、おめでとうございます。
いよいよメジャーデビューですね。
posted: Fujie (2006/05/19 0:07:18)
>Fujieさん
いえいえとんでもない、たぶん最初で最後ですよ(^_^;)。それよかFujieさんのレビューも読ませてくださいねっ。
posted: とんがりやま (2006/05/19 13:24:05)