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生きるためのレクイエム 《バレエ・フォー・ライフ》

BÉJART BALLET LAUSANNE JAPAN TOUR 2006
●東京公演I 2006年6月15日(木)〜18日(日)「バレエ・フォー・ライフ」 ゆうぽうと簡易保険ホール
●東京公演II 2006年6月21日(水)〜23日(金)「愛、それはダンス」 ゆうぽうと簡易保険ホール
●西宮公演 2006年6月25日(日)「愛、それはダンス」 兵庫県立芸術センター
●松戸公演 2006年6月28日(水)「愛、それはダンス」 聖徳学園川並香順記念講堂(学内公演)
●大分公演 2006年6月30日(金)「愛、それはダンス」 iichikoグランシアタ
●大阪公演 2006年7月1日(土)「バレエ・フォー・ライフ」 フェスティバルホール
●松本公演 2006年7月3日(月)「愛、それはダンス」 まつもと市民芸術館
●東京公演I 2006年6月15日(木)〜18日(日)「バレエ・フォー・ライフ」 ゆうぽうと簡易保険ホール
●東京公演II 2006年6月21日(水)〜23日(金)「愛、それはダンス」 ゆうぽうと簡易保険ホール
●西宮公演 2006年6月25日(日)「愛、それはダンス」 兵庫県立芸術センター
●松戸公演 2006年6月28日(水)「愛、それはダンス」 聖徳学園川並香順記念講堂(学内公演)
●大分公演 2006年6月30日(金)「愛、それはダンス」 iichikoグランシアタ
●大阪公演 2006年7月1日(土)「バレエ・フォー・ライフ」 フェスティバルホール
●松本公演 2006年7月3日(月)「愛、それはダンス」 まつもと市民芸術館
(写真・日本公演パンフレット)
発行・編集:財団法人 日本舞台芸術協会
デザイン:プラスアイ(鳥巣三津子)
モーリス・ベジャール・バレエ団の2年ぶりの来日公演。今回のプログラムはふたつあるが、私が観たのは《BALLET FOR LIFE》のみである。西宮公演はNDT I と重なったので泣く泣く断念したのだが、やっぱりあちらも観ておきたかったなあ。
クイーンのヒットナンバーがたくさん出てくるこの作品は、1991年に亡くなったフレディ・マーキュリーと、そのちょうど一年後に没したジョルジュ・ドン(奇しくも享年はともに四十五だった)へのレクイエムのようなバレエだ。フレディをはじめとするAIDSによって命を奪われた人々への、あるいはクイーンとともに楽曲が使用されているモーツァルトをも含めて、普通の人よりもはるかに早くこの世から去った全ての若い才能たちへの、鎮魂の歌でもある。
…というような「作品解説」は、私はあとから知った。以前友人からこの作品のビデオを観せてもらったことがあるのだが、そのときはなんの予備知識もなく、ただ「楽しいエンターテインメントじゃん」と思いつつ眺めていた。今回初めてライヴで観て、印象ががらりと変わった。
もっとも、手放しで「楽しい」と言っていいかどうかはともかく、エンターテインメントであることには違いあるまい。総勢30人以上はいただろうか、迫力あふれるダンサーの身体群に見とれるもよし、怒濤の如く押し寄せるクイーンのナンバーに身を委ねるもよし、ヴェルサーチのデザインした衣装(特に女性ダンサー用のカラフルなドレスが美しかった)に目を瞠るもよし、ときどきインサート/引用される映像の元ネタを探るもよし(ちなみにヴィデオのひとつはフリッツ・ラングの《メトロポリス》の由。あと、グルーチョ・マルクスが写真パネルと音声で登場するのだが、あれはどの映画からかな)、ユーモアもそこかしこに見られる。楽しみ方はいろいろある。
印象に残る場面や好きなシーンはいくつもあって数え切れない。ひとつだけ挙げると、ウェディングドレスと燕尾服の男女、二台のストレッチャーに横たわる男女、彼らをとりかこむ男女4人の医師と看護師、の計8人が登場するシークエンス。結婚する男女は言うまでもなく新しい生命の誕生を示唆しているし、横たわる男女と医師たちは死に至る病をあらわしているのだろう。両者は前半こそ同じ舞台上で別々の存在なのだが、やがて渾然一体となり、次々にパートナーをスワップしつつ官能的なバレエを踊る。ベジャール一流の「エロス/タナトス」観が、誰にでもわかりやすいかたちで提示される。衣装やマイムのひとつひとつに過剰なほどの意味があふれるあたりが、まことにベジャールらしいと思った。
この作品には愛がいっぱい詰まっている。それも、非常に多くの種類の「愛の形」がここにはあると思う。自己愛、同性愛、異性への愛から隣人愛、もっと広く人類愛まで。観念的な情愛もあれば肉体的な性愛の成分も濃厚だし、そしてもちろん音楽への愛やダンスへの愛もたっぷり含まれている。言うまでもなくこの作品の基調にはモーリス・ベジャールその人のジョルジュ・ドンに対する愛があるのだが、その思いはかくも広く深く、かつ非常に複雑でデリケートだったんだなあと、しみじみ考え込んでしまった。
ここには「死」そのものへの愛さえもあるように、私には感じられた。なにしろ、それが早いか遅いかはさておき、人は誰でもその死からは逃れることができないからだ。そして、動かしようのないその事実に対して、ベジャールが作品のいちばんラストに置いた曲は〈The Show Must Go On〉だった。
そのメッセージは、死に向かって日々を生きていく我々に向けられたものだったのではないか。レクイエムを、ただ死者に対するだけにとどめることなく、明日を生きていく者たちに向けて、ベジャールは限りなくポジティヴなレクイエムを最後に用意していたのだ…と思った。
ともあれ、《BALLET FOR LIFE》は振付家のきわめて個人的な思いをストレートに(というより濃縮還元100%といった感じで)表現した作品である。かくもパーソナルな創作動機から、かくも大きな舞台作品を創りあげるところにこの振付家の本領があると思う。いずれにせよ本作は相当ユニークな——それだけに他のカンパニーではまず再演できない類の——作品であることは確かだろう。
なお、2007年元旦に80歳を迎えるモーリス・ベジャールだが、来日直前にドクター・ストップがかかったと聞く。今回来日できなかったことは大の日本びいきもであるベジャール自身がいちばん残念だったことだろう。一日も早いご快復を祈ります。
(2006年7月1日・大阪フェスティバルホールにて)
2006 07 03 [dance around] | permalink
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