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踊る江戸絵画〜プライスコレクションから

 

Price_jakuchu

 
●プライスコレクション 若冲と江戸絵画
 2006年7月4日〜8月27日 東京国立博物館
 2006年9月23日〜11月5日 京都国立近代美術館
 2007年1月1日〜2月25日 九州国立博物館
 2007年4月13日〜6月10日 愛知県美術館
 【東京展図録】
 編集/東京国立博物館+日本経済新聞社/2006年7月刊
 デザイン:桑畑吉伸
 
 出品絵画の全画像を含む公式ブログの開設など、細やかなプロモーションでも話題の「若冲と江戸絵画」展に行ってきた(オフィシャルサイトはこちら)。実はこの展覧会、てっきり東京だけかと思いこんでいたので勇んで上野まで出かけたのだけど、あとで京都でもやると知ってがっくりきたのは内緒です(^_^;)。でもまあ、東博に行けたのはよかったかな。京都の博物館とは全然違って、とても広くてゆったりしているのは実に羨ましい。京都のあの建物は妙に圧迫感があって、ワタクシ昔からどーも好きになれないんですよねぇ。
 図録には東京展の情報しか掲載されてないんだけれども、もしかしてカタログ自体も東京展オリジナルなんだろうか。まさかねえとは思うものの、なんだかずいぶんカネのかかった展覧会と見受けられるし、それぞれの会場で独自の展示方法や独自のカタログ制作ってのもあり得ない話でもないのかも。  
 内容はさすがに充実していて、たっぷり楽しませて貰った。ただ、目玉の若冲は思ったより少なめだった気がした。まあ、私は2000年に没後200年記念展を観ているので、衝撃度が低かっただけなのかもしれないけれど。
 
17c 私は若冲よりもそれ以外の作品に見入る時間が長かった。後半の、照明をじわじわと変えていく展示手法にもずいぶん感心したが、もっとも熱心に眺めたのは「遊興風俗図屏風」という小振りの屏風。17世紀頃の作品で、作者名は不詳とのことだが、人物が実にいきいきと描かれている。
 八曲一双のこの屏風、左隻の中央二面を使って、環になって踊る人々が描かれている。公式ブログには紹介記事と共に全体の画像も掲載されているが、ここでは当該部分のみをトリミングした上で、引用させていただく(図版左)。
 とはいえ、これじゃあ小さくてよくわからないかもしれない。だいたい屏風や絵巻などは、よほど重要なものでない限り、図録でもわざわざ部分アップしてまで掲載してくれないもの。こればかりは実際に会場に行って、何なら双眼鏡か単眼鏡を持ち込んで、じっくりと瞼に焼き付けてくるしかないんでありますね。
 記憶を元にざっと説明すると、まず環の内側にミュージシャンがいる。三味線がひと棹、三味線弾きの奥にいる女性は何をしているのか不明だが、左側に小鼓がふたり、これもよくわからないがたぶん笛吹きがひとり。その間に立つ男性はおそらく謡っているんだろう。三味線の右側にも太鼓がひとり、さらにその右には、ダンサーに向かって手拍子をとっている人もいる。一応パーカッション・メロディ楽器・ヴォーカルと全部揃った“ダンス・バンド”である。手拍子を取っているひとはいわゆる“コーラー”かもしれない。
 踊り手は全部で25人。編み笠を深く被ったり、頬被りをしている人が約半数いるが、仮面舞踏会って感じなんでしょうかね。二本差しもいれば坊主もいる、揃いの衣装の女性陣もいる、というバラエティ豊かなメンバーで、要するに盆踊りみたく自由参加のフォークダンスといったところか。画面奥の女性陣は振りが見事に決まっていて、絵画だからひとりずつ異なる動作が描かれているけれども、これがアニメーションのコマ送りのように見えて、この一群の流れるような動きがすばらしい。そのなめらかなダンスはそのまま左端の坊主ふたりから手前の若衆の一群まで続いていて、手の動きや腰の振り方など、ほれぼれするほど音楽的だ。
 手前右側には、そんな流れをぶったぎるかのように、田舎侍ふたりが無手勝流よろしく滅茶苦茶に暴れている。拳を突き上げ、ついでに雄叫びも発しているようだ。おそらく酔った勢いの飛び入り参加なんだろう、調和の取れたダンスの環の中でこの二人だけがバランスを崩しているのが非常に愉快。いかにも「教養もセンスもない粗暴な野郎ども」っていう感じが、ふたりのポーズで端的に表現されている。
 もちろんこの二人を咎める野暮な者もおらず、ダンスの環をとりまく観客も含めて、画面は平和そのもの。題名通り当時の「遊興風俗」の様子がとてもよくわかる作品となっている。
 どういう立場/身分の人たちの集まりなのかはよくわからないが、少なくとも踊りに興じているこの瞬間だけは、みな平等に楽しんでいる様子がうかがえる。踊っている場所も、おそらく街頭というかふつうの辻なんだろう。
 
 
Gunbu この作品とまったく対照的なのが、鈴木其一「群舞図」(図版右。オフィシャルブログの記事画像。図版はこの画像をリサイズして引用させていただいた)。絵柄の元ネタは17世紀(寛永年間)まで遡れるそうだが、この作品じたいは19世紀に描かれたものという。こちらは男女5人のダンサーが描かれているが、ファッションもポーズもばっちり決まっている。髪が乱れているところを見てもそうとう激しい動きなんだろう。けれども、絵としては一瞬を高速シャッターで捉えたかのようにびしっと静止している。私はこの絵を見たとき、ダンサブルなJ-POPグループのCDジャケットみたいだな、と思った。今だったらたとえばKAT-TUNとかになるのかな。よく知らないんだけれども。
 絵画としてとても洒落てるし、色遣いもタッチも相当洗練されている。金の無地バックにポーズを決めまくる5人は、このままシルエットになってもおそらくかっこいいはず…なんだけど、しかしよく見ると、彼らのなんと無表情なこと。眼がまったく笑ってないし生気もない。顔が描かれているにもかかわらず、個性らしき表現が全くないのだ。
 ここでの人物は、ただ画家の構想したレイアウトに沿って当てはめられているだけの「素材」であり、画面全体としてリズミカルな音楽は感じられるものの、ダンスそのものの喜びを描いたものではない、と私は思う。先の17世紀の屏風とはそこが決定的に異なっていて、あちらは踊る楽しみ(全体の主題はダンスだけではないが)、踊っている時のあのわくわくする「気分」がそのまま描かれている。対してこちらはあくまで「観客からの視点」であり、脳内で再構成された「抽象化されたダンス」だと言えるだろう。
 そもそもの着眼点も違えば表現したい内容も全く違うので、両者の優劣をつけることはできないのだけれども、どちらが好きかと問われれば、私は迷うことなく屏風を取る。なるほど、緻密な画面構成や描写の巧みさでは鈴木其一が一歩も二歩も上に違いないだろうけれども。
 
 両者の違いを、17世紀的感性と19世紀の美意識の差と捉えてしまうと、それはそれで問題だろう。其一のもつデザインセンスは、19世紀的という以上に、江戸時代というひとつの文化の精華とその終焉を体現しているという方が、より近いのかもしれない(彼の没後わずか10年で時代は明治になっている)。江戸の美意識の洗練が行き着いた果て、爛熟した閉塞感とかある種の煮詰まった感じまでが、其一の作品からは感じられてならないのだ。
 つまるところ、私は「群舞図」では萌えないんである。それは私が、今どきの流行りのポップスがどれも精緻な計算のもとに作られたあざとい音楽に聞こえてしまう耳の持ち主であることと無関係ではないと思う。「遊興風俗図屏風」に見るような、粗野で泥臭いけれどものんびり牧歌的なダンスとその音楽の方が、自分には合っているのだろうな、たぶん。
 
 
 若冲どころか、プライスコレクションの全出品作のなかでもそれほど目玉作品というわけでもない2作のみをやたら取り上げてしまった。もちろん以上の感想は非常に個人的な見方なので、この文章にはなんら一般性があると思わない。それはともかくとしても、この展覧会は二度三度と足を運ぶだけの価値があることには間違いがないだろう。秋になったら京都で再会できるのが、今からとても楽しみであります。

2006 07 25 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

23日(日)夜の教育テレビ特集番組を偶然、観てしまいました。いやぁ、プライスさんのこだわり、すごいですねぇ。

曰く「江戸時代はガラスケースなんてなかった」「自然光(に極力近い条件)で観るべき」

『欧米の・・・』なんていう言い方は好きではありませんが、やっぱり向こうの「お金持ち」は違いますね。

前回(6年前でしたっけ?)、京都での若冲展は見逃したので、今回は必ず行きます。

posted: (2006/07/26 0:45:54)

 コメントありがとうございます。ああっ、その番組は見逃しました(T_T)。
 今回の展示手法を歯ぎしりしながら見ている学芸員も多いでしょうね。個人コレクションだからこそ可能だった、と言えるんではないかと。これも一種の「外圧」かもですが、とにもかくにも「前例」を作ってくれたわけですし、今後他の展覧会でも試みて欲しいと思いました。
 京都展は京博ではなく近代美の方ですが、あそこ狭いからなあ。東博平成館のゆったりとした展示とは、少し異なるかもしれません。さてどうなりますやら、楽しみです。
 2000年の若冲展をご覧になってないのであれば、やはり何をおいても「鳥獣花木図屏風」は見逃せないでしょうね。あのヘンテコさはちょっと例えようがないです。

posted: とんがりやま (2006/07/26 22:47:23)

 見に行かなくてはと思いつつ、金欠と修羅場の二重苦。8月後半には何としても行くつもりですが、こんな本が出るそうで。そんなカネはないぞ。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/409681881X/503-4686488-9024721?v=glance&n=465392

posted: (2006/08/05 8:18:22)

 情報ありがとうございます。あーなんかその本、売店に飾ってあったかも。高すぎなのでスルーしましたが(笑)。

>8月後半には何としても行くつもり
 何でしたら、秋の京都におこしやす(^o^)/

posted: とんがりやま (2006/08/05 11:08:07)

 

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