海を見に行く・2006年夏（1）

　

　新しく手に入れたスクーターは車体も大きいので、街中を細かく乗り回すというよりも中長距離をどんどこ走る方が向いている。高速道路でのタンデムが解禁されたこともあって、大型スクーターはロングツーリング向けとして売れているらしいのだ。
　
　私の場合はタンデムではなくひとり旅だけれども、せっかくの夏休みなのでどこかに行くことにした。事前になんの計画もない、まったくのいきあたりばったりである。そうだな、海でも見に行くことにしようか。ふだん山に囲まれた盆地の中で暮らしているから、海には全く縁がない——と、これは以前書いたっけ。「海を見る」にはそれなりのちょっとした決意みたいなのが必要なんである。なにしろ子供の頃、生まれて初めて見た“うみ”は琵琶湖だったりするし。
　
　一昨年の秋に太平洋側に行ったので、こんどは日本海にしよう。しかし世間は盆休みの真っ最中、海へと続く道はどこもかしこも混んでいると思われる。
　案の定、京都府を北上する道路は軒並み渋滞だった。身動きできない自動車に比べると、小回りのきくバイクははるかにマシとは言え、それでもノロノロ運転はストレスがたまる。それに雲一つ無い厳しい日差しをまともに浴びつつなので、意外に体力も消耗していたりする。旅のあいだじゅう、普段は口にしないスポーツドリンクをめったやたらに飲んでいた。市販のスポーツドリンクってそのまま飲むのではなく、水で薄めるくらいがちょうどいいらしいんだけれど、あいにく水筒など持ってきていない。
　
　そうこうしているうちに、無事目的地に着いた。日本三景の一つ、天橋立である。

　海水浴客でごった返す海岸を離れ、籠神社から傘松公園の展望台に登る。しかし風もなく、ただでさえキツイ日差しが余計にキビシク感じられて、目眩がしそうである。
　
　バイクという足があり、しかもソロツーリングである。勝手気ままができるのが最大の魅力なのだが、しかし今回、それに非常に重大な欠点があることに気がついた。
　
　
　ビールが飲めねぇ（T_T）
　
　こんな快晴の真夏日、海を眺めながら飲むビールは最高にうまいはずなんだが、こればっかりはしょうがない。もうほとんど苦行（笑）。泣きながら山を下りる。しくしく（おおげさ）。
　
　昼飯を食おうにもドコがいいのかさっぱりわからない。駅の近くで適当にすませ、バイクに跨って（つーかスクーターなので、座って、だな）海岸に沿って東をめざす。
　
　宮津市内を足早に通り抜け、舞鶴の海上自衛隊基地を横目に見つつ、福井県へ入る。
　ゆっくり走っているうちに日が傾きかけてきた。いつまでも夏だと思っていたが、さすがに昼が短くなり、かすかに秋の気配も感じられる。がんばれば今からでも自宅に帰れないこともないのだが、せっかくなのでもう少しこの周辺でのんびりしたい。
　たとえば、高浜から敦賀あたりまで、若狭湾周辺は原子力発電所が密集している。いわゆる“原発銀座”だ。なかには原子力発電のPR館を併設している発電所もあるので、できることならどこかに立ち寄りたい。小浜の蘇洞門巡りも面白そうだ。三方五湖も走ってみたいし…ということで、急遽宿を探すことにした。とりあえず小浜市内を目指してひたすら走る。
　
　しかし、なにせお盆のかき入れ時である。小浜駅前の観光案内所では、私と同じようにその日の宿を探す家族連れがいっぱいで、どうやらどこも空いていそうにない。しょうがないので小浜はあきらめ、さらにその先へ向かう。結局、若狭町の国道沿いの安いビジネスホテルに飛び込んで、ようやく寝る場所を確保した。そういえばキャンプ道具をいっぱい積んだバイクにも多数すれ違ったけれど、アレはアレでお金がかかりそうだしなあ。野宿やキャンプが趣味の人はいいけど、こっちはまるきりの素人だ。おとなしくビジホを利用させてもらうことにする。
　もとより一泊するつもりなどなかったので、コンビニでTシャツなどを買う。とにもかくにもシャワーを浴びて、缶ビールをごくごく。あー、やっとビールにありつけたぁ（涙）。…つづく。