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[CD]:Mountain Tail

 
 細々ながらもウェブログを続けていると嬉しいこともあるもので、先日も古いエントリにコメントを寄せてくださった方がいた。ありがたいことであります。
 そのうちのひとつ、トゥバの話はちょうど2年前の今頃に書いたエントリだ。実は書いた本人も内容を半ば忘れていたんだけど(^^;)、そのエントリを読み返していたらやたらにホーメイが聴きたくなった。CDラックを漁りながら、そういえばこんなCDもあったっけ、あのアルバムは何処だろうと、連想ゲームのように何枚か引っぱりだした。
 
 そんななかの一枚。
 

Mountaintale

●The Bulgarian Voices ANGELITE & Moscow Art Trio with Huun-Huur-Tu
 >>MOUNTAIN TALE<<
 JARO 4212-2/1998年
 
 このアルバムは、日本でも2000年に北中正和さんの解説つきで発売された(邦題『マウンテン・テイル』クレプスキュール・オ・ジャポン CAC-0061)ので、ご存じの方も多いかもしれない。ネット上ではgingerpopさんが詳しいレビューを書いておられるので(古今東西音楽館増築部:ブルガリア, トゥバ, ロシアの三種混合)、どうぞそちらをご覧ください。…と、リンクしてしまえばもう私に書くことは残っていないのだけれども、まあついでなのでもう少し。
 
 
 gingerpopさんも上のエントリで「しっかりとコントロールされた音楽」と指摘しておられる通り、このCDはかなり計算して作り込まれている。音楽監督はモスクワ・アート・アンサンブルのピアニストMilhail Alperinという人で、ブルガリアン・ヴォイスとトゥバのホーメイを、ひとつのアンサンブルにまとめなければならないのだからかなりの力業のはずだが、実に自然に聞こえるのは、さすが旧共産主義圏の底力というべきか。少々大げさに言えば、このアルバムもソヴィエト連邦時代から培われた文化的遺産のひとつの成果なんだろう。
 
 ついでながら、ロシア発信のジャズ〜ワールド・ミュージック・シーンはとても刺激的で面白い。思いつくまま挙げても、トゥバの Sainkho はモスクワ経由で世界に活躍の場を広げたし、ノルウェイの Mari Boine が Farlanders と組んだ一枚も忘れがたい。そのマリ・ボイネがゲスト参加したこともある (Vershki Da Koreshki)はアムステルダムのバンドだが、アフリカ(セネガル)×アジア(トゥバ/インド)の異種格闘技をまとめあげているのはふたりのロシア人だったりする。
 モスクワの音楽シーンを系統立てて語れるほど詳しくないしキーパーソンとかそういうのも全然知らないんだけれども、よくわからないまま買ってすごく気に入ったアルバムが、英文ライナーノートをよくよく読んでみたらことごとくロシアつながりだった、という経験があるので、彼の地はかなり気になるのだ。ここ1〜2年は新しいCDを買うこともほとんどなくなり、その手の情報にもすっかり疎くなってしまったんだけれども、こういうエントリを書いているとまたぞろ血が騒ぎ出してくる。困ったものであります(笑)。
 
 
 …話を戻して、と。
 

  1. Midnight Tale trad.
  2. Sunrise trad.
  3. Early Morning With My House trad.
  4. New Skomorohi M.Alperin
  5. Sad Harvest trad.
  6. Mountain Fairy-tale trad.
  7. Dancing Voices trad.
  8. Grand Finale trad.
  9. Epilog trad.
     〜Bonus track〜
  10. 300 Pushki Stojan Gagov

 ボーナス・トラック以外でオリジナルは1曲のみ、他は全てブルガリア/トゥバ/ロシアの伝統曲を使用しているが(アレンジは全て M.Alperin)、「素材をそのまま」ではなく自在かつ大胆に再構成されているのが特徴。曲名が、たとえば最後の方は〈グランド・フィナーレ〉や〈エピローグ〉などとつけられていることからもわかるように、一枚のアルバムをまるで一幕ものの舞台作品のように見立てて作られている。
 
 「自在かつ大胆な再構成」と書いたが、このCDの最大の聴きどころはブルガリアとロシア、トゥバとブルガリア、あるいは三種の競演と、ひとつの楽曲のなかで2種類以上の異なる民謡が同時に演じられる、というところにある。テンポもメロディも(もちろん言葉も)全然違うのに、ひとつの音楽としてとても自然に聞こえるから不思議だ。
 
 …たとえば、見知らぬ異国の地に旅行に行って、現地の人たちの暮らしぶりや生活のリズムが自分たちのそれとは全然違うことに気づいて軽くびっくりするような、ああいう感覚。
 
 …またたとえば、人はみんなそれぞれの暮らし方をしていて、流れている時間とその使い方もそれぞれに違うんだけど、けれども誰のもとにも一日は平等に24時間なんだよなぁ…みたいな感覚。
 
 違うんだけど同じ。同じなんだけど、違う。このアルバムにはそういうふうな、ちょっと新鮮な感動が再現されているように思う。ブルガリアとトゥバという、全く異なるふたつの「時間」(それは農業の国と遊牧の民、というような単純な構図でもないんだろうけど)を無理矢理ミックスさせるのではなく、それぞれを独立した存在として扱い、それでいてひとつの楽曲として違和感なくパッケージする、その手腕が小気味いい。
 この『Mountain Tail』はロシアでなければ作られなかったアルバムであり、モスクワでなければ生まれなかったサウンドである、と言っていいだろう。同じ「多民族国家」といっても、たとえばアメリカ合衆国あたりの音楽とはひと味もふた味も違うセンスじゃないかなという気がする。<国家の解体>という経験の有無の差——とまで言うと、さすがにあまりに大風呂敷すぎるかもしれないんだけれども。
 

2006 08 27 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

はじめまして、友人にこのブログを教えて頂き、いつも楽しく拝見させていただいております。閲覧に興味を持ったきっかけはヴァルッティナとロイツマです。とんがりやま様は絵画等の芸術分野に非常に精通しておられますし。音楽などのエンターテイメント等にもお詳しいようで、凄く勉強になります。トゥバの音楽も好きと言う事で、僕もフーン・フール・トゥやタルバガン等のトゥバ音楽が大好きであります。ブログを見ていると、とんがりやま様は黒谷の永運院や市役所前のtaraにも良く行かれるようですね。僕らもその手のところに時々出没しておりますので、どこかで知らないうちに顔を合わせるかも知れないですね。このブログにて色々な事が学べるよう、楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします。でいきなりですが今月9月21日(木)黒谷永運院にてアルタイ共和国のボロット・バイルシェフのユニットでの即興ライブがあるようですね。
ホームページhttp://www.kbic.ne.jp/~viewboo/mai2-69/
前回はおととしやったのですが、行けなくて残念でした。今回は何とか行きたいと願っております。僕も今トゥバ音楽の方は少し休み気味でフィンランド音楽等を主体に聴いております。また今後の色々な音楽の情報も楽しみにしております。どうぞよろしくお願い致します。

posted: えいすけ (2006/08/29 1:45:02)

 はじめまして、コメントありがとうございます。つーか「様」はどうぞご勘弁、普通でいいですよぉ。
 「勉強」とお書きですが、私は気分屋で主張にほとんど一貫性がないので、エントリごとに意見がコロコロ変わります(苦笑)。なので、せいぜい「参照」程度にしておいていただく方が、よろしいのではないかと思います。
 
 ところで、21日の永運院、面白そうですね。巻上さんも来られるのでかなり惹かれるイベントなんですが、どうもその日は無理っぽいかも。よろしければ、また感想をお聞かせください。

posted: とんがりやま (2006/08/29 20:57:12)

 

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