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Konono@ラブリーホール、第二夜
9月3日(日)。昨日よりも暑くていい天気だ。バイクに乗って、ふたたび河内長野を目指す。
前日と同じ道を走るのも面白くないので、別ルートを探す。国道24号線を使って奈良県を一気に縦断し、和歌山県に入る直前の五條市から国道310号線で金剛山を越えることにした。かなり遠回りにはなるんだけど(距離にして約1.5倍)、よりツーリングっぽくて大変気分がよろしい。上の写真はその金剛山からの眺めであります…てな話はどうでもいいですかそうですか。
ついでだけど、奈良県って道路がきれいだ。24号線は京都府から奈良県に入ったとたんに広々とするし、310号線も峠のトンネルを越えて「大阪府」の標識が見えたら急にガタボコになった。なんだか笑っちゃうくらい極端だ。
そのコンゴウ山の麓にある河内長野に、コンゴから最強のバンドがやってくる…てなくっだらねぇオヤジギャグをかましつつ、ラブリーホールに到着。
会場前のエスニック屋台は今日も盛況。会場内のイベントも盛りだくさんだが、なかでも昨日の出演者のひとりでもあるサカキマンゴー氏のトークショーがきわめて面白かった。
サカキさんはタンザニアの親指ピアノ「リンバ」をはじめ各種アフリカ楽器の演奏者で、昨夜のライブでは電気リンバを手にダブ〜ミニマム系(っていうのかな、このへんの音楽ジャンルはよく知らないんですが)を演っていた。かなり尖端的な音楽だったのだが、この日のトークショーではより伝統的な演奏や、アンプを通さない生リンバの実演などもあって、とてもいい感じだった。
この中で興味深い指摘がいくつか。メモを取っていなかったので細かな固有名詞などはすっかり忘れてしまったが、たぶんキンシャサ郊外(コンゴ民主共和国=旧ザイールの首都)での話だったと思う。リケンベが儀礼的風習に使用されている例を紹介していた。灯りの一切ない真っ暗闇のテントの中、悪病や精神的な疾患に悩むクライアントの依頼によって、数人の音楽家(リケンベ+打楽器のカヤンバ)が同じリズム、同じ歌詞(「鳥が空を飛んでいる」という内容だそう)を延々(5時間!)くり返す。そのうちに依頼者がトランス状態になり、身体を震わせ、踊り出す。
似たような儀式や加持祈祷のたぐいは世界各地にあって、他の地域のシャーマン儀礼と同じように、ここでもその伝統は急速に絶えようとしているという(彼の地ではこれができるのはもう年齢不詳のおじいさんただひとりになってしまった由)。
サカキ氏によれば、伝統的なリケンベは元来こういう風に人びとをトランスへと導き、治癒するものであるという(前回お通じが云々と冗談で書いたが、治癒効果という意味ではあながちヘンな感想でもなかったのかも)。そして今回出演するコノノNo.1の舞台には必ず「L'Orchestre Folklorique」と大書された手描きの看板が掲げられていることに注意して欲しいと強調する。つまりコノノはあくまでも「伝統的な音楽を演奏する楽団」なのだ。
マイクやアンプの使用とそれにともなう極端な音のひずみは、本来小さな音しか出せない親指ピアノをどうにかして大きく鳴らしたい要求からきたごく自然な流れであり、また、ひずみやノイズじたい、電気を使わない生リケンベの頃からさまざまな工夫によって楽器に付加されてきたものでもある(リケンベにはボディに穴を開け、そこに蜘蛛の卵膜を張って独特のびびり音を出す工夫がある)から、単にマイクやアンプのせいで音がひずんでしまったわけではない、ということだ。
前回も書いたが、生まれて初めて聴いたコノノの音楽は、私にはすごくアコースティックに感じられた。決して公演チラシの惹句にあるような「轟音」や「爆裂」ではない、とてもナチュラルなサウンドに思えたのだけど、サカキ氏の説明を聞いてなるほどと納得。それに、彼らは別に最先端のポップスをやっているわけではなく、あくまでも自分たちの「伝統」を忠実に守っているだけである。それを、我々が勝手に「これは新しい」と言って喜んでいる、という図だ。
こういう構図なら見覚えがある。ヨーロッパでもアジアでもどこでもいいが、つい数十年前までろくに電気も通っていなかった片田舎のじいさんの笛やフィドルの音が良いといって、日本を含む世界各国の人たちが押しかけ、カセットテープを買い漁ったり楽器を習ったりしている、そんな光景だ。どこの地域でもいい、ワールド・ミュージック好きならば誰でもそんなシチュエーションに覚えがあると思う。
皮肉っぽい書き方をしていると受けとられるかもしれないが、レコード会社やプロモーターのおかげで私も世界各地の伝統音楽に関心を持ち続けていられるのだから、決して批難の意図はない。
ただ、今回の場合は宣伝文句(チラシもそうだが、日本盤CDのオビや解説文にも「轟音パンク」等の文字が並ぶ)に不満があるだけなんである。まあ、「コンゴの伝統音楽バンド」という紹介だけでは客の入りに不安があるから、わざとああいう表現をしているんだろうとは思うけど。商業主義を否定するなどと青臭いことを言う気はさらさらないのだが、情報を発信する側の連中の言うことがイマイチ信用ならねぇと思ってしまうのは、たとえばこういうときである。
その点、サカキさんのトークと、それから入場者に配られたチラシ類の中に混じって入っていた「plug」という8ページの情報誌(季刊、大阪府立現代美術センター/大阪大学コミュニケーションデザインセンター発行)の紹介文は、なにひとつ煽ることなく彼らの音楽をきちんと解説していて、とても参考になった。
「轟音」「感電必至」「爆裂」その他もろもろ——。たとえば、何も知らない人をいきなりこの日の河内長野に連れてきて、共演の渋さ知らズオーケストラとコノノのどちらが上の惹句にふさわしいか選ばせたとしたら、たぶん十人が十人とも「渋さ」と答えると思う。渋さの場合はノイジーでファンクなサウンドに加えて、あの独特のビジュアルの異様さもあるからさらにインパクトは強烈だ。そのあとにコノノを聴くと、なんて耳にやさしいことだろう。思わずホッとしてしまう。
コノノのステージは、今日は約1時間のぶっ通し。アンコールでは渋さの暗黒舞踏組が出てきてコノノに妖しく絡む。個人的にはこのアンコールが本日のベスト・パフォーマンスだった。
* * *
オールスタンディングのアフターパーティは、会場を小ホールに移して行われた。昨夜の出演者だった倭太鼓 飛龍のパフォーマンスに始まり、サカキマンゴー(今日CDができたばかりという奥田“ピリピリ”薫さんも飛び入り参加。この人還暦間近なんだよなぁ)が2曲、そのあと渋さ知らズの面々とコノノがなだれ込む。のこぎりを手にしたサキタハヂメも、いつのまにか片隅に座っている。ただでさえ手狭な小ホールのステージは、ほとんど無政府状態(笑)である。
音楽なのか、ただのノイズなのかさっぱりわからない状態がしばらく続く。ダンドリスト不破大輔がメンバーの立ち位置を細かく指示し音楽をコントロールしようとするのだが、コノノはほとんど動じない。
ここらあたりは両者の音楽に対する考え方の違いがくっきりわかって、面白かった。渋さ組はフリーなようでいて、どうにかして「起承転結」のある音楽をやろうとしているのだが、コノノは同じリズム、同じメロディを延々やり続けるだけで全くかまわないといった感じだ。なにしろ「暗闇テントで5時間」なんである。さすがのダンドリストもダンドリしきれんと思ったのか、後半は不破氏はじめメンバーの大半が姿を消してしまい、最後まで演奏に参加していたのは渋さのごく数人と、コノノ+サカキ+飛龍バンドの何人かくらいだった(私の位置からは見えにくかったのだけど、サキタハヂメも最後までひたすらのこぎりを叩いていたはずだ。ひょっとして今夜いちばんパンキッシュだったのは彼ただひとりかもしれない・笑)。
頭痛がするけたたましいノイズの嵐のなか、コノノのリーダー、マワング・ミンギエディの弾く電気リケンベだけが一定の音階を一定のリズムでずっと弾き続けていたのが印象的だった。それにしてもなんであんなハチャメチャな場で、彼の音だけがすっと耳に入ってきたんだろう。いま考えても不思議だ。
話は前後するけど、本公演の開場前に、地元の中学生のブラスバンドがホワイエでミニコンサートをやっていた。この世界民族音楽祭はまさに市を挙げてのイベントなのだ。出演した子供たちは引き続き公演も見ていたはずだが、彼ら彼女らははたしてどういう感想を持ったんだろうか。ちょっと聞いてみたい気もする。
ま、特に渋さ知らズだよな。演奏中に缶ビールは飛び交うわタバコは吸いっぱなしだわ、おまけに暗黒舞踊のおねいさんは目のやり場に困る格好だわで、たぶん生徒よりも引率の先生の方が一番とまどったんじゃないかという気がするんだけど(^_^;)。
2006 09 05 [face the music] | permalink
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comments
はじめまして。
ちなみに、地元のブラバン部と思われる子供たちは
2階席の後方でずっと立ち上がって踊りまくっていました。
(もちろん「何なんだ、コレは!?」という感じで
呆然orグッタリしている子もいましたが…)
あの光景は、とても感慨深いものがありましたよ。
posted: hdmx (2006/09/24 3:06:58)
はじめまして、コメントありがとうございます。
おお〜、そうでしたか。その光景見たかったなぁ。終演後のロビーではなんだかぐったりしている子供たちを見かけたんでちょっと心配していたんですが、そっか、あれは踊り疲れだったのかも(^_^)
posted: とんがりやま (2006/09/24 10:08:02)