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祝・出版!《Steps in Time》
●フレッド・アステア自伝 Steps in Time〜An Autobiography Fred Astaire
フレッド・アステア・著/篠儀直子・訳
青土社/2006年10月刊
ISBN4-7917-6298-3
装幀:桂川潤
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…いま、私はかなりドキドキしています。まさかこの本が日本語訳で読めるなんて! 奥付を見たら10月に出ていたんですね。全然知らなくて、つい先日本屋さんで偶然みかけて、飛び上がるほど驚いてしまいました。
フレッド・アステア自らが書いた本書、オリジナルは1959年に出版されています。アメリカでは何度も版を重ねているようで、現在アマゾンなどでは2000年版が入手できます(写真右=FRED ASTAIRE STEPS IN TIME AN AUTOBIOGRAPHY/Cooper Square Press, New York/ISBN0-8154-1058-1/Cover Design:Trudi Gershenov)。これにはかつての名パートナーだったジンジャー・ロジャース Ginger Rogers が書いたForeword(1980年)と、ダンス研究家ジェニファー・ダニング Jennifer Dunning の手になる Introduction(1999年)が本文の前に載っていますが、その部分はこの日本語版には収録されていません。ちょっと惜しいかな。せめてジンジャーの文章は収録して欲しかった。
アステアが亡くなったのは1987年。この本が書かれた1958、9年頃のアステアといえば、パラマウント『パリの恋人 Funny Face 』、MGM『絹の靴下 Silk Stockings 』(ともに1957年公開)が終わり、ミュージカル・スターとしての映画出演が一区切りついた頃です。のちに『ザッツ・エンタテインメント That's Entertainment 』(1974年)でミュージカルのリバイバル・ブームが起こるまで、いったん銀幕の世界からは距離を置くようになります(68年にコッポラ監督作品『フィニアンの虹 Finian's Rainbow 』に主演していますが)。自伝出版のタイミングとして最適のころだったでしょう。
年齢的にも(アステアは1899年生まれ)ダンサーとしてはもうキャリア・ハイだろうと、普通は思うんですが、ちょうどこのころテレビ特番を制作し(《An Evening With Fred Astaire》1958年、《Another Evening With Fred Astaire》1959年。なお、テレビ特番は1968年まで計4本制作されています)、これがエミー賞を受賞するなど大評判を呼びます。ここでのアステアは、ノスタルジックな映画スターではなく、テレビならではのモダンで実験的なダンスを試みているから凄いです(しかも、この自伝によるとどうやら生放送だったらしい!)。
これらテレビ特番のヴィデオは、これまでに少なくとも一度は市販されたことがあると思われるんですが、長年探しているもののなかなか出会えません。日本版とは贅沢いわないから、本国で再販してくれないかなあ。
断片だけなら、以下のふたつのヴィデオで見ることができます。ただし、どちらもまだDVD化されていないのが残念です。主演映画の方は著作権切れの関係で500円DVD(本屋さん等で売ってますね)でもぼちぼち出始めていますが、アステアの魅力の全体像を一気に知る「入門編」として最適ではないかと思うだけに、入手が容易になることを強く願います。
●ハリウッド最高のダンシング・スター フレッド・アステア大全集 vol.I/vol.II
ポリドールPOVV-1705・POVV1706/1991年8月発売/解説:野口久光/各48分(VHS)
1980年、米 Educational Broadcasting Corporation 制作。ジーン・ケリーやルドルフ・ヌレエフ、ボブ・フォッシー他のコメントとともに、アステアの代表作の名シーンが続々登場します。第一巻はアデールとの姉弟コンビで人気を博した舞台時代から、ジンジャー・ロジャースとの共演で一世を風靡したRKO時代まで。第二巻はソロになってからの活躍と、前述のテレビ特番までが網羅されています。なんといっても姉・アデール(81年死去)の最晩年の肉声コメントが聴けるのが貴重ですし、映画に出る前の映像も少しだけ観ることができます。それ以上に、アステアがいかに同時代のダンサーからリスペクトされていたかがたいへんよくわかるヴィデオです。
●栄光のハリウッド AFI功労賞に輝く巨匠とスター VOL.3
パイオニアLDC PILF-1886/1995年発売/解説:山田宏一・畑暉男/フィルモグラフィー:畑暉男/字幕監修:山田宏一/デザイン・イラストレーション:和田誠
このレーザー・ディスク・シリーズはどこまで出ていたのかな。一巻に4枚ずつのディスクが入ったボックスセットで、単品ばら売りはしていなかったはずです。私が持っているのはこの第3巻のみで、しかもフレッド・アステアのディスクしか見たことがありません(笑)。ちなみに、同巻には他にフランク・キャプラ(82年受賞)、ジョン・ヒューストン(83年)、リリアン・ギッシュ(84年)が収録されています。
AFI功労賞(American Film Institute の選ぶ Life Achivement Awards)は1973年に創設。アステアの受賞は第9回、1981年のことでした(作家の小林信彦は「この功労賞はいかにも遅い」と怒ってました)。授賞式はロスの大きなホテルに1000人から1500人もの列席者を集め華麗に行われ、その模様を収録したのがこのヴィデオ・シリーズです。一部は日本でもかつて深夜に民放テレビで放送されたことがありますが、このディスクはもちろん「完全版」。
こちらもアステアの名場面集がふんだんに出てくるのですが、さすがエンターテインメントの本場というべきか、その編集のしかたが実に鮮やかで洒落てます。
AFI はアメリカ映画の保存と継承を目的にしていますから、功労賞を受けたアステア映画は今後も大切にされることでしょう。主要な主演作品はいまもDVDで販売され、その大半はありがたいことに日本語版もちゃんと出ています。MGMに代表される「ミュージカル映画の黄金時代」はもう戻ってこないかもしれませんが、フィルムが存在している限りは、いつまでも彼の卓越したステップを楽しむことができます。
そういうわけで、映画は比較的「過去の遺産を未来へ継承する」ことが可能なんですが(なにしろアステアの全盛期をリアルタイムで経験していない私でもこうやって大ファンになれるほどですから)、これが舞台ミュージカルとなると一気に難しくなります。なにしろ古い舞台の映像記録ってほとんど残されていませんしね。
そんななか、「ミュージカル」というジャンルの創生期から黄金時代のことを描いた本が、アステア自伝本と同じくこの秋に出版されています。
●ミュージカルが《最高》であった頃
喜志哲雄著/晶文社/2006年11月刊
ISBN4-7949-6703-9
装幀:本山木犀
オペレッタやミュージック・ホール、レビューなどの前史から書き起こし、20世紀前半に花開いた「ミュージカル」を、代表的な作品を詳細に論じることでその特質を浮き彫りにする一冊。本格的なミュージカル論を展開する書としては、久々の出版じゃないでしょうか。いやあ、本当に嬉しいです。
2006 11 18 [dance around] | permalink Tweet
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