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「読む」美術展〜日曜美術館30年展

●NHK日曜美術館30年展 名品と映像でたどる、とっておきの美術案内
東京展 2006年9月9日〜10月15日 東京藝術大学大学美術館
京都展 12月13日〜2007年1月21日 京都文化博物館
広島展 2007年2月15日〜3月25日 広島県立美術館
盛岡展 2007年4月7日〜5月13日 岩手県立美術館
長崎展 2007年5月26日〜7月1日 長崎県美術館
静岡展 2007年7月24日〜8月31日 静岡県立美術館
NHKの、というより日本のテレビの美術情報番組として定番中の定番である「日曜美術館」。1976年4月の放送開始から30年、放送回数は1500回を超えるそうです。この展覧会は、放送30年を記念して企画されたもので、番組の一部を上映しつつ、ゆかりの作品を展示するというもの。なので、展示作品が番組中でどういう紹介をされていたのか、という点に重きを置いた構成になっています。
構成は4章建てになっていて、まず第一章<夢の美術案内>と題するコーナーは、文学者や著名人が自分の愛する作家・作品を語るというもの。池波正太郎がルノワールを、武満徹がルドンを、手塚治虫が鳥獣戯画を、野坂昭如が鏑木清方を、五木寛之がピカソを、などなど、いかにもな組み合わせからちょっと意外な感じのするものまで全18組。それにしても、やはり小説家や詩人はいい言葉を用いますね。番組のダイジェスト上映以外に、各作品の横にはそれぞれの作品が番組中でどういう取り上げられ方をしたのかという説明と、番組中の発言から一部分を抜き出した言葉がパネル展示されているんですが、どれもなかなか味わい深いものです。例えば司馬遼太郎が語る八木一夫。
(八木一夫は)音楽家にもならなかったし、文学者にもならなかったですから、そのもっているものが、気体にならずに液状にたまっていて、それがこういうオブジェというものに吸いあがってくるんですね。だから、このオブジェというものは、八木一夫における詩の表現かな、と勝手に思ったりしているわけです。
こういう言葉の隣に飾られているのが、たとえば1954年の陶芸作品『ザムザ氏の散歩』で、それを眺めながらなるほど液状だ、これは液体だななどと思うわけです。
このブログでたびたび表明していますが、私は美術作品に解説だのなんだのは余分であると考えています。家に帰って図録を見直したり、ネットや本で作家のバックグラウンドを調べたりするのはかまわないけれども、展覧会場ではまず作品と一対一で対面するだけでよく、そのときに予備知識は邪魔になることが多いんじゃないかと。なので、解説パネルの多い展覧会は(どんなに内容が良くても)どうしても批判的に観てしまうのですが、本展だけは別。というより、この会場から解説パネルをとっぱらって作品のみにしてしまうと、こんなにバラバラで意図のわからない展覧会もないんじゃないかとなってしまいます。
そういう意味で、この展覧会は「読む展覧会」なんだと思います。各コーナーで上映されている番組ダイジェスト(各10分程度)を眺め、放送で取り上げられた作品の実物を眺め、解説パネルをじっくり読んでいく。そういうふうに、たっぷり時間をかけて観ていく展覧会なのでしょう。
もっとも、一般的な展覧会の「解説パネル」と違って、作品を語っているのはただの一個人。いくら著名人とはいえ別に権威だのなんだのを感じる必要もなく、「この人はこう言ってるけどオレはそうは思わんな〜」と勝手にツッコミ入れることも可能でしょう。この展覧会には、「作品」と「それを語る人」と「さらにそれを観る(読む)私」の三者がぶつかり合ったりする楽しさもあります。
続く第二章は<作家が作家を語る>。先ほどは著名人が美術作品を語っていたわけですが、ここでは同業者が作品を語ります。…って、なんで手塚治虫×鳥獣戯画がこのコーナーでなくてあちらなんだッ!
第三章がいよいよ<アトリエ訪問>で、私にはこのコーナーがいちばん面白かった。作家が自作を語る、というものですね。作品横に抜き出された「作家の言葉」も、ここに全部引用したいくらい面白い。
僕は肉体ってものと精神っていうものと、分けないんです。手だけや頭だけで描きたくないんだ。身体全体でもって、自分の体力に応じた仕事をしていきたいと思ってね。——中川一政
「絵でございます」というようなもんね、まあとてもつまらない。計算づくの絵を描いちゃだめね。逆に、「何だこの絵は、こんなの絵か?」って、他人に思われることはもちろん、自分自身でさえ思ってしまうような絵を描きたくなるな。——岡本太郎
ガラスというのは、飴のような素材ですから、自分がこういうものを出したいというときに、パッと出せる。出しやすい。音楽でいうと、ジャズのようなところがありますね。——藤田喬平
この大皿一枚を流掛で装飾を施すのに、実際は15秒以上はかかりません。それで「15秒しかかからないのになぜそんなに高価なのか」と尋ねる人がいます。私は、「皿をつくるのには、60年と15秒もかかっているのです」と答えます。——濱田庄司
いや、キリがない。もうやめとこう。これらの言葉は、終生かわらない信条もあれば、たまたま番組収録時に作家が感じていたことで、後に考えが変わっているものもあるでしょう。だから言質をとるような受け止め方をする必要はありませんが、日々の制作の中で育まれ紡ぎ出された言葉には違いなく、故に非常に重みがあります。制作中のヴィデオ映像、完成作品、そしてそのときの作家の言葉が並んでいるというのはやはり圧巻で、先の著名人の言葉とは全く違う、有無を言わせぬ迫力がありました。
最後はこの番組での紹介がもとで一躍再評価に火がついた作家を紹介するコーナー、<知られざる作家へのまなざし>。日曜美術館発というといちばんブレイクしたのはやはり田中一村でしょうね。隣で「ああ、ようやく出てきたわ」なんて言ってるオバさまもいました。
私はむしろ、ラフカディオ・ハーンの三男である小泉清の作品に惹かれました。以前雑誌か何かで小さな図版を見たことはあったんですが、実物を観るのは今回がはじめてで、絵の具の盛り上げ方がとにかくすごい。背筋がぞくぞくするような衝撃でした。
図録の方には、30年間の番組記録や歴代司会者たちの座談会、ゆかりの人によるエッセイなども載っていて、より「読み物」としての充実が図られています。こちらもよくできています。
2006 12 21 [design conscious] | permalink
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