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[symposium]:マンガと人類学(追記)

 

Symposium

 
●シンポジウム マンガと人類学
 2006年12月16日(土)10:00〜15:00
 京都国際マンガミュージアム1階「多目的映像ホール」
 主催:京都国際マンガミュージアム・京都人類学研究会
 
 京都国際マンガミュージアムで行われた興味深いシンポジウムを観てきました。ここの1階には「多目的映像ホール」なる部屋(もとは講堂?)があるんですが、そこで開かれるイヴェントとしては今回のシンポジウムが第一回目なんだそうです。なので、開始時間がミュージアムの開館時間と同じ午前10時からなどと告知されたり(結局シンポジウムは25分遅れで始まった)、レジュメが足りなくなったりするなど運営サイドの問題で若干のドタバタがありましたが、なんとか大盛況のうちに無事終了。
 このイヴェントの模様は、後日ミュージアムの公式サイトにも報告が掲載されるとのことなので、ここでは大まかなレポートとごく簡単な感想のみ記しておくことにします。
 
 ところで、今回のシンポジウムは京都人類学研究会との共催というかたちで行われました。こういう研究会があったんですねえ。知らなんだ。そこからの参加者と、私のような一般の客、それに大学(京都精華大学)の学生さんかなあと思われる人をあわせてざっと4〜500人くらいなんでしょうか。「マンガ」と「人類学」とを一緒に考えようというテーマはおそらく前代未聞なので、たいへん刺激的で面白い内容だったと思います。
 
<第一部>世界のマンガ文化
村上知彦「受容から発信へ 東アジアとまんがの21世紀」
 2001年9月に国際交流基金の依頼により行われたマレーシア・タイ・韓国のマンガ事情を調べる調査旅行の報告。現地の出版社や編集者・作家からの聞き取り調査の話を交えつつ、現地で出版されたコミック雑誌や単行本を次々に見せていくというもの。特に韓国などは5年前と現在では状況が大きく変化しているのでそこは了解して欲しいとのこと。このあたりは、現在ミュージアムで展示中の『世界のマンガ展』の展示の方がより新しい内容を含んでいるので、シンポジウムのあとにぜひ展示も見てください、とのこと。
 
 短い時間で三カ国のマンガ事情を駆け足で紹介、なので正直よくわからなかった部分もありますが、マンガの多様性とか可能性を見るうえではなかなか興味深い講演でした。5年前の調査なので現在とは違う部分も大いにあるでしょうが、アウトラインだけでも知っておくといいですね。前回『世界のマンガ展』を見たときはアジアコーナーはあまりじっくり見てなかったんですが、せっかくだしもういちど見てこようっと。
 
 
都留泰作「経験としての人類学、そしてマンガ。アフリカと沖縄から」
 上の村上さんは評論家としての立場でしたが、都留さんは一方で富山大学助教授の文化人類学者、そしてもう一方では月刊アフタヌーンに「ナチュン」を連載中の実作者という二足のわらじで、まさにこの日のシンポジウムのテーマにぴったりの人であります。カメルーンのバカ・ピグミー族を対象にしたフィールド・ワークの実体験をもとに、非常に面白い講演をしてくださいました。
 
 アフリカには「マンガ文化」はない、というところから始まって、カメルーンには精霊を信じる人々が多く住んでいるけれども、彼らに紙とペンを渡して「あなたが見た精霊の絵を描いてくれ」と頼んでも描けないんだそうな。子供たちが壁などに落書きする絵をみても、プリミティブである以上に非常に類型的。それは何故か、という話。
 彼らが「描く」のは、精霊儀礼のために自分の身体を塗りたくるボディー・ペインティングである。したがって彼らにとっての「造型」は、バーチャルなものを表現する抽象的・観念的なものではなく、非常に直接的・身体的な行為である、という話。
 では、日本で言うような「マンガ的な何か」はアフリカには存在しないのか? 都留さんは、精霊儀礼における「変身」、とくに精霊の造型やその動作において、一体一体に「キャラ設定」や「性格づけ」がなされている点に注目します(ある種「コスプレ」と言えるのかも?)。実際に、毎年ごとに新しい精霊を「創作」している少年がいたそうで、そこでの創造性はマンガでいう「キャラクター造型」と比較できるのではないか、という話。つまり、かれらが儀礼の場で精霊に「なる」とき、かれらの意識の中では希薄だとしても、それはバーチャルなキャラクターと見ていいのではないか。…と、私の理解が及んでないかもですが、おおよそこういう結論だったと思います。
 
 実作者らしい、実にユニークな視点で、この人の話はもっと聴いてみたかった。時間の関係で当初予定されていた沖縄の話がほとんどはしょられてしまったのが惜しまれます。
 
 
マット・ソーン「コマの中を形づくるコマの外の世界」
 わかりにくいタイトルですが、この人はアメリカ人のマンガ研究者で、その研究を文化人類学の手法を使っているんだそう。「参与観察と民族誌」とパワーポイントのテロップに出ましたが、なんのこっちゃ。
 この20数年間、マットさんは少女マンガの翻訳やアメリカのマニア誌への寄稿など日本マンガの海外への紹介に尽力されてきたんですが(本人曰く「マンガの宣教師」)、今回はその研究の成果の報告ではなく、研究手法を紹介するという内容でした。
 私が特に印象に残ったのは、講演の最後の彼の言葉。社会科学分野での「主観と客観」ということについて。
大衆文化を取り上げた文化人類学者が書いた本を見ると気になるのが、「自分は客観的だよ」というのをすごい強調して書いてるんだけれども、これはまぁウソですよね。ホントに客観的なはずがない。どっかに主観が必ず入ってる。ホントに客観的で、つまりまったく主観がなければ、それは題材に関心がないということで。関心がなければ書くなよと 。(会場笑)

 この部分だけ引用してもなんのこっちゃかもですが、このあと「マンガにハマッたのは自分の人生と深く関わっている」という言葉が続きます。ガクモンとか研究の世界のコトはよくわかりませんが、いち読者としていうなら、こういうふうに人生をかけて何かにのめり込んでる人の話はやっぱり面白いわけで、ウンウンそうだよねと深くうなづいたのでした。
 
 
<第二部>
 お昼を挟んで午後からはいよいよ諸星大二郎さんの登場。午前中少しだけあった空席も全て埋まり、会場は熱気に包まれます。
諸星大二郎の神話世界
 この人がこういう場に出てくるのは、まずありえないことなんだとか。今回も単独での講演ではなく、評論家の呉智英さんとの対談という形でなら、ということで半ば無理矢理引っぱりだしたんだそう。確かにとてもシャイで、あまり口を開かない方でした。約2時間のうち、8〜9割は呉さんがしゃべっていたんじゃないかな。
 諸星作品の数々の名作をネタに、この日のテーマにあわせて人類学的な見地からの話と、マンガ家としての話などいろいろ。「人類学的」といえばやはり『マッドメン』シリーズで、この作品の話題だけで全体の1/4くらいあったでしょうか(特にカーゴ・カルトの話)。他には『西遊妖猿伝』、『生物都市』、『妖怪ハンター』シリーズ(なかでも「生命の樹」)の話。柳田民俗学と一つ目小僧、『孔子暗黒伝』と白川静、『夢の木の下で』に出てくる<カオカオ様>の特異な造型について…などなど、話は実に多岐に及びます。いやー、ファンにはたまらないほど盛りだくさんでしたが、諸星作品を読んだことない、あるいはごく一部しか知らないって人が聴いたらどういう感想だったんでしょ…ってそんな人はここに来てないか。呉さんが特に強調していたのは<異質な世界を異質なまま読者に提出する>(この通りの言葉を使っていたわけではないですが)のが諸星作品の最大の魅力ということ。なるほど、これはよくわかります。
 
 これまで誰のアシスタントにもならなかったとか。自身はアシスタントを使っているんですが、臨時で月に1〜2度だけ、それも消しゴムかけとかべた塗り、ホワイトなどの作業のみで、全てをひとりで描いているのはさすが。先生もいなければ弟子もなく、これまで影響を受けたマンガ家は? の問いにはかなり悩みながら、強いて言えば手塚治虫さんかなぁ、でもほとんど読んでませんが…。とのこと(とはいえ、ご本人は2度も手塚賞を貰ってます)。今誰か読んでますか、と訊かれると楳図かずお『漂流教室』『わたしは慎吾』、他に注目している作家は伊藤潤二や高橋葉介の名前が挙がってました。いかにもこの人らしいです。
 
 ところで「諸星」の読み方、私はてっきり「もろし」だと思っていたんですが正しくは「もろし」だったんですね。最後の質疑応答で確認されてた方がいて、はっきりしました。そう言われても今後もつい間違ってしまいそうですが。
 
【12月18日追記】:
 シンポジウムに行かれた方のブログ記事をリンクしておきます。
●Junk In The Box / Paradise Garden:「シンポジウム「マンガと人類学」」
●でかBOX:諸星大二郎  [漫画]  

  

2006 12 17 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

 貴重な報告、ありがとうございます。
 めっちゃ、面白そうで、ぜひ、関東でもやってくれ。うーん、場がないかな。

 「精霊」の話は当然逆にも見えるわけで、マンガはわれわれなりの「精霊」との交流の手段とも言えますね。そう思ってみれば、マンガの世界では活字に比べてファンタジィやSFの割合が圧倒的に多い。というより、ひょっとするとそれがスタンダードで、リアリズムのほうが副次的なポジションとも言えそうです。
 中沢新一氏の仕事とも通じて、コーフンします。

 韓国は日本作品がどっと流入して独自作品の市場が崩壊したと聞いたんですが、また状況が変わったのかな。

 諸星作品は『ラーマーヤナ』との関連で『西遊妖猿伝』をあらためて読もうとしてるところですが、やはり全体を読まなくちゃいけませんねえ。ぼくもてっきり「もろぼし」だと思ってました。『ウルトラセブン』かなあ、やっぱり。

posted: (2006/12/17 11:34:43)

 コメントありがとうございます。
 私は行ったことがないんですが、川崎市市民ミュージアムあたりはどうなんでしょうね。あそこも色々面白いことやってそうですが。
 
 呉さんも言ってましたけど、「もろぼし」はやっぱり『ウルトラセブン』なんでしょうねえ。なにしろテーマ曲の歌詞にまででてきますから、アレの刷り込みはすごいものがあるんじゃないかと(笑)

posted: とんがりやま (2006/12/17 22:56:51)

トラックバック有り難うございました。
他のファンの方を見つけて世間話などしたかったのですが、時間がなかったのでミュージアム見学もせずに早々に退散しました。

なかなか人前にはおいでにならないだろう方とは拝見しましたが、「空前」ではあっても「絶後」にはならない企画であってほしいと思います。

posted: (2006/12/18 22:02:39)

 突然のトラバ失礼しました。
 「空前絶後」何度も言ってましたねぇ<司会の人。よほど出演交渉が難航したんでしょうか(笑)。まだ企画・運営サイドに初々しさがいっぱいといいますか、基本的に大学のセンセイ方が手探りでやってるんだろうなあという印象を持ちました。

posted: とんがりやま (2006/12/18 23:25:06)

 

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