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Tさんとセルビア音楽のこと

わたしがTさんとはじめて会ったのは、もう6〜7年前くらいになるだろうか。そのとき、彼女はまだ大学生だったと記憶している。
彼女とは大阪のアイリッシュ・ダンス愛好会で出会った。
大学のサークルで民俗舞踊をやっていたこともあって、リズム感がすばらしく、新しいステップも難なくこなす。なにより彼女には天性の明るさがあった。くるくる回るのがひたすら好きな人でもあった。
ダンス愛好会で毎回のように顔をあわせていたのは2、3年くらいだったろうか。そのうち彼女は院にすすみ、調査・研究のためセルビアへ渡り、大学を卒業してからも彼の地で暮らすようになった。
わたしは彼女ととくべつ親しかったわけでもないし、現在セルビアで何をしているのかも、実はよく知らない。ただ、彼女は年に1〜2度帰国したとき、今でも必ずサークルに顔を出してくれるので、そのときにほんの少しおしゃべりする程度である。
ある日突然風のようにやってきて、相変わらずの明るさでその場をかっさらい、また風のように去っていく。まことに突風のようなひとである。
そういえば、卒業直前あたりだったか、突然「実はわたしアコーディオンがやりたいんですよ」と言ってきたことがあって、じゃあそれならと手持ちのミュゼットのCDを何枚か貸したことがある。
* * *
彼女が京都の喫茶店でアコーディオンのソロ・ライブをはじめたのは、セルビアに住むようになってからだったろうか。今年のはじめ、まだ正月気分が抜けないころ、その三度目だったかのライブに足を運んだ。以前から誘われていたものの、なかなか都合がつかず、今回ようやく行くことができたのだ。
聞けば、彼女はいま、セルビアの首都ベオグラードに住み、地元の民俗舞踊団のアコーディオン奏者としても活躍しているんだそうだ。
いつかそのグループごと日本に連れて来たいそうだが、なにしろ40名からの大所帯。夢がかなうのはいつになることやら。
セルビア各地の民謡はもちろん、周辺の国々、つまりルーマニアやハンガリーやマケドニア、ブルガリアなどバルカンのダンス・チューンを、とんでもないスピードで弾きこなす。なんなんだ、あの指の動きは。いやはや、ウワサには聞いていたけどすんげー。なにしろ用意したレパートリーを、予定していた半分ほどの時間で全部やりきってしまう(笑)ほどなんである。
彼女のライブを第一回から聴いているひとに言わせるとずいぶんゆっくりめになったそうだが、それでも矢継ぎ早に飛び出すマシンガンのような早口トークともども、こちらはただ口をあんぐり開けて聞き惚れるだけだった。
そういえば、途中で2曲ほど、ミュゼットとシャンソンを情感たっぷりに弾いてくれて、個人的にはそれがとても嬉しかった。
かくして、いつものように、突風はふたたびセルビアへ帰っていった。このつぎ会えるとしたら半年後か、あるいは一年後か。

* * *
実のところ、セルビアという国のことはまったく知らない。東欧〜中欧の音楽やダンスにも少なからず興味はあるんだけど、ハンガリーやルーマニア、ブルガリアあたりならともかく、セルビアのCDはほとんど持ってない。ライブを聴いてはじめてわかったのだけど、地方によってそれぞれの隣国の影響もあり(セルビアは、東北はルーマニア、南東はブルガリア、南部はマケドニア、北部はハンガリー、西部はボスニア等と面している)、実にバラエティに富んで面白いのだった。
彼女のライブを聴いたあと、急に気になってきて家のCD棚をあれこれ探してみたけど、セルビア音楽が入っているのは10年前に買ったこのコンピレーションアルバムだけだった。

●UNBLOCKED Music Of Eastern Europe
ellipsis arts.../CD3570/1997年
Cover artwork:Scherer & Ouporov
Graphic design:Keith Alan Morris
3枚組、全45曲入りのCDセット、ラトヴィアからアルバニアまで、東欧〜中欧の18もの国と地域のトラディショナル系音楽のコンピレーション・アルバム。セルビアは3枚目に4曲収録されている。
そんなわけで、ここんとこずっと、このCDを何度も聞き返しているんだけれども、これだけじゃやっぱり物足りない。このつぎ彼女が帰ってくるときまでには、もすこし彼の地の音楽を知っておきたいなぁ…などと思っている今日この頃なんであります。
2007 01 27 [face the music] | permalink
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