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ブリューゲル・セット・ダンサーズ(1)
●ベルギー王立美術館展
東京展 2006年09月12日〜12月10日 国立西洋美術館
長崎展 2007年01月06日〜03月25日 長崎県美術館
大阪展 2007年04月07日〜06月24日 国立国際美術館
【展覧会図録】
ISBN4-906536-38-7
編集:幸福 輝、福満 葉子、読売新聞東京本社文化事業部
制作:アメックス・ファインアート
発行:読売新聞東京本社/2006年
デザイン:馬面 俊之
大阪会場が最終展となる『ベルギー王立美術館展』に、ブリューゲル『婚礼の踊り』(図版左、1607年)が出品されていると聞いて、慌てて出かけていった。この作品は以前からちょっと気になっていたのだ。手持ちの本の小さな図版ではよくわからないので、実物が拝めるのは非常に嬉しい。他の作品は流し見程度ですませ、この絵の前ばかりに小一時間ほど張り付いていた。
もっともこの作品、「農民画家」とも呼ばれた父親の筆によるものではない。ピーテル・ブリューゲル(父/1525〜30年頃-1569年)の同題の絵画はすでに散逸しており、展示作品は彼の長男であるピーテル・ブリューゲル(子/1564-1638年)による複製品の方だ。5歳で父を亡くした長男はこの大画家から直接絵を学んだわけではないが、長じて絵画工房の親方になり、父親の絵の模写・複製を数多く制作した。『婚礼の踊り』もそういう複製品のひとつで、当時から人気が高かったんだろう、この絵は多くのヴァージョンがあるという。今回のベルギー王立美術館所蔵のものは、ボルティモアのウォルターズ・アート・ギャラリー所蔵の同作品とともに、そのもっとも古いヴァージョンであるとのことだ。
ブリューゲル(父)はこの作品以外にも、農家の婚礼やその宴会の様子を何枚か描いている。アントワープ王立美術館所蔵の『野外での農民の婚礼の踊り』(ただしこれもブリューゲル本人の筆ではなく、同時代の模写作品。図版)やウィーン美術史美術館所蔵の『農民の踊り』(1568年、図版)などがそれだ。
ブリューゲル(父)は16世紀半ばの人だが、以前このブログで取り上げたことのある『村の祭り』(ダーフィット・テニールス2世、1647年の作だから長男の複製画よりもさらに40年後の作品)には、『婚礼の踊り』を見て描いたんじゃないかと思うくらいそっくりなポーズがある。テニールス2世がブリューゲルをどこまで念頭に置いていたかは知らないけれど、こういう感じのダンスが16〜17世紀ごろのフランドルでごく一般的な庶民のダンスだったのはまず間違いなかろうと思う。
もとより中世ヨーロッパのダンス事情なんてわからないことの方が多いと思うんだけど、研究者はこういう絵画資料や文献を丹念に調べてあれこれ推定していくんでしょうね。大変だなあ。
…と、以下のエントリは、そういう<まじめな>中世史研究とはまったく無関係の、単なる妄想であることをあらかじめお断りしておきます。よってマジなツッコミはご勘弁(と書くのもヤボだけど)。
* * *
さて『婚礼の踊り』である。手前にダンスに興じる一群が描かれ、画面中央やや上の奥には、この日の主役である花嫁が描かれている。彼女はすでに妊娠している、というのが研究者間の定説なんだそうで、イマ風に言えば<デキ婚>ですかな。ここからこの絵に寓意的な意味を読み取る議論が多いらしいのだけれど(そういや花婿はドコだ)、わたしの関心はそちらにはない。手前のダンサーたちはいったいナニを踊っておるのか、ということの方にもっぱら惹かれるのである。
冒頭に掲げた図版ではわかりにくいと思うので、ダンスに関係のある部分だけを切り抜いてみた。
右端にバグパイプを抱えたミュージシャンが二人。ダンサーは合計8人、4組の男女がペアを組んでいる。ところが、彼らの動きはみなバラバラで、とても同じ音楽に合わせて整然と踊っているふうには見えない。むしろ各自好き勝手にやっているようにも思える。ま、祝いの席での余興みたいなものだし、むしろその勝手気ままさや雑然とした喧噪がいかにも<農民>風でいいんじゃないでしょうか…というのが、まあ、大方の受け取り方じゃないだろうか。
けれども、わたしは、彼らはここでちゃんと一定の<振付>が決められたダンスを踊っているように見えるのだ。そうして、画家もその振付をちゃんと心得ていて、その上でダンスや音楽特有の<時間>を絵の中に描写しているように思えるのだ。(以下つづく)
2007 05 25 [dance around] | permalink Tweet
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