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スミソニアン詣で—美術館(1)
そもそもなんでスミソニアンまで来たのかというと、直接のきっかけは、ここのアメリカン・アート・ミュージアム Smithonian American Art Museum でソール・スタインバーグ回顧展《ILLUMINATIONS》が開かれることを知ったからです(6月24日まで)。ワシントン行の最大にして唯一の目的…とまでは言わないけれど、基本的に旅行嫌いで出不精のわたしの重い腰を上げさせたのは、間違いなくスタインバーグなんでありますね。
その「スタインバーグ展」は期待通り、いやそれ以上のとても素晴らしいものでした。生まれて初めて原画を見ることができたのはなによりで、展覧会場の空間はちょっと忘れがたいものとして、自分のなかにずっと残っていくことでしょう。残念ながら場内は撮影禁止だったので、外の看板だけお見せします。

この展覧会のカタログは、すでに日本で手に入れてましたが(参照/踊る阿呆を、観る阿呆。:スタインバーグを語ろう(1))、ワシントン会場のみの特別展示なのかな、図録に載っていない作品が飾られていたのには感激しました。それは1960年代の作品で、スミソニアン協会のレターヘッドの上から作家が自由に絵を描き足した、20枚の連作。まったく予想外の嬉しいサプライズで、ううう、わざわざ来た甲斐があったよぉ〜(泣)。
以前、スタインバーグの原稿は汚かったのかも、などと書きましたが、実際に原画をみてびっくり。驚くほど「キレイ」なんですよ。下書きの鉛筆の線が消し切れてない部分がほんのわずか見られるものの、ホワイト修正や切り貼りなどの「後加工」がほとんどない、たいへん見事なものです。しかも(とくに5〜60年代の初期の作品に顕著ですが)ペンがいきいきと走っていて、線がまるでその場で呼吸しているかのようでした。
いくつか回った美術館はどこもすばらしかったけれども、ひとつだけ挙げよというならやはりナショナルギャラリーかな。ただしモール内に位置するとはいえ、ここはスミソニアンの一員ではありません。まあ、通りすがりの利用者からすればどっちでもいい話ではあるんですが。
ここはいかにも新興国アメリカの威信をかけた美術館らしく、中世から20世紀までの西欧絵画/彫刻・工芸の気合いの入ったコレクションに圧倒されます。
通りを挟んで西館と東館がありますが、メインはやはり旧館(西館)になるのでしょうか。展示はいくつもの小さな小部屋にわかれているので、入り口で貰えるマップを常に参照していなければ迷子になってしまいます。たぶんいくつか見落とした部屋もあるんじゃないかな。
イコン画など14世紀前後の絵画にはとくに見入ってしまいました。17,8世紀ごろの精密精巧な作品よりも、この時代の絵の方がなぜかより「リアル」を感じます。写真はジョットの《聖母子》、1320〜30年ごろの作品。目つきが鋭くて、勇ましくもたくましい母子像ですね。

いずれにせよ西洋美術史の教科書か美術全集のたぐいでしか見たことがなかったものばかりで、そういうのが次から次へとどんどん出てくるのは目眩がしそうな<体験>です。なるほど、印象派以降の近代絵画もとてもよかったけれども、こちらはまだ日本でも観られるチャンスもあるかもしれない(とはいえセザンヌばかり10点ちかくをまとめて観たのも久しぶりだけど)。でも中世絵画はめったにやってこないからなあ。ここぞとばかりに古い時代の部屋に入り浸っておりました。
絵画ばかりでなく、彫刻や陶芸品のコレクションも観るべきものがたくさんあります。下の写真はドガ・ダンサーズ。いやあ、こんだけ数があるとディスプレイのしがいもあるでしょうねえ。


あとは…そうですね、オノレ・ドーミエの“立体漫画”《Le Ventre Législatif》(1832〜35年)もかなり面白かったです。当時のフランスの議員をカリカチュアライズしたブロンズ像で、写真では見たことがあるものの、実物に対面するのはたぶんはじめて。これも壮観でした。
ドーミエには同題の平面作品(要するにマンガ)もあります。ふつう、平面と立体じゃ技術的にもまったく違うので表現が難しいはずなんですが、作者は二次元と三次元の違いなんて全く意に介していないかのようです。そこがすばらしい。






ルーヴル美術館のピラミッドや、日本のMIHO Museumも手がけたI.M.ペイ設計による新館(東館)では、現在ジャスパー・ジョーンズ展をやっていたようですが、すでに西館だけでおなかいっぱい。現代美術中心の東館は結局スルーしてしまいました。駆け足で通り過ぎるよりも、いっそまったく見ない方がすっきりして精神的にはいいです(←半分負け惜しみ ^^;;)。まぁ、いつかまた来てやろうというモチベーションにもなりますしね。
ともあれ、モールの膨大な博物館/美術館群のなかでもういちどぜひ観に来たい、と思ったのは、個人的にはこのナショナルギャラリーだけでした。…スミソニアンじゃないけれど(^-^;)。
2007 05 13 [wayfaring stranger] | permalink
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