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[book]:綺想迷画大全

●綺想迷画大全
中野美代子著/飛鳥新社/2007年11月刊
ISBN978-4-87031-824-3
ブックデザイン:鈴木一誌+藤田美咲
なんとも愉しい本だ。「綺想迷画」は著者の造語だと思うが、かの辻惟雄『奇想の系譜』(1970年)以来いちやく美術界のキーワードとなった<奇想>の二文字を避け、敢えて「綺想」と表現したところがミソである。
それどころか「名画」ならぬ「迷画」としているのがなんとも、いやこれは謙遜か照れなんだろうか。確かにここに取り上げられている絵はどれもいわゆる「世界絵画全集」のたぐいではついぞお目にかかったことのない、とんでもない絵画がほとんどなのだが、だからこそいつまでも眺めていて飽きることのない面白い絵がたくさん掲載されている(図版は150点余、オールカラーというのが嬉しい)。
もっとも、著者は前口上で<ほんとうは、迷画も名画もないのです。>といきなり宣言しているから、やはり「迷画」はただの韜晦なんだろう。まぁそんなことはどうでもいいのであって、読者は次々に登場するめくるめくイマジネーションの世界にただ遊んでいればよいのだ。
アジアからヨーロッパまで、5世紀から18世紀まで、空間も時間も自在に飛び越えてセレクトされた図像は、想像上の生物から当時の子どもの遊びまで、実に多岐にわたる。タイの王宮寺院の壁画もあればフィレンツェ郊外の大聖堂の宗教画もある、17世紀のオランダの世界地図もあればムガル帝国の架空庭園の図もある、というふうに、著者の好奇心は古今東西あらゆる場所に神出鬼没。その自由さが愉しい。
人間のとどまることを知らない想像力と、そしてそれをさも眼前にあるかのように描こうとするリアルさへの欲求。つまりそれは自分たちが生きている<世界>まるごとを、どうにかして我が物にしたいという欲望の強さのあらわれといって良いと思うが、この本で著者が集めた「綺想画」は、そのふたつの距離が大きければ大きいほど、現代のわれわれにとってインパクトもまた大きいのだということがよくわかる。
おそらく、それぞれの絵が描かれた当時と現代とでは、これらの絵に対する感じ方はおそらくまったく違うことだろう。それは<世界>に対する情報量の違い、そして<世界>の理解のしかたの違いなのだろう。昔はロマンがあっていいよねぇ、などという言い方は<現代人>だからこそ言えるのであって、当時はそれが唯一無二の世界観であり究極のリアルだったかもしれないのだ。
伊藤若冲などよく知られた画家も若干含まれてはいるが、ほとんどが滅多に紹介されない、したがって他ではなかなか触れる機会の少ない作品ばかりのこの本、叶うことなら実物も眺めてみたいものだ。中野さん監修の綺想画展覧会を、どこかの美術館か博物館で企画してくれないものだろうか。
この本の中でわたしがもっとも好きなのは、中国清朝の宮廷画家が描いたという絵巻『冰嬉図(ひょうきず)』(「十八世紀のフィギュア・スケート」pp210-215)。地面が黄土色なので氷上には見えないのだけれど、登場人物はたしかにスケート靴を履いて滑っている。<これは軍事訓練でもあり、漢族に対する満族の「国俗」の誇示という政治的な意味をも兼ねていた>と著者は述べているが、それにしては一見とてものどかで美しい絵だ。何十人ものスケーターが、複雑に設計されたコースを一列になって滑っているのだが、各々のポーズを追っていくだけでとても面白く、見飽きないのであります。
2008 02 18 [design conscious] | permalink
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