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ディランの画集はとてもいいぞ
●BOB DYLAN The Drawn Blank Series
Prestel Publishing Ltd./2007年
ISBN 978-3-7913-3943-6
昨年(2007年)夏、AFPがこんなニュースを配信していた。一部を引用する。
ロックの巨匠ボブ・ディランの個展 10月にドイツで開催続いて同年秋の記事から。リンク先に掲載されている写真には作品の一部も。
【8月9日 AFP】ロック界の伝説的人物、ボブ・ディラン(Bob Dylan、66)が旧東ドイツで個展を開催すると、ケムニッツにある美術館、Chemnitz Art Collections museumが8日に発表した。
(中略)
美術館の館長、Ingrid Moessinger氏はディランについて、40年に渡る作詞活動の側ら、視覚芸術にも熱心で、新しい作品は透明と不透明な水彩絵具を用いて鮮やかな色のエネルギーで溢れていると言う。
(中略)
ディランはMoessinger氏の熱意が個展準備に刺激を与えたという。「彼女の熱意は、数年前から持っていた作品の構想を再び思い起こさせる刺激になった」とコロンビア・レコード(Columbia Records)の発表の中で語っていた。(c)AFP
世界初となるボブ・ディランの絵画展、ドイツで開催
【10月30日 AFP】(前略)同博物館のIngrid Moessinger館長によると、ディランを説得するのにわずか2日間しかかからなかった。「彼は自分の絵を展示することに興味を持つ人間が現れたことを喜んでいた」と館長は語った。
絵画展の開催が決定したのち、ディランは肖像画、風景画、静物画、裸体画など320点をわずか8か月間で描き上げ、その中から好きなものを展示するよう言ったという。
(中略)
ディランがツアーのかたわら、水彩画を描き始めたのは1980年代後半から1990年代前半にかけて。「Man on a Bridge」や「Girl in the Red Lion Pub」と題された当時の作品は、印象派の影響を強く受けている。1994年には、「Drawn Blank」と題した画集を出版しているが、あまり知られていない。(後略)(c)AFP
その展覧会の図録が、六本木の国立新美術館の地下ミュージアムショップで売っていたので買ってきた。ショップに置いてあったときはビニールでパッキングされていて中身が見られなかったので、いわば“ジャケ買い”だ。わたしは1994年に出版されたという画集の存在を知らなかったので、彼の絵を見るのは今回が初めてなのだけれど、これは大当たりだった。
ミュージシャンの画集というと、以前このブログでウディ・ガスリー Woody Guthrie のドローイング集を取り上げたことがあった(→踊る阿呆を、観る阿呆。:ウディ・ガスリーの頭のなか)。あちらはノートやスケッチブックに描かれた「手すさび」的なものが多かったけれども、ディランの方は展覧会に飾られることを前提とした「作品」だ。もちろん両者ともとても良い絵で、絵のスタイルに共通性があると言えないこともないが、ガスリーの方はやはり時代を感じさせる。
画集を眺めていて、特にディランの色遣いに強く惹かれた。
色がとってもいいんである。品がよいと言おうか。上の記事では印象派からの強い影響を指摘しているが、わたしの感想はむしろフォービズム、特にマティスかデュフィあたりをもっとラフにした感じかな。色遣いもさりながら、モティーフ(たとえば窓のある室内)などにマティスとの共通性があるように思う。一方、人物の描き方にはもっとクセがあって、具体的な個人名は思い浮かばないがアフリカン・アートというかブラック・アメリカ系カルチャーに親しいタッチだと感じた。
ドイツでの展覧会の図録なので本文もすべてドイツ語かと思いきや、わたしが買ったこの本は英語版。ディランと彼のドローイングに関する評論が何本か掲載されているので、その気になれば読めるのだが、とりあえず今のところはパラパラとページをめくっているだけで充分楽しい。描線も色彩も実にフレッシュかつ健康的で、1941年生まれのお年寄り(といったら失礼か)が描いたというのがにわかに信じがたいほど瑞々しい。これは観る人を快活にさせる絵だと思う。
この展覧会、日本でも開催しないかなあ。「あのボブ・ディランが」というだけで話題になるのはまず間違いないし。とはいえ、作者名を隠して絵だけ見せてもじゅうぶん注目を集めるんじゃなかろうか。ポスターとかポストカードとか、あるいはTシャツなんかがあったらぜひ欲しいぞ。
2008 06 07 [design conscious] | permalink Tweet
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