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[exhibition]:VISUAL DECEPTION

●VISUAL DECEPTION だまし絵
2009年04月11日〜06月07日 名古屋市美術館
2009年06月13日〜08月16日 Bunkamura ザ・ミュージアム
2009年08月26日〜11月03日 兵庫県立美術館
【展覧会図録】
編集:名古屋市美術館、Bunkamura ザ・ミュージアム、兵庫県立美術館、中日新聞社
発行:中日新聞社
デザイン:高岡健太郎(エヌ・シー・ピー)
兵庫展のチラシには「アルチンボルドからマグリッド、ダリ、エッシャーへ」というサブタイトルがついている。これだけで展覧会の8割がたは説明しているいいコピーだが、ここに国芳も入れて欲しかったな。
誰でもいちどくらいは雑誌やなにかで見たことがあるはずの「だまし絵」をこれだけ大規模に集めた展覧会、そういえば今まであったっけ。簡単に思いつきそうで、でも本格的にやろうとするとそれなりに難しいテーマの好企画だと思う。案の定、わたしが美術館に向かった日は天気が良かったこともあってか、すごい人だかりだった。
展覧会冒頭に登場するジュゼッペ・アルチンボルドは16世紀のひと、そこから現代までのさまざまな「だまし絵」たちを網羅している。中だるみとか尻すぼみな感じもなく、最後までたいへん刺激的だったのは、やはり作者たちの仕掛けた罠にまんまとひっかかり続けたからだろうか。
「視覚とはなんぞや」だとか「われわれはなぜ絵画にダマされるのか」とか「そもそもリアリズムって何よ」とか「ていうか具象画でも抽象画でも、本質的にはみんなだまし絵なんじゃないの」などと、いくらでも難しく考え込むことも可能だし、一方で肩肘はらずに気軽に楽しむこともできる。わたしが行った日だけではないだろうが会場にはカップルや家族連れが特に目立ち、それぞれが絵の前でにぎやかにわいわいやっていた。絵の楽しみ方として、これはとても雰囲気がいい光景だった。
わたし自身は一人で観に行き、人混みにやや閉口しながら黙々と眺めていたのだけど、最後の方に展示してあったパトリック・ヒューズの『水の都(2008年)』という作品の前に来たときに、とうとう思わず声を上げてしまった。この作品、ヴェニスを描いたただの風景画のはずなのに、こちらの動きにあわせて絵の中が動くのだ。何度見てもその仕掛けがわからない。絵に近寄って、真横から眺めてようやくそのトリックがわかった。これが手品なら、タネを知ったあとは演者の手さばきを楽しむ、といった別の楽しみ方をするものだけど、この場合、相手は最初から物言わぬ同じ絵。なのに仕掛けを知ったあとでもやはり同じように画面が動いて見えて、その不思議さは変わらない。手品と違って、不思議のネタは眼の錯覚あるいは思い込みという<自分の側>にあるからなんだろう。すげー、すげーと絵の前を何度も行ったり来たりしながらつぶやく。いやはや、絵を見てこんなに興奮したのは久しぶりです。うん、やはりこういう展覧会は一人じゃなく仲間とわいわい言いながら楽しむものですな。
「だまし絵」というくくりだが、その範囲はうんと広くとられていて、さまざまな趣向が飛び出す。なにが広義でどれが狭義なのかは知らないが、なかでも「トロンプ・ルイユ Trompe-l'oeil」はその王道、と言っていいと思う。じっさい、出展品のなかでもいちばん数が多かったんじゃなかろうか。壁(たいてい無垢の木材だ)に描きかけの絵がかかっていてその画布の端がめくれているところを描いたものだったり、壁に紐をひっかけただけのシンプルなレターラックに手紙や思い出の品がひっかけてある様子が描かれていたりするものが多かった。日常的な風景だからこそダマされやすい、というのはあるだろう。
残念なのは、それらの作品がどれも立派な額縁に入れられて、白く無機質な美術館の壁に飾られていたこと。歴史的に貴重な絵画であることはわかるけれども、こういう展示のしかたは絵が意図するところを思いっきり無視した愚行だと思う。せっかく絵の中に木の壁が描かれているんだから、おなじような質感の木の壁を立ててその上にこれらの作品を飾ったらいいのに。もちろん額縁なんてとっぱらって。作者は現実と絵画の境界をあいまいにさせようとがんばってリアルに描いているのに、わざわざ絵と現実の境界をくっきり強調する額縁を付けるなんて、ほんとバカじゃなかろうか。
…などと思っていたら、豪華な額縁ごと美術館の壁面に埋もれる福田美蘭の作品『壁面5°の拡がり(1997年)』があって、笑った。そっか、絵画から額縁を外せとわめくよか、こっちの方がよほどシャレが効いていますな。
冒頭の写真は家の近所で撮ったもの。だまし絵の展覧会図録だから書影写真もなにか仕掛けのあるものを、と思ったものの何もアイディアが出ず、ただ木の枝にひっかけたというわけのわからない写真になってしまった。実はカタログの表紙はアルチンボルドの『ルドルフ2世』という、植物が人間の顔になっている有名な作品をモチーフにしているので、それにちなんで植物公園の中で撮ってみました——って、どうでもいい話ですが。
2009 09 20 [design conscious] | permalink
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