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ふたつの「想像上の村」

 

Theimaginedvillage

The Imagined Village
 REALWORLD CDR W147(2007年)
 
 プロジェクト自体は2004年頃からはじまっていたそうなんですが、同題の《The Imagined Village》なるアルバムがピーター・ガブリエルの REALWORLD レコードから出たのが2007年秋のことでした。「現実世界(REALWORLD)」で「想像される村(IMAGINED VILLAGE)」、なかなかシャレたネーミングですね。
 ジャケットは「絵付けされた古い磁器ふう」のイラスト(ケースからCDを取り出すと絵皿ぜんたいがあらわれる)だけど、よくよく見ると描かれているのは現代の都市風景。公園(ハイド・パーク?)のそばに破壊された自動車(もしくは放置されてボロボロになった違法駐車車両かも)があって、警官らしき男が立ってます。公園の向こう側には高層ビルが建ち並び、空には飛行機も飛んでいる。これが「想像上の村」の風景というわけか。牧歌的というにはいささか荒廃気味ですが。
 参加メンバーが多彩で、 Afro Celt Sound System の Simon Emmerson を筆頭にブリティッシュ・フォークの大御所 Martin Carthy と Eliza Carthy のカーシー親娘、Chris Wood 、ダンス・バンド Tiger Moth などのトラッド畑に加えてインディ・ポップの Sheila Chandra 、詩人でレゲエ・ミュージシャンの Benjamin Zephaniah 、それに The JAM や Style Council などでおなじみの Paul Weller も加わるとなれば、いったいどんな音楽になるんだろうと興味津々。
 
 「想像」のなかの「村」という名前にもかかわらず、——ジャケットイラストで予想できるように——このアルバムのテーマとなっているのは21世紀初頭の「リアルなイングランド」そのものでしょう。イングリッシュネスとはなにか、イングランドの伝統文化をどう受け継ぐべきか。そういう問いを、アングロサクソン人だけでなく、またフォーク・プロパーのミュージシャンだけでもない、「多民族混成」のバンドで問いかけたのが《Imagined Village》です。サイモン・エマーソンが 'Englishness is the final frontier of world music.' と言っているように、ここで追い求められているのはあくまで 'Englishness' 。無国籍ワールドミュージックでもなければ、グローバルなヒットチャート・ポップスでもありません。
 
 有名なチャイルド・バラッド(「子供の歌」ではなく、F・J・チャイルドという学者が収集・整理したイングランドとスコットランドの古謡集のこと)を Benjamin Zephaniahが 「Retold」した〈Tam Lyn(チャイルド#39)〉(→ヴィデオはこちら)をはじめ「Retold」という言葉が使われた楽曲が、全11曲のうち3曲あります。Cover でも Revival でも Renewal でもなく、Retold。おそらくは、これが《Imagined Village》のキーワードでしょう。
 
 コンセプト・アルバムではあるけれど、CD自体はオールスター・キャストによるオムニバス盤のような仕上がりで、楽曲毎に趣向が異なっているのでくりかえし聴いても飽きません。先にご紹介した〈Tam Lyn Retold〉のような超クールなトラックもあれば、アルバムラストのカッコいいダンス・ナンバー(Tiger Moth 大活躍!)もあって、iPod で他のCDとシャッフルしながら聴いてると、これらが同一のアルバムに入ってる曲とは気がつきません。
 
 
 そもそもどういう経緯でこのプロジェクトが立ち上がったのか、詳しいことは何も知らないのだけど、この手の企画はしょせん one-off、一回こっきりのプロジェクトでしょう。だから、2010年1月にセカンド・アルバムが出ると聞いたときには本当にびっくりしました。
 
Empirelove

●EMPIRE & LOVE/The Imagined Village
 ECC RECORDS ecc 002(2010年) 
 
 今回は REALWORLD からではなく、ECC レコードというインディ・レーベル(?)からリリースされています。
 ここにはポール・ウェラーもシーラ・チャンドラもいなくて、前回と共通するメンバーはサイモン・エマーソンとカーシー親娘、クリス・ウッドらのみ。前回がオムニバス・アルバムの様相だったのに対してこちらはより「バンドサウンド」で、ワン・オフ・プロジェクトではなく恒常的なグループであることを強く意識した仕上がりになっています。
 
 経験上、この手の企画モノっていうと、第1作が衝撃的であればあるほど「まさかの2作目」はがっかりすることが多かったりします。これがさらに3枚目・4枚目と録音が増えていくと、それなりに良いアルバムができたりもしますが、だいたいにおいて2枚目って良かった記憶がありません。
 で、このCDもやっぱりソレでして、前作のはしばしに感じられた「現代性」はぐっと後退してしまったように感じました。ファーストCDが「これぞ21世紀初頭のトラッド・アルバム」なら、セカンドの方は「20世紀後半のトラッド・アルバム」。フェアポート・コンベンションやペンタングルなどのような、懐かしきエレクトリック・トラッドの延長線上にはあるけれど、それは残念ながら「いま・ここ」の音楽ではないんじゃなかろうか。
 前作以上にシタールが多用されているのが印象的ですが、ただサウンド的な目新しさにとどまっているのが惜しまれます。前作の、たとえば〈John Barlecorn〉にみられるような、リズムまで支配してしまう強さがないんですね。単に伴奏楽器のひとつ、として扱われています。このあたりは、意図してそうしたというよりかは、むしろ彼らの限界をみた、という気がします。
 
 《Imagined Village》はCD発売後のツアーに出ているようで、もし新作の反応がよければバンドとして長く活動していくことでしょう。今後この「バンド」が変わっていくのか、変わっていくならどういう風に、という興味もなくはないですが、じゃあこれからも熱心に新譜を追いかけ続けるかというと…うーん、ちょっと微妙かな。
 

2010 01 17 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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