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これがセッション。TRANSATLANTIC SESSIONS

 
 アイルランド国営放送RTÉとBBC Scotlandの共同制作による音楽セッション・シリーズのDVD。同シリーズのうちシーズン2だけDVD化されていないのが残念(契約上の問題らしい)だが、この3タイトル計5枚のDVDを堪能するだけでも時間はたっぷりかかる。わたしは昨年末にシリーズ3作品をオトナ買いして以来毎日、自室にいるあいだはディスクをとっかえひっかえしながら視聴している。PALディスクなので日本の普通のDVDプレーヤーでは観られないけど、なに、PAL対応のプレーヤーなんて最近はかなり安くなってるし(3000円台で売ってるのを見かけたこともある)、なんならこのDVDを観るためだけに機械を買うのもアリだろう。
 

Transatlantic_sessions


●TRANSATLANTIC SESSIONS
 (写真中央)
 THE ORIGINAL TRANSATLANTIC SESSIONS with ALY BAIN & JAY UNGAR
 WHIRLIE RECORDS DVD02(2008年発売)
 (写真右)
 TRANSATLANTIC SESSIONS 3 with JERRY DOUGLAS & ALY BAIN
 WHIRLIE RECORDS DVD01(2007年発売)
 (写真左)
 TRANSATLANTIC SESSIONS 4 with JERRY DOUGLAS & ALY BAIN
 WHIRLIE RECORDS DVD03(2009年発売)
 
 Directed by MIKE ALEXANDER Produced by DOUGLAS EADIE
 Packageing Design by MIKE GARDEN @ BIRNAM CD
 
 'SESSION' を英和辞書で引くと「議会の開会」や「裁判所の開廷」という意味が最初に並んでいて、ちょっとびっくりしたりする。音楽好きの間では楽器を持ち寄ってちょいと一緒に遊ぼうぜ、という軽いノリで使っているけど、本来はもっとお堅い、重々しい言葉なのかしらん。
 
 
 わたしは超がつくほどド下手なフラットマンドリン・プレーヤーでありまして、最近はとんとご無沙汰になってしまったけれど以前は仲間内のセッションにも時々参加させてもらっておりました。アイルランド伝統音楽の場合基本はユニゾン演奏なので、全員が同じメロディをせーのでプレイする。一座の中には上手い人もいればわたしのようにまったくついていけない人もいるわけだけど、ほんの一瞬だけでもみんなが「揃った」と感じる瞬間があったりして、それがとても楽しいんですね。ああ、セッションっていいな。
 
 …というふうな素人の寄合セッションと、このDVDでのセッションとは、もちろん内容がまったく違う。第一に彼らは全員凄腕のプロフェッショナルだし、第二にコレはテレビ番組のために行われた「お仕事」なのである。DVDにはレコーディングの舞台裏を撮ったメイキング映像も含まれていて、それによれば出演ミュージシャンにはみなヘアメイクがついてちゃんと「映像用」にかっこよく仕上げている。演奏場所も現代的な味気ないレコーディングスタジオではなく、スコットランド高地地方の風情ある一軒家(Killiecrankie近郊の「Strathgarry House」という家との由)。ライティングが素晴らしいしカメラワークは美しいし、編集のセンスもとってもすてき。ここに登場する楽器たちどれもみな、なんて官能的なことか。もちろん、それを自在に操るミュージシャンたち、シンガーたちの表情もとてもいい。
 
 「このためだけに集まったミュージシャンたち」が作る音楽は、パーマネントのバンドの演奏とは当然異なるし、同じ顔合わせでも、たとえばコンサート形式ではまた違うプレイになるだろう。ライブではない、より音楽に集中できるスタジオ・セッションを「映像で見せる」というのはいかにもテレビ的発想だけど、そういうシチュエーションをミュージシャン自身も楽しんでいるようだ。
 現場にこそ観客が誰一人いないけれど、テレビ画面の向こう側にいる(おそらくはワールドワイドな)観客の存在を、はじめから想定して、丁寧に作りあげられたセッション。だから当然といえば当然なんだけど、このDVDはホントに一瞬たりとも目を離すいとまがない。 一本30分の番組のために、どれだけの制作準備時間が費やされているんだろう? 画面に出てくるミュージシャンだけでなく、撮影・録音スタッフもプロフェッショナルが揃って、共にいい番組をつくるために仕事をしているのがよくわかる。観ていて非常に気持ちがいいのは、そのためだろう。
 
 * * *
 
 北米、アイルランド、そして地元スコットランドから集まったひと癖もふた癖もあるミュージシャンたち。1st.シーズンを見始めてわたしがまず最初に連想したのは、かの懐かしきニッティ・グリッティ・ダート・バンド Nitty Gritty Dirt Band の『永遠の絆 Will The Circle Be Unbroken』だった。正確には1972年の第一作ではなく89年にリリースされた続編の方。じっさい、ジェリー・ダグラス Jerry Douglas とエミルー・ハリス Emmylou Harris とマーク・オコナー Mark O'Connor の3人は『Circle II』に参加していたし、そのテーマ曲《永遠の絆》も第5夜2曲目に登場する(蛇足ながら、シーズン4に出演するロザンヌ・キャッシュ Rosanne Cash も『Circle II』参加メンバーのひとり)。
 この1st.シーズン、BGMがわりにぼんやり聴いている限りではエミルー・ハリスの歌声がやたら耳に残る。この人は「どこに行ってもエミルー・ハリス・なにをやってもエミルー・ハリス」なヒトなので、まあその押しの強さがいいところなんだけど。
 エミルーと同様、ジェリー・ダグラスも非常に個性的なドブロを弾く人なので、ひときわ印象に残る。しばらく見ない間に、容姿がすっかり貫禄たっぷりになっていてびっくり。
 全体的な傾向として、北米組は上記二人に代表されるように「押しの強い」タイプが多いかもしれない。対するアイルランド組、そして迎え撃つスコットランド組は、どちらかというとより全体に調和しようとする傾向があるような気がする。このDVDを観ただけで大きいことは言えないけれど、音楽性というかビジネスとしての音楽界で生きていく方法論というか、そういう部分で、国ごとの違いがあらわれているんじゃないか(ジェリー・ダグラスのドブロは、シーズン3やシーズン4では変化がみられ、徐々に「押し」だけではなく「引く」方向も意識していくようになったと思う)。
 個人的にはシーズン3がいちばん好き。内容的にいちばんバランスが取れているように感じた。どのナンバーもステキだけれど、たとえばポール・ブレディ Paul Brady とカレン・マシスン Karen Matheson とエディ・リーダー Eddi Reader の3人が並ぶ図なんてそれだけで涙モノだ。カレンのうたをちゃんと聴くのは4〜5年ぶりだが、このDVDはこれまでの彼女のソロ・パフォーマンスの中でも出色の出来じゃなかろうか。
 
 * * *
 
 素人の寄合セッションが楽しいのと同様に、これだけのプロフェッショナルが集う現場だって非常に楽しいはずである。けれど、たとえまったくの初顔合わせではないにせよ、ふだんあまり一緒にやらないミュージシャンが集まって短時間のうちに音楽を作りあげていかなければならない現場というのは、想像以上に大変な作業でもあるはずだ。演奏中のミュージシャンたちが全身を耳にして、ピンと神経を張り詰めているのが画面を通じてよくわかる。
 映像を眺めていて、わたしがいちばん印象に残ったのは彼らの「眼」だろうか。誰もがメンバー全体を常に目配りし、しょっちゅうアイコンタクトを取り合っている。そうして、良いフレーズが出たときには共ににっこり笑い、ここぞという瞬間には目配せののち全員で一気に突っ込む。その時の「眼」が好きだ。さりげなく顔を見合わせているだけのように見えて、彼らは耳で、そして眼で会話をしている。
 最終的に奏でられた音楽は「番組の注文に応じてプロが作った商品」(という言い方が好まれないなら<職人の手造り一品モノ>とか言ってもいいけど)だけど、それが映像つきだと、製造(創造)過程の熟練の手わざや相互間のやりとりの顛末がそっくり附いてくる。音質が良いディスクだから目を瞑って音楽アルバムとして聴いているだけでも充分気持ちいいんだけど、映像のもつ力はやはり大きい。
 
 
 冒頭で、素人セッションのことをちょこっと書いた。わたしのような超ド下手だと、演奏中はとてもじゃないが周りを見渡している余裕なんかない。となりの人とにっこりアイコンタクトなんてとんでもない。自分が手にしている楽器のことで精一杯なんである。周りを見渡す余裕がないということは、つまりは周りの音も聴いているようで、実はそれほどしっかり聴けていないということだ。
 このDVDでは、みんなほんとに楽器でおしゃべりしているなあ、音楽で会話しているなあ…とここまで書いて、ようやく辞書の訳に合点がいった。議会でも裁判所でも、そこはまず「対話の場」であって、「相手の話をきちんと聞く」ことと「ちゃんと自分の話をする」ことがもっとも重要じゃないか。
 
 なるほど。セッションって、そういうことだったんだ。
 

2010 01 12 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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