« セント・パトリックス・デイ・パレード2010 | 最新記事 | アナニアシヴィリの『ジゼル』 »

やっぱアナニアシヴィリはすごいわ

 
Georgia
●ニーナ・アナニアシヴィリ&グルジア国立バレエ『ロミオとジュリエット』
 (2010年2月28日・滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 大ホール)

 わたしがアナニアシヴィリの名前を知ったのは1992、3年ごろだったでしょうか。『アナニアシヴィリと世界のスターたち』というガラ公演が91年12月に東京(Bunkamura)で行われ、その模様がNHK教育テレビで放送された時です。その公演にはバレエ・リュスの重要なレパートリィのひとつ『薔薇の精』がプログラムにあったのでたまたま録画しておいたんですが、ヴィデオを見始めてすぐに、主役であるニーナ・アナニアシヴィリの踊りに魅了されました。この番組はのちにレーザーディスクでも発売されたのでいそいそと購入、同じアナニアシヴィリ主演のペルミ・バレエ団公演『白鳥の湖』(92年10月Bunkamura)とともにお気に入りディスクとして何度も観たものです。
 はじめてナマのステージに接したのはそれから数年後、阪神淡路大震災前後のころだったかにアメリカン・バレエ・シアターとともに来日した『白鳥の湖』(フェスティバルホール)。このときのステージはなんともAmericanな白鳥で、スポーティというかなんというか。陽性でからっとしていてメリハリの効いた白鳥だったのを今でもよく覚えてます。
 というわけで、『ドン・キホーテ』のグラン・パだとか、黒鳥オディールの32回転グラン・フェッテだとかのような、誰にでもわかりやすい派手なダンスを得意とするひと。わたしにとってアナニアシヴィリはそんなイメージのバレリーナでした。
 その後、結婚や出産、アメリカン・バレエ・シアターとの契約終了など、ときどき断片的な情報は小耳に挟んでいたんですが、特に深い関心を向けるでもなく年月がたちまして、今回は久しぶりに観ておこうか、というくらいの軽いキモチで会場に向かったわけです。
 
 
 演目はご存じ『ロミオとジュリエット』。ストーリィ的にどう考えてもハッピー・エンドじゃないし、アナニアシヴィリもいいかげん年をとって往年の派手さはもう望むべくもないだろう、だいいちグルジア国立バレエってずいぶん地味じゃないの。などなど、観るまえはなんの情報も仕入れず、ということはろくに期待もせずにいたのですが、いやあとんでもない思い違い。アナニアシヴィリはやっぱり凄かった。
 
 いわゆるコスチューム・プレイなので、次から次へと繰り出される衣装も美しかったし、チャンバラシーン(フェンシングですが)もたくさんあったりしてそれも楽しい。全三幕13場と場面転換が多かったのも飽きさせません。その舞台装置の転換も実にスムーズかつ静かで、観客が物語に集中できるように、ステージづくりの隅々にまで細心の注意が払われていることがよくわかります。そんな細部にもとても感心したし ロミオの友人として客演した岩田守弘さんも見応え充分だったんですが、やはりなんといってもアナニアシヴィリにすっかり夢中になってしまいました。
 
 正直、アナニアシヴィリのジュリエットってどうよ、などと思っていたのですよ。このバレエ、原作がシェイクスピアの戯曲だから、しっかり物語を語る必要があります。マイムとか表情だとかの、ダンス以外の演技力がそうとう要求される作品でしょう。科白がないバレエだからこそ、たぶん役者以上に難しい部分も多いんじゃなかろうか。
 
 
 まだ恋も知らないお転婆な少女から、ロミオに出会って愛を経験する女性になるまで。第一幕から第三幕までのあいだにジュリエットはみるみるうちに成長を遂げます。ロミオ含めまわりの登場人物にはそんな変化が見られないことを考えると、このバレエは実は一貫して「ジュリエットの物語」を語っていた、とみていいでしょう。うぶな乙女から愛を知った女性へ、けれど若さ故のわずかなツメの甘さが悲劇的なラストに結びつくという演出は、ジュリエットを演じるバレリーナの技量しだいではとんでもなくマヌケで滑稽なおはなしにもなりかねないのですが、それをアナニアシヴィリは見事に演じました。人生においてもっとも多感でもっとも繊細なお年頃、聡明だけれども自分の愛を貫くにはまだ若すぎた、そういう少女であることをちゃんと表現していたからこそ、このバレエは悲劇の物語として成立していたのだと思います。
 
 
 ニーナ・アナニアシヴィリは2004年から祖国グルジアの国立バレエ団芸術監督に就任。ロシアとの緊張が続き政情不安定ななかでこれだけ質を高めていくことはおそらく想像以上に過酷な仕事でしょう。わたしが大好きなダンサー、フラメンコのマリア・パヘスも新しいフラメンコを創り出すべくたいへんハイレヴェルな闘いをずっと続けているひとですが、このふたりがともに63年生まれの同世代だと今回はじめて知りました。たまたま偶然の一致なんでしょうけど、個人的には感慨深いものがあります。
 
 今回の来日公演、一週間後には西宮で『ジゼル』をやるんですよねえ。こっちの方はチケットを取っていないんですが、この際ちゃんと見ておきたくなりました。なんとか当日券を入手できないものか、ただいまスケジュール帳ともにらめっこしながら思案している最中であります。
 

2010 02 28 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

「dance around」カテゴリの記事

trackback

スパム対策のため、すべてのトラックバックはいったん保留させていただきます。

トラックバック用URL:

トラックバック一覧: やっぱアナニアシヴィリはすごいわ:

comments

 

copyright ©とんがりやま:since 2003