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アナニアシヴィリの『ジゼル』

 
Giselle
 というわけで行ってきました。当日の朝会場に電話し、当日券があることを確認。その場で取り置きを頼んで、冷たい雨が降る中そそくさと家を出ました。3階ではあったけど最前列ほぼ中央で、まあ良い席だったんじゃないかな。1階、2階はほぼ埋まっていたようですが3階ともなると空席もあり、わたしの隣や後ろもがらっと空いていたんですが、そのぶん気兼ねなくゆったり鑑賞できました。
 
 今日の出し物はつとに有名な『ジゼル』。こういっちゃなんだけど暗いおハナシではあります。先週観た『ロミオとジュリエット』が場面転換の多いドラマティックなバレエ(実際、芝居が原作ですが)に対し、こちらは——第一幕こそストーリィ中心ですが——いわゆるロマンチック・バレエ、より純粋にダンスを楽しむことができます。
 
 『ジゼル』は前半と後半で別もののようなダンス作品でして、ガラ・コンサートやダイジェストDVDなんかでよく取り上げられるのは第二幕のパ・ド・ドゥですが、主役の娘の死で終わる第一幕だけでもじゅうぶん面白い。純真な村の娘が愛の裏切りにあって気が触れていくという心理描写がみせどころでしょうか。死んだ娘は、第二幕では精霊となって、彼女を死に追いやった直接の原因であるアルブレヒト王子を助けるのですが、これ、現代ならとことん男に復讐する救いようのない結末でも通用するかも。ともあれ、前半ではうら若き生娘、後半ではこの世の存在ではない精霊と、ふたつのキャラクターを演じ分けなければなりません。
 
 お、と思ったのは、アナニアシヴィリのステップ。特に後半、彼女はすでに肉体を持たない精霊なんですが、その「重力の無さ」感がすばらしい。
 
 先週も感じたんですが、彼女は踊るときに余計なステップ音をほとんど立てません。そのことには、彼女はおそらくよほど神経を遣っているのだろうと想像します。余計な音といえば思い出すのは以前観たパリ・オペラ座『白鳥の湖』で、あそこはおそらく当代随一のバレエ団であるはずなんですが、やたらドッスンドスンと無粋なこと。とくに後半の白鳥たちの群舞にそれは顕著で、まあこういうのは芝居の黒子とおなじで観て見ぬフリ、「ないもの」として楽しむものなんだろうなとは思ったんですが(ちなみにそのとき観たハコは、日本でバレエ公演と言えばまず第一に挙げられる東京文化会館)。
 
 先週のびわ湖ホール、今週の兵庫県立芸術文化センターともに比較的新しいホールなので、ステージの設計なんかにも工夫があるのかどうか、そのあたりのことは知りませんが(座る場所によっても異なるでしょうし)、びわ湖ホールで物語のみに集中できたのは、そんな雑音も含めた「余分なモノ」がまったく気にならなかったことが大きいと思います。もっとも、びわ湖ホールはほどよい大きさでどの場所からも見やすい良いホールではあるんですが、ステージ真上のでかい照明設備だけはなんとかならなかったものか。ぜんたいに木の美しさを生かした美しい造りなのにあの場所だけアイボリーホワイトのバカでかいかたまりがどんと乗っかっていてちょっとがっかりします。まあ、そんな装置は暗くなってしまえば見えないんですけどねえ。
 その点、兵庫の方は隅々までキレイ。けれどダンサーのステップ音という点では、こちらはけっこう響きます、第二幕、ウィリ(精霊)たちの群舞のシーンでは、ジャンプして着地するときの音だけでなく、たんにステージ上を歩く音もけっこうしていました。トゥ・シューズってあんなにツカツカと硬質な響きのする靴なんでしたっけ。
 そんななかでも、アナニアシヴィリやアルブレヒト役のアンドレイ・ウヴァーロフなど主演級のダンサーには必要最小限の靴音しか聞こえません。やはりこれはダンサーとしての技倆であると同時に、そういう意識をしっかりもって踊っているというあらわれなんでしょうかねえ。
 
 
 先週も書きましたが、わたしはアナニアシヴィリをずっと熱心に追いかけてきたわけではありません。むかし観たときの印象で、明朗快活でスポーティなダンサーである、というイメージだけが残っていたんです。『ジゼル』でのアナニアシヴィリも、ときにシャープで直線的な印象は受けましたが、それ以上に、とてもしなやかで大きなダンスをするひとだなあと思いました。やわらかで観る人を包み込むようなぬくもり、これが円熟ということでしょうか。一方で、ポーズを決めるべきところでピタッと決まるのはやはり快感なわけで、メリハリがきちんと効いているのはそのまま「わかりやすさ」につながるんだなあと改めて思ったり。
 
 グルジア国立バレエ団は、アナニアシヴィリが芸術監督に就任してからはおなじグルジアつながりでジョージ・バランシン作品も多くレパートリィに入れているということですが、次はそちらも観てみたいなあ…などと終演後ぼんやりしながら歩いていたら、ホールの隅に英国ロイヤル・バレエ団の『ロミオとジュリエット』の告知ポスター(7月3日)が。おお、シェイクスピアの本場が演るとどうなるのか、せっかくだから見較べてみたいぞ。
(2010年3月7日、兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール)
 
 

2010 03 08 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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クラシック・バレエ,白鳥の湖,ステップ音…と来て真っ先に思い出すのは,山岸涼子の「アラベスク」。水面下では必死で水掻きを動かしている白鳥だが,水面上では力を感じさせない優雅さを表現するのだ…と,ノンナも開眼するんですな。

posted: わたなべ@GiN (2010/03/13 23:28:54)




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