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トリニティ・2010

 


●トリニティ アイリッシュ・ダンス 2010年7月17日、Bunkamuraオーチャードホール公演のダイジェスト映像(You Tubeより)
 
 
 三度目の来日公演となった2010年のステージも、過去二回のそれと、つくりにおいてはそれほど大きな違いはありません。セットは一切なし、一貫したストーリィを物語る舞台でもない。ただし内容が少しずつ変化していて、ふたつの新作が加わっているのと、前回までは90年代の作品が多かったのに比べて、今回のツアーでは大半が2000年以降の作品であるのが目を惹きます。旧作も手直しを施されて2010年ヴァージョンとして発表していることもあって、今年の公演にはかつてないほどの新しさを感じさせます。個々の作品の完成度とパワフルさにおいては、間違いなく今回がいちばんでしょう。
 

 
 新しさ、というか、全体的になにか「迷いがなくなった」ように、わたしには感じられました。とくにリズムの扱い方には誰にも負けない自信を持っているのでしょう。オープニングの〈Out of the Woods〉やキーラの曲をフィーチャーした〈Curran Event〉に代表されるように、アフリカン・テイストの楽曲がけっこう目立つのですが、多くの演目でドラム/パーカッションの音をこれでもかといわんばかりに強調しています。ジグやリールやホーンパイプといったアイリッシュ・トラディショナルなリズムからは自由で、それでいて脚さばきやステップはアイリッシュ・モダン・ステップのそれを大きく逸脱することがない。下半身だけ観ればどうみてもアイリッシュ・ダンスなんだけど、両手は派手なボディ・パーカッションをやってみたりばちを両手に和太鼓集団ばりに床を連打してみたり(冒頭ビデオのラスト部分参照)などと、さまざまな試みをしています。重要なのは、その両者が何の違和感もなく結びつき表現されていることで、上述した「迷いがなくなった」感じは、その融合ぶりがこれまでよりもはるかに徹底していたことに起因するものでしょう(Brast!あたりと似た雰囲気があるかも)。
 また、ダンスの技術的にも粒が揃っていて、これはダンス学校が母体にあるからこそなのでしょうが、なかでも群舞のシンクロぶりはただごとではありません。
 彼らのトレードマークのひとつに、NYタイムスが「空飛ぶ脚」と呼んだという、片足をタイトに曲げもう片方の足をピンと伸ばしてジャンプするポーズがあります。すごく高いジャンプで、ほんの一瞬だけど空中で静止しているかのようにも見える実に印象的な大技なんですが、これをプリンシパルだけでなくダンサー全員が同レヴェルで軽々とこなしているさまはお見事としかいいようがない。こういったテクニックだけでなく、ノリやちょっとしたクセまでもが揃いも揃ってるというのは、このカンパニーならではの強力な武器でしょう。
 
 リズムと言えば、ドラムスのBarret Harveyは2006年に続いて2度目ですが、このひとスコットランド系なのかしらん。スカートを穿いて(冒頭の映像にもちらっと出てきます。そういや前回はどんな衣装だったっけ?)ドラムセットやバウロンをしなやかに叩いておりました。この人のドラムスは音色が澄んでいて、聴いていて気持ちがいいですね。彼の個人サイトに、今回のステージとほぼ同内容の動画があります。また、YouTubeには別のソロパフォーマンスがあったのでついでにご紹介。


 
 
 トリニティは、というか芸術監督のマイク・ハワードは、どんなに斬新なパフォーマンスを踊ろうとも自分たちを「アイリッシュ・ダンス」というカテゴリから外そうとしません。ステージ大トリの演目〈Trinity〉の前に、ギター/ヴォーカルのBrendan O'SheaのMCで「Our Traditional」——という言葉を、確かに使ったと記憶しています——がこれなのです、と言って始まったのが、競技会そのままのダンス(音楽は録音を使用)。競技会特有の、細かなニュアンスを排したアコーディオン演奏で踊る、あのスタイルこそが、トリニティにとってのトラディショナル、つまり原点でありアイデンティティなのですね(あのケルト風模様の刺繍入りの<伝統的>コスチュームも含めて)。アイルランドのダンサーならば、たとえ競技会出身でモダンしかやらない踊り手であっても、そのルーツにはオールドスタイルやシャン・ノースといった、もっと古い記憶のようなものが身体に刻印されていると思うのですが、トリニティの場合にはそれが全くありません。彼らアメリカ人たちの出発点は、あくまでも「競技会ダンス」なのです。競技会スタイルは、誕生しておよそ100年くらいの文字通り近代の産物ですが、「それ以前」はアメリカには存在しないことを、彼らは如実に物語っているのです。…って、4年前にも書いた同じことをまたぞろ書いてるような気がしなくもないですが(ひとつ付け加えておくと、4年前の感想(前回記事参照)に<悲しいほど下手>と書いたアンコールでのストリート・ダンスは、今回はとても自然だったと感じました)。
 
 
 2004年の初来日ではなんだかなぁと思っていたトリニティですが、回を重ねるうちに徐々に彼らの魅力に気づくようになりました。次の来日が早くも楽しみなのですが、ちょっと気がかりなのは、今回のツアー日程の短さ、公演回数の少なさ。関西公演が省かれたのは個人的にショックでした。ひょっとしてあまり人気がないのでしょうか。
 ラグースのような「正統アイリッシュ」なステージももちろんステキなんですが、一方でトリニティのようにアイリッシュ・ダンスの地平をうんと押し広げるステージも、ぜひ続けて欲しいものです。<伝統と革新>の意味をもっとも深く問いかけている彼らのパフォーマンスは、シャン・ノースどころか競技会スタイルでさえ自らの「伝統」にはない日本人にとって、多くの示唆を含んでいるはずでしょうから。
 
 おまけでもうひとつYouTubeから。画質はいまいちですが。

 

2010 07 20 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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