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ヤン・リーピンの「クラナゾ」

 
Clanazo
 
“東洋のリバーダンス”というキャッチフレーズだけ目にして前売り券を購入したこの公演、観終わってさていったいどの辺がリバーダンスだったんだろうと考え込んでしまった。確かに、振り付けのところどころにはかのアイリッシュ・ダンス・ショウからインスピレーションを得たと言えそうな部分もあったけれど、全体としては当然のことながら全く違う。
 ダマされた、カネ返せという話ではもちろんない。わたしはむしろ「へえ、リバーダンスって釣り文句になるくらいメジャーな存在だったんだ」というところに感心してしまった。

 クラナゾは、全編ありがたい「チベット仏教説話」である。ひとりの老婆が九賽溝から聖地ラサを目指して五体投地をしながら巡礼をしている。その道中で出会うチベット各地の人々の舞踊とうたを、極彩色の衣裳とともに紹介してゆくという筋書きだ。途中休憩が入る二部構成なので、前半と後半で内容ががらりと変わるのかとも思ったがさにあらず。巡礼の旅に出て三年、志なかばで倒れてしまった老婆の魂が慈悲により救済され、輪廻転生でめでたしめでたし、というストーリー展開は最後まで、というかフィナーレに向かうほど驚くほどピュアかつ剛速球ど真ん中ストレートで、いまどき京都や奈良のお寺でもこんな真正直な説法は聴けないだろう。そういえばタイトルの「クラナゾ」は「チベットの謎」という意味だそうだが、いったいどのへんが「謎」だったんだろ。
 
 
 開演の30分前に開場。客が場内に入りはじめるとすでに舞台上では“芝居”が始まっている。舞台いっぱいに建てられた巨大なマニ車が七基。出演者のうち数人がその周りをぐるぐる歩きながら、マニ車を回し続けている。僧侶姿の男性が吹くホラ貝が開演を知らせる客ベルの代わりだ。観客がより自然に本編に入り込めるよう、開演前からムードを盛り上げていく演出はよくあるけれど、クラナゾのそれもなかなかよく考えられていた。もっとも、マニ車を回すのは読経の代わりとなる敬虔な宗教行為のはずだが、その割には彼らはみるからにこの作業に飽きていて、ただの単純労働者にしか見えなかったのには苦笑したけど。
 舞台の左右には電光掲示板が設置してあって、字幕が出る。各場面の章題や主演者の名前、うたの簡単な意味などが随時掲示されるのだが、いちいち筋書きを説明したりチベット文化に関する解説が入ったりと、少々目ざわりでもあった。
 つかチラチラ気になって舞台に集中できないっちゅうの。少し離れた席の子供が母親に「ねえあれ何て読むの?どういう意味?」としょっちゅう訊いていたのにも参った。だいたい文字情報をあんなに大量に付加しなけりゃならない舞台ってのはどうよ。ステージの上で演者の肉体だけで表現してこそ“ライブ”なんじゃないのか。
 ま、これのおかげでより理解がすすんだのは確かなので、字幕が全く不要だったと言い張るつもりもないんだけど、それでもあれほどの過剰な説明はいかにもテレビ局主催(TBS)の公演らしいとは言えるかもしれない。そう言えば、美術館でもやたらクドい解説パネルにうんざりする展覧会に出くわすことがあるけど、たいてい新聞社主催だったりする。こういうのってマスメディア特有の生活習慣病なのかもしれませんな。
 
 …どうもさっきから文句ばかり書き連ねてる気がするが、もともとチベットの民族舞踊は好きなので公演自体はそれなりに楽しめた。鮮やかな民族衣装の数々はため息が出るほど美しいし、いかにも中国系のステージらしく人・物両面にわたるこれでもかと言わんばかりの物量作戦もいまどき贅沢だ(出演者は総勢何名だったんだろう?4〜50人くらいはいたのかな)。大掛かりなセットだって惜しみなく投入されている(そのぶんライティングはわりと単調)。残念ながら音楽は録音が主体だが、出演者の肉声も多く(上手に録音と合成してはいるんだろうけど)、特にブルガリアン・ヴォイスばりの鮮烈なコーラスには心底シビれた。CDとか出てないのかな。
 
 ヤン・リーピン自身の出番がごく僅かだったのも残念。彼女は観音菩薩さまターラー菩薩さまの役なので、老婆を導くここぞという場面にしか登場しないのだ。ソロダンスは流石に見応えがあって素晴らしかったんだけど、いかんせん短すぎ。フィナーレのあと、アンコールのような形で本編とは関係のない現代的なソロダンスを見せてくれたが、あれをもっと観たかった。にしても関節が驚くほど柔らかく、身体の隅々まで自在にコントロールできるすごいダンサーだ。

 本公演は早いうちから追加公演も決まっていて、わたしが行った千秋楽でも客席はほぼ埋まっていたように思う。プログラムもすっかり売り切れて買えなかったくらいだから、おおむね好評だったんだろう。大震災や原発事故による放射能問題の影響で延期や中止となった興行も多いなか、きちんと来日してくれたヤン・リーピンには感謝!

(4月10日・Bunkamuraオーチャードホール)
 
 ※【参考】あるいは関連してるかもしれない?過去記事→[DVD]:舞・長い袖のチベット舞踊(2004年11月24日) このDVDに収録されているチベット舞踊は宮廷舞踊が多く、「クラナゾ」のような民間伝承系のダンスとは少し様子が違いますが。

2011 04 10 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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