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Exhibition 2011

 
 一年を振り返るにはいささか早いですが。
 
 ブログの更新頻度もめっきり減ってしまいまして、以前は展覧会など観に行ったら必ず感想を書き残していたんですが、そういうこともほとんどやらなくなってしまいました。どーも文章を書くのが億劫になってきているのかしらん。
 
Exhibition2011
 
 出かけた展覧会はよほどのことがない限り図録を買って、家に帰ってから反芻したりするんですが、今年の分をどさっと積み上げてみたところ、上のようになりました。ひいふうみい…あ、なんだかんだで平均ひと月に一度くらいは何かしら観に行ってる勘定になるのか。正直、もうほとんど思い出せない美術展もあったりしますが、せっかくなので図録を頼りにひとことずつ書いてみます。
 
●ラファエル前派からウィリアム・モリスへ
 2011年2月25日〜3月27日 美術館「えき」KYOTO
 今年はじめて足を運んだ美術展がこれ。とくにステンドグラスが美しかったのが印象的でした。いまあらためて図録を見返してみて、まあ描かれている人物の誰もがみな、愁いを帯びた物憂げな表情ばかりだこと。人間性をデザインするのではなく、理想のデザインに人間を当てはめていくような、どこか教条的な窮屈さを感じてしまいます。まあ、「様式」ってのは往々にしてそういうものなんでしょうけど。ウィリアム・モリスが興したアーツ・アンド・クラフト運動はイギリス産業革命のいわばアンチ・テーゼとして誕生しましたが、結局、ただひとつの類型(スタイル)を編み出したにとどまり、豊かなバリエーションをつくりあげることはできませんでした。そのことが、この展覧会の「みな同じメランコリックな表情」を観ているとよくわかります。
 
●ああ!美しきモダーンズ —東西新世代女性たちの装い—
 2011年01月27日〜04月03日 神戸ファッション美術館
 →ブログ過去記事参照。主題の衣装の展示より、グレゴリ青山さんのコレクションをもう一回観たいな。どこかでまた展示してくれないかしら。
 
●パウル・クレー おわらないアトリエ
 2011年3月12日〜5月15日 京都国立近代美術館 
 あの3・11の翌日から始まったクレー展。手元に残っているチケットの半券には3月20日のスタンプが押されています。連日の報道にかなり滅入っていた時期で、思い返せば観客もいくぶん少なめだったような。本展は、パウル・クレーの創作プロセスを、これまでにない切り口で探っていこうとするもの。油彩転写という独自の技法や、既に描き上げた作品を分断し再構成させてみたり、アトリエに並べた自作を写真に記録したりと、彼が試みたいろんな実験が紹介されています。ただ単に出来上がった作品を眺めるだけの普通の展覧会と違って、これは作家の頭の中をのぞき込もうとするもので、会場を出てからアタマにどっと疲れが出たことを覚えています。内容を理解すべく集中しようとしても、どこか心ここにあらず、だったのは時期が悪かったためでしょうか。いま図録を読み返してみても、あの頃の鬱々とした気分が甦ってきます。
 
●長沢芦雪 奇は新なり
 2011年3月12日〜6月5日 MIHO MUSEUM
 芦雪は円山応挙に学んだ絵師。仔犬や巨象と戯れる子供たちなど、丸っこくて小さくてころころしたさまがなんとも愛くるしい。現代につながる<カワイイ>の概念は彼が始めたんじゃないかと思うくらいです。一方で、この人もまた辻惟雄さん言うところの「奇想の系譜」に名を連ねる絵師で、六面の屏風いっぱいに白象を描くかと思えば、今回新発見され本展の目玉作品ともなった《方寸五百羅漢図》はなんと縦・横3.1センチという超マイクロな作品で、なんつーか、自由でいいなあ。
 
●陶酔のパリ・モンマルトル 1880ー1910 「シャ・ノワール」をめぐるキャバレー文化と芸術家たち
 2011年4月16日〜6月5日 伊丹市立美術館+伊丹市立工芸センター 
 あまり期待もせずに出かけたのですが、予想以上に大がかりな展覧会だったので大満足でした。いわゆる「パリ世紀末」の時代を物語るポスターや刊行物など貴重な資料がいっぱいで、飽きさせません。ひとくちにアール・ヌーヴォー様式といっても年を追う毎にスタイルがどんどん変わっていくのが面白い。流行の目まぐるしい変化はつまりは社会が大きく変動していったことを示していますから、さぞかし刺激的な日々だったんだろうなと思います。
 
●カンディンスキーと青騎士
 2011年4月26日〜6月26日 兵庫県立美術館
 ミュンヘンのレンバッハハウス美術館所蔵の品々を持ってきた展覧会。わたしはカンディンスキーの作品よりもガブリエーレ・ミュンターの絵に強く惹かれました。それはまるで小説か映画の主題にでもなりそうな(もうすでにあるのかな)ひとりの女性の生涯。1901年、美術学校の教師と生徒として出会ったふたりはすぐに親密な関係になり(カンディンスキーはすでにロシアに妻がいたにも関わらず、です)、その後10年以上もお互いにかけがえのないパートナーとして行動を一にします。が、第一次大戦の勃発後カンディンスキーがロシアに帰国し、離別が決定的なものとなります。それでも彼女はナチス政権下に彼の旧作を地下室に隠して守り続け、青騎士の活動を後世に残してくれました。レンバッハハウス美術館のコレクションはミュンターが寄贈したものなので、この展覧会も<ミュンター・コレクション>と言って差し支えないのでしょう。出品作にミュンターの絵は数点のみとそれほど多くはないのですが、資料として展示されている二人の写真のなかの、彼女の笑顔がひときわ印象的でした。
  
●不東庵10年の歩み 細川護熙 美の軌跡展
 2011年6月1日〜6月6日 JR大阪三越伊勢丹 
 長年のリニューアル工事を終え、鳴り物入りでオープンしたJR大阪駅。その駅ビルにできた百貨店の開店記念展がこれでした。展示期間がわずか一週間というのは勿体なかったなあ。
 細川さんは言わずと知れた第79代総理大臣だった人で、今は永青文庫の理事長を務める傍ら創作家としても活動されてます。その作品は、茶碗にしろ書にしろたいへん品格のあるもので、さすが細川家の血を受け継ぐ方は違うものだなあと感心しきり。なかでも陶製の仏像がすばらしく、数百年も前からそこに在った、と言われても違和感のないほど良い感じに古寂びておりました。
 
●フェルメールからのラブレター展
 2011年6月25日〜10月16日 京都市美術館
 それにしてもフェルメールの名前を冠した展覧会ってどれも、肝心のフェルメールは1〜2点のみでその他を同時代の画家なんかの絵で埋めるってやり方が当たり前になってますな。まあ作品数が絶対的に少ないからいたしかたないんですけど。無理は承知ですが、フェルメールの全作品を一同に集めた展覧会がもし実現したら、とんでもないことになりそう。で、本展は出品作の《手紙を読む青衣の女》から「手紙」に注目し、17世紀オランダにおけるコミュニケーションを読み解こうとします。企画意図は面白いと思うものの、肝心の出品作品がどうにも退屈で、かなり足早に会場を通り過ぎてしまいました。図録では浮世絵を題材に東西の「文読む女」を比較した文章(京都市美術館学芸員の尾崎眞人さんの論文)が載っていますが、そういう切り口で古今東西の「手紙を書き、手紙を読む人々」を集めた展覧会でも面白かったかも…、うーん、もっと地味になりそうかな。
 
●モホイ=ナジ/イン・モーション 視覚の実験室
 2011年7月20日〜9月4日 京都国立近代美術館 
 →ブログ過去記事参照。図録を見返して改めて思うのは、彼が現代のコンピュータを手にしていたらどういう作品を創っただろうか、ということ。あんがい視覚芸術はさっさと見限って、たとえばプログラミングの方へ行ってしまっていたかも。

●民都大阪の建築力
 2011年7月23日〜9月25日 大阪歴史博物館
 同館開館10周年記念の特別展。明治から昭和にかけて大阪が近代都市に生まれ変わるプロセスで誕生した多くの洋館建築の図面やスケッチ、映像資料をたっぷりと見せる展覧会。コンペ形式で募集された中央公会堂建築案の、選に漏れた作品のように初めて目にするものから、先年改築のため閉館したフェスティバルホールで実際に使われていたドアノブのように懐かしいものまで、見どころがいっぱいでした。こういう展覧会に出会うと、ぶらっと街歩きしたくなりますね。
 
●帰ってきた江戸絵画 ニューオーリンズ ギッター・コレクション展
 2011年9月3日〜10月16日 京都文化博物館
 アメリカに渡った日本絵画の帰国展といえば、2006年に大々的なプロモーションとともに開催されたプライス・コレクション展が記憶に新しいですが、本展もなかなか見応えのある内容でした。ギッターさんは日本絵画を収集するにあたってことさら日本語を勉強しようとせず、先入観のない眼で、自分の審美眼だけを信じて買い集めたそうですが、そのためコレクションもバラエティに富んでいます。今回展示されたものはその膨大な収集品のごく一部なんでしょうけど、これを機に数年おきでいいからまた来てくれるといいな。今回の目玉作品のひとつ《龍虎図》屏風(徴翁文徳、1849)六曲一双が、展覧会の前・後期ふたつにわけて展示されたのにはいささかがっくり。まあ、目玉を2回に分けるってのはよくあるやりかたなんですけど、こればっかりは一緒に並べて眺め、その迫力に圧倒されたかったですね。他には、達磨図はじめ禅師白隠の書画が思いのほかたくさん観られたのがよかった。
 
●細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション
 2011年10月8日〜11月23日 京都国立博物館
 永青文庫コレクションが関西でまとめて展示されるのは、2002年のMIHO MUSEUM「永青文庫 細川家の名宝」展以来となるのかな。一部重複もあるものの大半は初見で、なかなかに興味深いものばかりでした。
 本展の特徴としては、細川家に代々伝わるいにしえの名品を並べるだけでなく、永青文庫を設立した細川護立が収集した品々のうち近代絵画も最後に飾ってあるところでしょうか。京都展にはなかったですが、図録にはセザンヌやマティスも含まれており、それまでずっと古美術や中国の逸品を眺めてきた眼にはたいへん新鮮に映ります。京都展の会場で特に印象に残ったのは菱田春草の屏風図《落葉》(1909)。特に右隻、細い枝の上に鳥を一羽配した着想がすてき。この鳥がいるのといないのとでは絵全体の印象ががらっと変わってきます。こういう空間構成は春草ならではですねえ。
 
 他にも観たかった展覧会はあったんですが、残念ながら時間が取れなかったものも多数。まあ縁があればまたいつかどこかで出会えるでしょう。今年あと面白そうなのは…「赤塚不二夫 マンガ大学展」(10月29日〜12月25日 京都国際マンガミュージアム→案内はこちら)くらいかな。行けるかどうかわかりませんけど。
 

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