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龍潭譚

 
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●龍潭譚(りゅうたんだん)
 泉鏡花/作+中川学/挿絵+山口智/音楽
 2011年8月発行
 題字/上田晋
 アートディレクション・デザイン/泉屋宏樹

 僧侶兼業イラストレーターという異色の経歴をお持ちの中川学さんと、ハンマー・ダルシマーやアイリッシュ・フィドルなど種々の楽器をこなす山口智さんのコラボレーション、と聞いては黙ってはいられません。しかもその内容が、中川さんがかねてより描きたいと思っていた泉鏡花の世界だというからたまらない。
 かつてこのブログで、おふたりのライブ・セッションのことをレポートしたことがあります(→耳を澄ます・2 2005年12月記)が、今度のコラボも実にすばらしい。


 
 まず、なんといっても造本が凝りに凝っています。その一端はオフィシャル・サイトにも詳しく紹介されてます。
 うちに届いた状態のがこれ。輸送用の段ボール箱に宅配便の伝票が貼られていました。
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  箱の裏面のガムテープをはがして中身を取り出します。
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  赤い台紙と本体がビニールパックされております。封を切ると油性インクの匂いがふわっと香ります。実は、この台紙の裏面には、中川さんのイラストのラフスケッチがシルクスクリーンで印刷されていて、インクの匂いはここから発せられたもののよう。ただの保護台紙にあらず、なんならそのまま額に入れて飾ってもいいという贅沢な仕様ですな。
 
Rtd3 上に紹介したオフィシャル・サイトにも詳しく書かれてますが、表紙には錫(すず)が使われています。そこに題字が銀箔押で刷られているというストイックなデザイン。錫は非常にやわらかい金属で、周囲は化粧断ちされずそのままはみだしちゃってるんですが、錫のやわらかい手触りが本を開くたびに楽しめるという、独特の雰囲気をこの作品全体にもたらしています。

 エントリ冒頭の写真がトビラで、ここから鏡花の妖しくも美しい世界が広がってゆくんですが、本書の最後にはもうひとつ仕掛けが。
 
Rtd5 トムソン抜き型で加工された、ずいぶん堅牢な表3だな、と思って開いてみると、そこにCDが隠されているというわけ。山口さんのハンマー・ダルシマーとシンセによる、この本のためだけにつくられたオリジナルイメージアルバムです。10章から成る本文に合わせて10曲が収録されてます。

 龍潭譚は泉鏡花の初期の短編で、初出は明治29(1896)年11月「文藝倶楽部第二巻・第十三編臨時増刊 小説大佳撰」。幼い男の子が異界に連れ去られ、また現実世界に還ってくるも、憑きものに取り憑かれた子としてひどく虐待を受けてしまいます。そして——というストーリー。
 さすが原作に惚れ込んでいるだけあって、中川さんの描く挿絵はとても文章に合っています。なかでもわたしが惹かれたのは「かくれあそび」の章に出てくる夜のお社。鬱蒼とした鎮守の森にうっすら浮かび上がる境内の雰囲気が実によく出ていて、ページをめくったとき思わず軽く身震いしてしまいました。日没前後の古い神社って、オトナでもひとりじゃちょっと怖いですよねえ。

泉鏡花の作品は、美文体と呼ばれる昔の文章で書かれているので、読みなれない人に敬遠されがちですが、そのハードルを越えるとすごく映画的なんです。当時は映画なんかなかったはずなのに。『龍潭譚』のラストなんか、「パタン!」と唐突に終わって余韻を残す感じがまるでフランス映画みたいです。(平成の奇書”はいかにして生まれたか? 中川学ロングインタビュー
 上のインタビューでも「映画的」という指摘がありますが、これ、このままアニメーション作品にもなるんじゃないか、と本を読みながら思っていました。ぬるぬる動くフルアニメではなく、3〜40分くらいにまとめたリミテッド・アニメが似合いそう。はじめから音楽が附いているということからもわかるように、この作品は泉鏡花の文学世界に絵や音やブックデザインなどさまざまなジャンルが結合して生まれた「開かれた作品」でもあります。であるならば、この一冊をベースにして、さらに新しいクリエイティブが試みられても不思議ではないはず。そんな想像力(創造力)をかき立てられる、なんとも魅力的な一冊でした。   ※(11月28日追記)上で妄想していたアニメーション作品とは少し違いますが、絵×音楽の動画映像はすでに作られていたんですね、知らなかったんですが。この動画は金沢での展覧会場で公開されていた由。改めて、ハンマー・ダルシマーの音色が美しいです。今回晴れてYou Tubeにアップされたとのことなので、リンクしておきます→You Tube  

2011 11 03 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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どうもありがとうございました。写真とってもきれいですね〜

posted: やまぐち (2011/11/13 18:50:28)




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