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新しい“伝統”の創出—The STEP CREW

 
Hikone 半ばあきらめていたステップクルー来日公演、7日の彦根文化プラザ公演をすべりこみで観てきました。
 
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 公演の感想の前に、ちょっと自分なりにおさらい。
 カナダの——というより北米大陸の、といった方が正確かもしれませんが——ステップ・ダンスは種々雑多でかつ地域に密着しているタイプが多く、その全体像がなかなかつかめません。ジャンルを俯瞰し網羅した参考書があるとありがたいのですが、いち地域いちスタイルではなく、もはやひとりいちスタイルという方が現実的と言え、とてもじゃないが体系的に編むのは難しいのかも。
 いっぽうカナダでのケルト系伝統音楽方面では、フレンチ・カナディアンのケベック、そしてノヴァスコシアのケープ・ブレトンが相次いで日本に紹介された時期がありました。ラ・ボティン・スリアントやロリーナ・マッケニット、アシュレイ・マックアイザックにメアリ・ジェーン・ラモンド…(いま挙げたミュージシャンのうち何人かはバンクーバー冬季五輪のオープニングイベントに登場し、ファンの間で話題になりましたね)。ただしこのとき、オタワやオンタリオのミュージシャン/ダンサーはほぼ無視されていたように思います。
 アイリッシュ・トラッドのミュージシャンがカナダのダンス・パフォーマーと組んだ例では、わたしの知る範囲ではフィドラーのケヴィン・バーク Kevin Berk のグループ OPEN HOUSE に、サンディ・シルヴァ Sandy Silva が参加していたのが古い方かな。サンディは1990年から5年間OPEN HOUSEで活躍し、その後ラ・ボティンのライブにも参加してたりしましたが、彼女もたしかケベック出身だったはず。OPEN HOUSE時代の動画はYou Tubeで見られますが(→You Tube)、最近のボディ・パーカッションを駆使したダンスも、ケベコワに特徴的なフットステッピングを彷彿させなかなか興味深いものがあります(→You Tube)。
 サンディもそうですが、総じて北米のステップダンサーは、ひとりでいくつものスタイルをこなす人が多いように思います。たとえばアメリカのアイラ・バーンスタイン Ira Bernstein はおそらくアパラチアン・クロッギングがルーツなのでしょうけど、ジャズ・タップからアイリッシュ・ジグ、アフリカ風のブーツ・ダンスまで器用にこなすダンサーです(→彼のサイトで、さまざまなスタイルのステップダンスの演じわけを観ることができます。かつて彼が大阪に来たときわたしも観に行ったことがありますが、実に楽しいステージでした)。
 

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 さて、今回初来日を果たしたステップクルー The STEPCREW は、ダンサー6名+ミュージシャン5名+シンガー1名のカンパニー。その中心となるのはやはりジョンとネイサンのピラツキ兄弟 Jonathan & Natan Pilatzke でしょう。ふたりは近年チーフテンズのステージで踊ることが多く、2007年の来日ツアーにも同行していました。彼らの本拠はオタワ・ヴァレーといって、首都のあるオンタリオ州と隣のケベック州にまたがる地域とのことです。
 ピラツキ兄弟のダンス・スタイルはかなり個性的というか癖のあるもので、彼らだけを観てオタワのダンスはみんなこうなんだ、と決めつけるのはちと早計かもしれません。一例として、同じオタワのフィドラー/ダンサーで、ステップクルーの創立メンバーでもあったステファニー・カドマン Stephanie Cadman の流れるような素晴らしいソロを挙げておきます。

 ちなみに彼女は、現在はケルティック・ブレイズ Celtic Blaze というバンドでフィドルとダンスで活躍しています。
 
 ピラツキ兄弟のダンスは、少し腰を落とし、大地をダイナミックに蹴っていくワイルドなステップダンスで、あえて言うとアパラチアン・クロッギングに近いのかもしれません。両者とも、ダンスそれ自体が目的となり完結しているのではなく、日々の生活/労働から生まれてきた種類のダンスだと言えるでしょう。
オタワ・ヴァレー州では、もともと19世紀末に森林開拓キャンプで労働していたスコティッシュ、アイリッシュ、それからフレンチ系移民によって生まれたと言われている。ダンスや音楽演奏(特にフィドル)は長い冬の夜の時間を過ごすための娯楽だったんだ。(中略)春になって、川が溶け出すと、丸太は製材所まで川で流せるようになる。丸太がちゃんと川に沿って流れていけるように、「丸太流し」と言われる男達が丸太を誘導する必要があった。この仕事というのが非常に強靱で機敏な身体を必要とするものだったんだ。(中略)そんな男達がオタワ・ヴァレー・ステップダンスの起源なんじゃないかな?(プログラムp.11、ネイサン・ピラツキへのインタビューより)
 ステップクルーは、売りとしてはこのような「オタワ・ヴァレー・ステップダンス」と「アイリッシュ・ステップダンス」、それに「タップダンス」の3種類の融合ということで、なるほど確かにそのみっつがひとつのステージ上で演じられているのですが、全体としてはオタワのそれがもっとも強力でした。まあ、オタワ組が男性三人(加えてフィドラーのジュリー・フィッツジェラルド Julie Fitzgerald もステップを踏む)に対し、タップが女性二人とアイリッシュが女性一人。この構成ではオタワがメインになるのは避けられないでしょう。みっつの異なるスタイルが互いに相譲らず火花散るぶつかりあい、みたいなものもかすかに期待していたのですが、そういうのとはちょっと違っておりました。
 
 とはいえ、そんな中でもキャラ・バトラーはたったひとりでアイリッシュの存在感をよく見せていたと思います。もっとも、彼女のスタイルも若い頃と違いガチガチのアイリッシュというわけでもないですが。先に「ピラツキ兄弟は腰を落として大地を蹴る」と書きましたが、本来アイリッシュ・ダンスはまっすぐ天上を指向するものです。地を踏むか天に昇るか、そういった差異はある程度は表現されていたんじゃないかな。
 ただ、他のダンサーがアイリッシュを揶揄的に演じるときって、どうして揃いも揃って「口をすぼめて肩いからせたポーズ」になるんでしょうねえ(たとえばリヴァーダンス Riverdance でも、黒人タップ・ダンサーがやってました)。今回観たステージにも冒頭2曲目でアイリッシュへのこのようなカリカチュアがあったんですが、わたしからすれば、オタワの方がよほど身体のあちこちに無駄にチカラが入ってるようにも見えるんだけどなあ(まあ実際は、どんなダンスにせよ身体ぜんたいを柔軟にしておかないと、まともに踊れませんけどね)。
 
 バランスからいって少し弱いかな、と感じたのはタップのおふたり。タップ・ダンスこそ「ひとりいちスタイル」と言っていいほど多様性に富んでいるので、観る人それぞれにイメージする「タップ」があるため焦点を絞りきれないということはあるんでしょうけど。さらにいえば、彼女たちはメンバーの中では若手なので、まだまだ実力・経験ともに差があるのかもしれません。プログラムの解説ではタップのルーツにクロッグ・ダンスを挙げていますが(イングリッシュ・クロッグダンスを指しているのでしょう)、これとて通説のひとつにすぎません。現代タップではむしろ黒人ダンサーの功績を無視できるはずはないのですが、今後もしそのあたりを大胆に採り入れることができたら、このカンパニーはぐっと奥行きが出て面白くなるのではないかと思います。
 
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 ステップクルーのメンバーはほぼ全員がオタワ出身で、わずかにアイリッシュ・ダンスのキャラ・バトラー Cara Buttler (姉のジーン・バトラーと同じくニューヨーク出身のはず)、シンガーのアリス・マコーマック Alyth McCormack(ヘブリディーズ諸島はルイス島出身)の、たったふたりだけが他所からの参加となります(プログラムには5名のミュージシャンの詳しい情報までは載ってないので、もしかしたら間違ってるかもしれないですが)。
 そのせいかどうか、アリスのヴォーカルじたいは良いのですが、伴奏がちょっと合ってなかったように感じられました。スコッツ・ガーリック・ソングに内在するうたのリズムを、ドラムスはじめリズム隊が残念にもぶっ壊してしまってるような。
 バンドに関してはうたに限らず、ダンスでもちょっと首をかしげる場面が多く、複雑なリズムをわざわざ単調にしてしまうきらいがあったように思いました。本来、ダンスのスタイルの違いというのは、端的にリズム/ノリの違いである筈で、バンドもそのあたりを演奏し分けられたらかなり面白いんですが、そこまで求めるのは酷なんでしょうか。ひょっとして彼らはこれまで伝統系音楽をあまりやってこなかったのかもしれません。
 
 第二部途中の、小道具を使った演目は楽しかった。本来この手のダンスって、ある種の宴会芸というか名人芸というか、共同体での楽しみのためって要素が大きいので、ギミックいっぱいのダンスこそ彼らの本領発揮という気がします(フィドルを弾きながら複雑なステップを踏むというスタイルからしてじゅうぶん曲芸的ですしね)。キャラのリードではじまるフレンチ・カナディアンのセットも迫力充分。この演目は間違いなくこの夜のハイライトでした。フットステップはやっぱり熱くなれるなあ。
 
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 先に引用したインタビューの中でネイサン自身が語ってますが、オタワ・ヴァレー・ステップダンスはここ半世紀ほどの間でかたち作られてきたスタイル。ワールドワイドな知名度としてはまだまだ無いも同然でしょう。ステップクルーが「タップ」や「アイリッシュ」を持ち出すのは、より世間に知られた名前を借りて売り出したいがため、という戦略的な意図が透けて見えます。使用する音楽についても同じことが言え、取り上げられたアイリッシュやスコットランドの伝統曲のかずかずは、たしかに移民たちのルーツだからではあるのでしょうけど、逆に言えばまだオタワ独自のリズムやメロディをこれといって提示できないからでもあるでしょう。
 グローバル化された現代では、かつてのような「閉ざされた地域内で独自醗酵しオリジナルな発展を遂げた」というかたちでの“文化の伝統化”はもはや望めそうになく、であるならば、今後「オタワ独自の伝統的スタイル」がもしできるとすれば、既存のいろいろなスタイルの音楽やダンスをどう組み合わせるか、そのリミックスのユニークさにかかるでしょう。もっともこれはカナダに限らず北米、ひいては地球上の他の多くの地域にも当てはまることでしょうけど。
 
 ともあれ、彼らはトラディショナルな音楽とダンスを素材に、自分たちの手で新たな“伝統”を創り出そうとしています。その成果は彼らではなく、彼らの数世代あとの人たちが成し遂げるのかもしれませんが、とにもかくにもそのスタートを彼らが切ったというのは大きい。このステージが完成形なのでは決してありません。むしろ、ここから彼ら(とそのフォロワーたち)がどうやっていくのか、その変化の過程を見続けることにこそ意義があるのではないかと思います。
 

2011 12 08 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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