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ダンサー・首藤康之のドキュメンタリー映画

 
20120114
●今日と明日の間で
 2011年/日本映画
 制作:ドキュメンタリージャパン
 監督:小林潤子
 出演:首藤康之、中村恩恵、小野寺修二、斎藤友佳理、シディ・ラルビ・シェルカウイ
 テーマ音楽 作編曲・演奏:椎名林檎
 パンフレット アート・ディレクション:八木祟晶

 長く東京バレエ団で活躍し、現在はフリーとして意欲的な活動を見せている首藤康之を、2009年から10年にかけて密着取材したドキュメンタリー映画。約90分があっという間に過ぎた。
 
 オープニングとエンディングはこの映画のために作られた新作ソロ《Between Today and Tomorrow》(振付:中村恩恵、音楽:椎名林檎)。しなやかに寄り引きするカメラワークと相まって、ダンサーの世界に一気に引き込まれるパワーを持っていた。椎名林檎の音楽がめったやたらにかっこいい。
 そのふたつのソロ・ダンスの間に——映画のタイトルに即して言うなら冒頭が<今日>、ラストが<明日>のパートなのだろうか——2010年に彼が手がけたいくつもの仕事が紹介される、という構成。
 自身のスタジオでのたった一人のレッスン(というよりストレッチとウォーミングアップ)からはじまり、10年1月に神奈川で披露された《時の庭》というパフォーマンスの記録映像が続く。レッスン中の短い受け答えや公演後の打ち上げシーンなどで時折みせる笑顔が柔らかくて素敵だ。
 
 プロダクション・ノートによれば、この映画はもともと《時の庭》を映像に記録しておきたい、という企画が出発点だったらしい。だが映画はそこをゴールにはせず、逆にスタートとしている。だからという訳でもないのだろうが、この映画は少々中途半端な印象が残った。
 たとえば、故郷の大分で、少年のころ彼が学んだというバレエ研究所を訪れるシーンがある。研究所の創立記念公演の振付と演出を頼まれての帰郷というわけだ。しかし先生の姿はテロップ付きで紹介されるものの、先生へのインタビュー(研究所時代の首藤少年がどうだったか、とか)があるわけではない。大分時代を、彼自身の回想のみで終えてしまうのがいささか拍子抜けだった。
 またたとえば、その記念公演(演目は《くるみ割り人形》)も、練習風景はたっぷり見せるものの、それだけだ。子供の頃、母親にはじめて連れていってもらった劇場であり、研究所時代の初舞台でもあった大分文化会館内でのインタビューがあって、さあこのあと公演本番が来るのかなと思ってたら、映画はいきなりエンディングのソロダンスで締めくくられてしまうのだ。なにかこう、唐突にはじまり、唐突に終わった、という感じ。表題から察するに「今日」と「明日」こそ大事、という編集意図なんだろうか。だとするなら、「昨日」の追憶などむしろ一切出さない方が、映画としてはよりいさぎよかったように感じた。
 
 
 首藤康之は1971年生まれ。この映画のなかでの彼は、38歳から39歳ということになる。「40歳になってまで現役ダンサーとして踊ってるとは思ってもみなかった」という意味のことを、映画のなかで何度かつぶやいていて、それはいつわざる本音だろう。肉体を酷使するダンサーという職業において、40代を如何に生きてゆくかは非常に切実な問題であるはずだ。
 
 そんな彼の人となりについて、4人の関係者がインタビューに応じている。東京バレエ団時代の同僚である斎藤友佳理、《時の庭》を振り付けた中村恩恵、《空白に落ちた男》の演出家小野寺修二、《アポクリフ》を作ったベルギーのシディ・ラルビ・シェルカウイ(これらの作品は映画の中でダイジェスト的に紹介されている。個人的には《アポクリフ》がもっともインパクトがあった。これはぜひナマの舞台を観たい)。
 それぞれが「彼はけっして器用なダンサーではない」と異口同音に語っていたのが印象的だった。しかしそれならば、周りの証言だけにとどまらず、他ならぬキャメラでもってその「不器用さ」を捉えて欲しかったと思う。それはたとえば当初の企画どおり《時の庭》の打ち合わせから練習、公演本番までのメイキングというかたちでもよい。時に苦悩し、あるいはとまどい、くり返し試行錯誤する姿を映像に収めてこそ「けっして器用ではないダンサー」という言葉に説得力を持たせられたのではないか。しかし、この映画ではそういう部分はほとんど見せず、いきなり完成した舞台だけを紹介するのだ。取材対象にどこか遠慮があるというか距離を置いているというか、踏み込む一歩手前で立ち止まってる感じがして、映画を観ていて少しもどかしかったのはこういうあたりである。
 クラシック・バレエからコンテンポラリー・ダンスへ。さらに“中年からやがて来る初老”へ。<明日>という未知なる領域に足を踏み入れようとしているダンサーなんて、実に魅力的なテーマではないか。ましてや主役はあの首藤康之だ。そこでどんなにあがいていても、どれほど<不器用な>姿を晒していようとも、それは間違いなく“かっこいい”絵になっていたはずである。
 
 ということで彼の<明日>、「50になっても60になっても踊っていたい」と言う首藤康之のこのあとの素顔も、いつかまたスクリーンで観てみたいものだ。10年後でも20年後でも、あるいはもっと先でもいい、彼を主題としたドキュメンタリー作品が、いつの日かまた制作されたらいいな、と思った。

2012 01 15 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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