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みんぱくの今和次郎展

 
●今和次郎 採集講義 …考現学の今
 2012年04月26日〜06月19日 国立民族学博物館
 
 2011年10月から青森で、12年1月には東京でも開催されたものが大阪にも来るというので楽しみにしていた展覧会、出かけてみたら少々予測というか勝手が違ってびっくり。いや、いつもながら事前情報をあまり把握しないまま、とりあえず現地に行ってしまう自分のせいなんだろうけど。
 
 わたしが「今和次郎」や「考現学」というキーワードを知ったのは1980年代後半、赤瀬川原平さんや藤森照信さんらがはじめた<路上観察學会>の活動がらみだった。かの『超芸術トマソン(白夜書房から単行本が出たのは1985年5月)』にはじまる一連の、冗談ともマジメともつかないムーブメントを面白がっていた流れで、当時彼らがたくさん出していた関連本の中で目にしたのが最初だったと思う。筑摩書房から刊行された『路上観察學入門』(1986年)は夢中で読んだし、南伸坊さんにはそのものずばり『ハリガミ考現学』てな本もあった。ちくま文庫からは藤森さんが編んだ今和次郎の考現学の著作も出たはずだ。第何次になるのか知らないが、80年代末に考現学の再発見というか、サブカル的なブームがあったことは記憶しておいていい。そのため、わたしなんかは今和次郎といえば「考現学のヒト」という認識しかもたずに現在まできてしまった。なので、本展ではじめて<考現学以外の今和次郎>をいろいろ見られて新鮮だった。
 

 
 会場はみんぱくの本館ではなく、左手にある別館。ワンフロアを細かく区切って展示、観覧順の流れがあるようなないような、ざっくりとしたディスプレイだった。ノートにびっしり描き込まれたスケッチをはじめ細かな展示物が多いので、会場を広く見渡すというよりも、近視眼的に目の前をじっくり観察していくというスタイルに、どうしてもなってしまう。壁面に沿って眺めていくうちに、いきなり今和次郎とは直接結びつかないはずの展示物が出現して、あれれ?
 疑問符を頭の中に大量に発生させたままぐるっと一周してから、入口でもらったリーフレットをようやく開いてみる。会場内マップをよくよく見ると、本展は「今和次郎 採集講義」の他に、みんぱくが独自にたてたテーマの展示品が加わっていたのだった。そのスペースは約半分、けっこうなボリュームである。なるほど、混乱したのはこのためか。わたしは今和次郎しか展示していないと勝手に思い込んでいたので、これはサプライズではあった。
 いや、だって、いきなりモンゴルのゲルなんかが大きな顔して出てくるんだもん。へぇ、今和次郎ってモンゴルにも行ってたのかぁ、とびっくりして内部を覗くとどう見ても最近の家電品なんかが入ってる。さすがに時代が違うのは明らかで、いったいなんなのこれ…と思ってたら、このゲルは2011年にみんぱくの研究員によって調査されたものらしい。説明パネルをよく読めば書いてあるんだけど、こりゃ混乱するよねえ。
 
 帰宅してからリーフレットや関連本を読んでいくと、みんぱくの初代館長もつとめた梅棹忠夫は、今和次郎が晩年に組織した「日本生活学会」のメンバーのひとりであり、自身の調査にも考現学の手法を用いることもあったらしい。また日本における民族学の博物館は、大阪にできるずっと以前の1939年に、実業家渋沢敬三の個人コレクションをもとに東京北多摩に野外博物館が作られている。このとき設計プランを描いたのが今和次郎だった。この博物館は経営難のため1962年に閉館、所蔵資料は国に寄贈される。1970年の大阪万博を経て万博記念公園に国立民族博物館(みんぱく)が一般向けにオープンしたのは1977年。渋沢コレクションは同館に引き継がれた。ということで、多少なりとも縁があったというわけだ。みんぱくで今和次郎展を開催するにあたって、みんぱく側が独自の企画をいろいろ加えたかったのもなるほどという気がする。
 とは言うものの、やはり唐突感は否めない。パネルの説明文読めよ、リーフレットちゃんと見ろよ、ってことではあるんだろうけど、それにしたっていきなり現代のモンゴルのゲルだとかマダガスカルの家財道具だとかを見せられてもなあ。「今と梅棹の接点」なら「日本生活学会」時代の研究資料だとか、もう少し広げるにしても梅棹自身の手による考現学的な調査物件に絞って展示してくれた方が、全体としてはよりわかりやすかったのではないかと思う。
 そんな中では、岡本信也さん・靖子さんの考現学的調査「超日常観察記」が抜群に面白かった。名古屋の銭湯で観察した男女の下着調査(結果をわざわざパッチワークタペストリーに仕立てているのがなんとも愉快)だとか、路上に捨てられたプルトップのコレクションだとか、見ていて実に楽しい。その隣の、昭和初期のデパートガールの制服などを展示した「田中千代コレクション」も貴重。女性の服飾史研究にも取り組んでいた今和次郎ともつながりの深いテーマだった。
20120430 展覧会に行った前後に読んだ関連書籍など。右下から時計回りに●『今和次郎 採集講義』(2011年11月15日初版、青幻舎、ISBN978-4-86152-322-9)※本展の公式カタログ ●みんぱくでの本展用リーフレット(四つ折り8ページ) ●泉麻人編著『今和次郎・吉田憲吉 東京考現学図鑑』(2011年3月22日初版、学研、ISBN978-4-05-404626-9)※泉さんの解説が臨場感たっぷりでわかりやすい ●畑中章宏『柳田国男と今和次郎 災害に向き合う民俗学』(2011年11月15日、平凡社新書、ISBN978-4-582-85615-6)※著者は青幻舎本の編者のひとり。今の生涯をたどる評伝としても読みやすい ●塩澤珠江『父・吉田憲吉と昭和モダン 築地小劇場から「愉快な家」まで』(2012年2月25日初版、草思社、ISBN978-4-7942-1877-3)※吉田の長女による回想録、図版も豊富で楽しい
 
 畑中さんの『柳田国男と今和次郎』に興味深い一節があった。1888年生まれである今和次郎の同世代人をジャンル問わず列挙していく部分で、わたしが気になった名前をざっと拾うと、ふたつ年上(1886年生)に岡本一平、藤田嗣治、谷崎潤一郎、萩原朔太郎、石川啄木。ひとつ上に折口信夫、マルセル・デュシャン、ル・コルビュジエ、バーナード・リーチの名前が挙がっている。
 同年生まれでは九鬼周造、梅原龍三郎、村上華岳、安井曾太郎、高畠華宵、里見弴、菊池寛にオスカー・シュレンマー、ヨハネス・イッテン、T・S・エリオットと多彩な名前が並ぶ。ひとつ下には柳宗悦、岡本かの子などが挙げられている。ちなみに、この項では触れられてないが吉田憲吉は1897年、村山知義は1901年生まれ。両人が参加した築地小劇場の設立者、小山内薫(藤田嗣治とは従兄弟の関係)は1881年に生まれている。

長々と今和次郎の同世代人をみてきたのは、今がどういった思想や芸術運動と並行して、調査やデザイン、教育活動・社会活動を続けてきたかの手がかりになるからだ。大正から昭和初期の意識的な表現者たちは、大きな時間差もなく、欧米の最新動向を知り、そこに解釈を加えて、自分のものにしていったのである。(p.137)
 ドイツで最先端の前衛芸術を学んできた村山知義をはじめ、日本と世界との空間的・時間的距離がどんどん近くなっていった時代だったのだろう。今自身も1930年の欧米視察の際にデッサウのバウハウスを訪れているそうだ。
 関東大震災後の考現学にせよ、その前に熱心に取り組んでいた民家調査にせよ、いかにも「日本的」な仕事だなあと思いがちではあるが、実はそうではなかった。畑中さんは<記録や考察手法をみても、今が欧米の学問にも通じていたことは明らか(p.138)>だと指摘、バラック装飾社での仕事には、ロシア・アバンギャルドの影響の他にバルトーク/コダーイのハンガリー民謡蒐集とそれをもとにした作曲活動との共通性までも示唆している。
 
 * * *
 
 それにしても、今和次郎もさまざまな業績を残しているのだなあ。先日見た村山知義展でも感じたのだけれども、この時代の才人って何が本業なのかわからないくらい、さまざまなジャンルでトップクラスな仕事を残していたりする。マルチな才能の持ち主というよりも、マルチな活動をしなければならない必然性が、時代の要請としてあったのだろう。専門分野が確立し、そのぶん役割分担がかぎりなく細分化され、結果として責任の所在が誰にも判断できないほど曖昧になってしまった現代からすれば、大変ではあったかもしれないが羨ましくもある。個人が個人の責任においてしっかり自分の両足で立つことが可能であった時代――とまでは言い過ぎか。けれども、ここに挙がった人たちがもしもいまの世に生きていたとして、同じ業績を残すことができたかどうか。…もちろん、なんでもかんでも過去が良かったというつもりなど、さらさらないんだけれども。
 

2012 04 30 [booklearning, design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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