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フンフルトゥ来日公演、2012

 
Hht2012
●フンフルトゥ 2012年日本公演
 2012年06月24日 伊丹アイフォニックホール(兵庫)
 2012年06月25日 三木市文化会館(兵庫)
 2012年06月27日 浜松市楽器博物館・天空ホール(静岡)
 2012年06月28日 武蔵野市民文化会館(東京)
 2012年06月29日 東中野ポレポレ坐(東京/ワークショップ)
 
 待ちに待った…と少々大げさな言葉を使わせてもらおう。なにせ彼らの来日公演は13年ぶりとのことで、その13年前の日本公演はわたしは観ることができなかった(たしか東日本だけの公演ではなかったか)。つまりは、個人的には初めて、ようやく、彼らをナマで観ることができたのだ。
 コンサートのオープニングは、4人の男たちによる無伴奏のコーラス(〈祈祷〉、94年作のセカンド・アルバムの1曲目だ)で幕を開けた。最初の声が出たその瞬間、全身が総毛立った。誇張や捏造ではない。いや、自分でもなんだか出来の悪い宣伝コピーみたいだな、とすぐに思ったのだけど、本当にその瞬間「ぞぞぞ」と身体じゅうの毛穴がわきたったように感じたんだからしょうがない。コンサートでこんな経験をしたのは初めてだったので、我ながらびっくりしたのだ。ま、それだけ彼らを楽しみにしていたってことなんだろうけど。
 
 フンフルトゥを含むトゥヴァの伝統音楽については、このブログでは過去に何度かとりあげたことがある。ラルフ・レイトンの『ファインマンさん最後の冒険』が岩波現代文庫で発売された2004年にいちど(→こちら)、2006年にはフンフルトゥとブルガリアン・ヴォイスとの共演盤CD『Mountain Tale』のレビューを(→こちら)、そして2009年に行われた、同じトゥヴァ共和国の別のグループ「Tyva Kyzy(トゥバクィズィ=トゥバの娘たち)」のみんぱく研究公演の感想文(→こちら)。数年おきに一度と、たいへんつつましいというか細々とではあるものの、自分の中では関心をずっと保ち続けている。
 フンフルトゥは、アイルランドにおけるかつてのチーフテンズのような、トゥヴァの音楽文化大使みたいな存在だ。1992年結成。ワールド・ミュージック系コンサート(たとえばWOMAD)などに数多く出演。日本のミュージシャンでは鼓童やゴンチチと共演したこともある。長年にわたるワールドワイドな活動経験が、彼らの音楽性や演奏スタイルにも大きくフィードバックされてきただろうことは想像に難くない。
 
 多くのベテラン・バンドの例に漏れず、フンフルトゥも1992年の結成から現在に至るまでにメンバーチェンジを経ている。今回の来日メンバー4人のうち、創立時から参加しているのはふたり。そのうちサヤン・バパはロシアのジャズ/ロックのバンドを経験しており、トゥヴァのトラッドをベースにしたロックバンドで電子楽器も担当していたという。途中加入組のふたりもそれぞれクラシックやポップス畑での活動を経たのちフンフルトゥに加入。とくに2005年加入のラジク・テュリュシは創立メンバーたちとは一回り以上世代が異なっていることもあり、彼の若々しい感覚がバンド・サウンドに豊潤な奥行きをもたらしている。
 公演パンフレットに記載された彼らの経歴を見るに、フンフルトゥを単なるトゥヴァの伝統音楽グループと捉えてしまうのは間違いで、おそらく結成当初から「伝統音楽をより現代的に」というテーマをかなり意識的に抱えていたのではないか。「トラディショナル」という枠組みはきちんと守りつつ、アンサンブルのアレンジやフォーメーションにジャズ/ロックぽさやポップスっぽさがさりげなく顔を出しており、そういうところが広く支持を集める所以でもあるのだろう。結果、フンフルトゥは欧米のワールドミュージック系フェスの常連となり、国外での数多いライブ経験が彼らの音楽観をさらにワールドワイドなそれへと変えていったことだろうと想像する。
 
 印象に残ったのは、たとえば後半2曲目に歌われた〈Song of the Caravan Drivers〉。デビュー盤のラストを飾り、その後のライブ盤やベスト盤にもたびたび収録されているフンフルトゥの代表曲だ。メロディラインは同じながら、今回の公演では楽器のアレンジ、とくにリズムがより複雑になっていてびっくりした。他の曲にも共通して言えることだが、奏法がすごく繊細なのだ。CDで聴いて想像していた以上に、彼らはバンド・アンサンブルを重視していることがよくわかった。ベテランならではの洗練というか円熟味が増していることもあるだろう。ゆったりとした曲調ではあくまで広々と、一方でテンポの速いナンバーでは力強いリズムが地面から沸き上がるかのようで、4人編成とはにわかに信じがたいほどの複雑な音色が渾然となってホールに響き渡る。別の曲だが馬や鳥や虫たちの音を次々に再現していく演奏などはほとんどマジックのようで、まったく聞き飽きない。 目を瞑って聴いているとここが日本で、PAシステムの完備されたホールで、などという事実がどこかに飛んでいってしまいそうになる。陳腐な表現だが、突然シベリアの草原のまっただ中に連れてこられたような気分になるのだ。すぐそばを馬が走ってるぅ! と、何度感じたことか。
 なかでも、いちばん若いラジクの伸びやかな声がすばらしい。目の前の彼は普通のパイプ椅子に少し窮屈そうに座って演奏しているのだけど、歌声だけ聴いていると彼がすっくと立ち上がって、あるいは馬上の人となって声を発しているかのように感じられる。会場はすり鉢状になっていて客席からはステージを見下ろすかたちになるのだが、声だけは頭上の高いところから舞い降りてくるかのようだ。そのギャップが面白くて、わたしは目を開けたり閉じたりを何度も繰り返しながら聴いていた。こうして、予定されていた13曲プラスアンコール1曲、途中の休憩をふくめて合計2時間が、文字通りあっという間に過ぎてしまった。
 
 
 会場では何枚かのCDやDVDを販売していた。いくつか買って帰宅後手持ちを確認してみたら、今回手に入れた2枚のライブ盤はすでに持っていたモノ(2001年4月、カレリアでのフォーク・フェスでの収録盤)のジャケ違いだったのはがっくり。てっきり新作かと思ってたよ(販売員さんがいちばん熱心にオススメしていたアルバムでさえ2004年作のものだった)。残念ながら最新アルバムこそ手に入らなかったものの、2008年にカリフォルニアで行われたライブを収めたDVDがあって、これが今回のライブとほぼ同じ内容だったのがたいへん嬉しい。
 他に特筆すべきは、公演の解説をつとめておられる等々力政彦さんが今回のために執筆された『トゥバ音楽小事典』(発行/浜松市楽器博物館)。まだしっかり中身を読んでいないが、これはそうとう貴重なリファレンス本だと思う。そういえば本公演の企画者でもある等々力さんはステージで「公演の実現までに3年かかった」と感慨深げにおっしゃっていた。ただただ感謝する他ない。
(2012年06月24日、伊丹アイフォニックホールにて)

2012 06 25 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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