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[exhibition]:チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち

 
Cheburashka
●チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち
 2012年06月09日〜07月29日 滋賀県立近代美術館
 2012年08月04日〜09月17日 三菱地所アルティアム
 2013年04月06日〜05月19日(予定) 高松市美術館
 2013年07月12日〜09月01日 八王子市夢美術館
 2013年11月16日〜2014年01月15日(予定) 兵庫県立円山川公苑美術館

 チェブラーシカが誕生したのは1960年代後半だということを、会場に来て初めて知った。もっと昔——第二次大戦直後あたり——のキャラなんじゃないかと(特に根拠もなく)思っていたから、個人的にはけっこう意外だった。さらに、チェブラーシカが「正体不明の動物」という設定にもへぇと思った。てっきりコアラだとばかり思ってたからだ(この思い込みはきっとドアラのせいだろう)。さらにさらに、日本できちんとアニメーション作品が紹介されたのは1999年というのにも驚いた。もっと以前から、少なくともキャラだけは見知っていた気がしていたからだ。
 とは言うものの、初めてこのキャラを知ったのがいつだったか、全く思い出せない。よくよく考えてみれば、わたしはこれまでチェブラーシカのアニメーションをちゃんと観たことがなかったのだ。よく知らないクセにずっと昔から知っていたように思える…これはキャラが「人気キャラ」であるための重要なポイントではあるだろう。ミッキーマウスでもスヌーピーでもキティちゃんでも、「有名キャラ」というのは気づかないうちにいつの間にか記憶に刷り込まれているものだ。
 
 原作となった児童文学『ワニのゲーナとおともだち』(エドゥアルド・ウスペンスキー作)の出版が1966年。この原作をもとにした同名のアニメーション映画が1969年に作られる。以降、1971年、74年、そして83年と、合わせて4本のオリジナル・アニメーションが制作された。さらに2010年には日本の資本が加わって3話構成の『劇場版チェブラーシカ』が作られた。本展覧会は、それらチェブラーシカ映画の変遷を前半に、後半には近年のロシア・アニメーションをいろいろ紹介するという構成で展開されている。
 展示品の目玉はやはり2010年作の劇場版だろうか。この映画のために作られたパペットやセットが多く飾られていて、人形たちは単体でみてもじゅうぶん愛らしく、美しいし、セットも実に精巧だ。人形アニメーションの舞台裏などなかなか観る機会がないので、とても興味深い。
 期間中、会場内では新旧チェブラーシカ映画の上映会を行っており、他に館内の数カ所でロシア・アニメーションのビデオがエンドレスで流されている。全作品しっかりチェックするつもりなら少なくとも数回は通わなければならないかもしれない。
 
 会場の解説パネルでおや、と思ったのは第二部「アニメーション化とキャラクターの変遷」。チェブラーシカのキャラデザインはオリジナル・アニメーションの造形によるところが大きいながらも、原作者以外の手になるぬいぐるみや日用品のモチーフとして様々にアレンジして使われ、世間に広がっていった。解説ではこれを<著作権に対する認識が薄かったソ連時代>という言い方で表現していたが、これってどうなんだろう。濃いとか薄いとかと言うんではなく、おそらく当時の共産主義下では「特定の個人がもつ権利」よりも、生み出されたコンテンツをみんなで「共有する」というの意識のほうが強かったのではなかろうか。運用マニュアルがガチガチに決められた「著作権」っていう概念は、アメリカを筆頭とする高度な資本主義社会なら通用するかもしれないが、それが唯一無二の正解というわけでもあるまい。はたしてチェブラーシカはごく短期間でフォークロアになった。ミッキーマウスがアメリカを代表する以上に今なお「ディズニーのキャラ」であり続けていることと、これは好対照と言っていい。
 ちなみにチェブラーシカは2004年のアテネ五輪でのロシア選手団の公式応援マスコットに選ばれて以降、06年トリノ/08年北京/10年バンクーバーと、ずっとロシアを代表するキャラとして活躍している。今年のロンドン大会、さらには14年のソチ大会にも使われるのかな? 80年モスクワ五輪の公式キャラとして作られた「こぐまのミーシャ」よりも愛されているのは間違いないと思う。
 
 * * *
 
 展覧会のもうひとつの柱は「ロシア・アニメーションの現在」というテーマなんだけど、こちらは会場ではさほど重要視されていなかった印象。なにせ講堂を使っての上映会は新旧チェブラーシカ・シリーズの他には1957年作の『雪の女王』だけで、確かに名作には違いなかろうがチェブラーシカよりも古い作品を取り上げなくても。今世紀以降のアニメーション作家の作品群は場内でビデオを使って流していたが、個人的にはそちらの方こそもっときちんと扱って欲しかった。ミュージアムショップでもDVDがいくつか販売されていたけど、現代作家のはウラジミール・レシチョフの作品集が一枚のみ、しかもPALフォーマットのEU版というのがちょっと寂しい。PAL再生の可能なプレイヤーを持っているから買えたけど、本展に合わせた日本オリジナル編集盤のひとつでも作ればいいのに、と思ってしまった。
 ゼロ年代前半あたりだったか、ユーロ・アート・アニメーションのささやかなブームが起こっていたと記憶している。おかげでラウル・セルヴェやルネ・ラルー、シュヴァンクマイエルなどの作品集が相次いで国内版DVDとして販売されたが、店頭からはあっという間に姿を消してしまった。この機会に、もういちどアニメーション再発見がおこらないか、と淡い期待をしているんだけどどうかなあ。当時でもちょっと高くて少ししか買えなかったDVD、今でもAmazonあたりでは中古盤が結構な値段で取引されているようで、なかなか手が出せない。もう少し買いやすいお値段で再発売とかやってくれたらひじょーに嬉しいんだけどなあ。
 

2012 07 08 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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