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<進化>するトリニティ

 
Trinity2012
●トリニティ アイリッシュ・ダンス Japan Tour 2012
 
 今回で来日4回目となるトリニティ・アイリッシュ・ダンス・カンパニーのステージは、そのたびに新鮮な驚きを与えてくれる。「進化する」という言葉が、彼らにはよく似合う。
 
【過去関連記事リンク】
2004年公演(伊丹)
・2006年公演の際に発売されたDVDのレビュー
2006年公演(西宮)
2010年公演(東京)
 あれ、そういや2008年って来てなかったのか。
 

 
 創立者にして芸術監督のマーク・ハワードが、このカンパニーで実現したいこと自体はおそらく昔から一貫してブレていないのだろう。ただ、それは回数を重ねるごとに、より鮮明になっていっていると思う。だから「変化」ではなく「進化」と呼びたいのだ。
 今年の公演でもっとも大きな改革は、ミュージシャンを一新したこと、これに尽きる。以前から楽曲提供などで協力していたアイルランドのパーカッション・グループ〈Different Drums of Ireland〉を今回の公演では全面的に押し出していて、単なるバック・バンドではなくコラボレーションというにふさわしいステージに仕上げていた。
 たとえばオープニングの〈森の外で Out of the Woods〉。2010年公演でも同じように冒頭に置かれた演目だが、前回は録音で済まされていた音楽が、今回はフルメンバーによる実演なのである。のっけから怒濤のバウロン大会なのである。
 組体操のように複雑に絡んで立ったり寝そべったりしているダンサー群の後方、ステージのいちばん後ろに陣取ったミュージシャン4人組。暗い舞台のなかスポットライトが当たると、メンバーはみな、バウロンで顔を隠すかのように掲げて座っている。やがて4人は一斉にリズムを叩き出しはじめ、ダンサーもそれに応えて踊り出す。
 グリーンの衣装を身に纏い飛び跳ねるダンサー群と、彼女たちを鼓舞するかのように一心不乱にバウロンを叩く4人のミュージシャン。どこか呪術的というか、神話的な雰囲気さえ感じさせるナンバーだ。
 前回公演でも、リズムというかパーカッションを強調しているダンス・カンパニーだな、と真っ先に感じたのだけれども、やはり音楽が生演奏となるとその印象はさらに強くなる。太鼓のような派手な楽器ならなおさら、目の前で実演してくれる方がインパクトがあるに決まってる。構成/振付のモダンさとあいまって、これが現在のトリニティの個性をいちばんストレートに表現している演目だろう。
 Different Drums of Irelandは、バウロン/パーカッションのStephen Matier、リーダーでギター/ヴォーカル、パーカッションのRoy Arbucke、イリアン・パイプス/ティンホイッスル/バウロンを担当する紅一点、Dolores O'Hare、そしてドラムス/パーカッションのPaul Marshallからなる4人編成のグループ。使用する太鼓はバウロン以外には北アイルランドを象徴する楽器でもあるランベグ(それも直径1メートルはある巨大なものだ)も登場、他にはドラムセットとコンガらしきものもあったかな。実際の演奏は2度ほどだったけれど、ずっとステージ上に置かれていた巨大ランベグが、今回のステージぜんたいを強く支配していたように感じた(アイリッシュ・ダンス・ショウでこれほどランベグを象徴的に使ったのって『リヴァーダンス』の他にあったっけ)。リーダーのロイは、途中で観客を手拍子セッションに巻き込むなど、以前よりも<客席との一体感>を演出しようと奮闘していた。わたしが観た回では客層が若干年齢層高めということもあって、反応は上品だったけど。
 
 You Tubeで〈Different Drums of Ireland〉を検索するとステージ映像などがたくさん出てくる(中にはトリニティとの共演も見つかる)が、ここでは公式サイトのリンクからのをひとつ引用しておく。2007年のニューヨーク、タイムズ・スクエアでのパフォーマンス。ここにも出てくる巨大なランベグが今回は2台、他にもう二回りほど小さいサイズのものも1台用意されていた。


 でかいタイコが目の前でドンドコドンドコ、もうそれだけでリズム好きの血がざわざわ騒ぐのだが、わたしが観た席が悪かったのか(ちょっと右端よりの席だった)音響バランスが良くなかったのは残念。ま、オーチャードホールってもともと音響面ではあまり良いイメージがないのだけどね(都内のコンサートホールで音が良いのってどこなんだろ)。
 しかしこのバンド、パーカッション以外の演奏は残念ながらいまひとつかなあ。フィドルやシンセなど明らかに合成している曲が少なくなかったという理由もあるけれど、タイコ以外の楽器がどうにも弱い。ドロレスさんは笛よかバウロン叩く方が好きなんだろうなあ、という感じだったし、リーダーのロイさんのギターもうーん…。ただ、フィナーレ直前に歌われた「世界初演作」、コーラス部分を客席にもシングアウトさせていた〈Roy〉はしみじみ良い歌だった。あれはもう一度聴きたいな。
 ダンサー陣では、プリンシパルが怪我のため今回来日できなかったことが響いているのだろうか、今回は少しばらつきがあったのが気になった。メインダンサー以外にも欠場メンバーがいたのかな、群舞であきらかにひとつポジションが空いている演目があった(横並びになるとき一人分空けていた)。
 
 これまでの<ダンスが主体>のステージから一歩進んで、演奏陣との共同作業がステージ上で多く観られたのは嬉しいし、なによりショウのコンセプトがより明確になってわかりやすくなったと思う。何度も来日公演するダンス・ショウは、いちど完成したフォーマットをほとんど崩さずに同じ演目を何度もやるのが多いと思うけど、トリニティは毎回新しい試みを続けているのが嬉しい。同じ演目の再演でも、振付や構成をがらっと変えたりするから、何度観ても新鮮で飽きさせないのだ。だから、次回はどんな驚きを持って来てくれるんだろうという期待が持てる。以前観た感動をもう一度…という楽しみ方も否定しないけれども、トリニティのように毎度の変化を追っていくのも面白いものだ。
 というわけで、次はまた2年後かな? さらなる<進化>を期待しております。
(2012年07月14日 オーチャードホールにて)
 

2012 07 15 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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