« DADAN | 最新記事 | [exhibition] 土偶・コスモス »
復活、blast 日本公演
管楽器と打楽器が舞台狭しと炸裂する『ブラスト!』が再びやってきた。
1999年ロンドンのアポロシアターで産声を上げ、2001年にブロードウェイ・デビューするやその年のトニー賞(最優秀スペシャル・シアトリカル・イベント賞)とエミー賞(最優秀振付賞)を獲得した『ブラスト!』が、初来日を果たしたのは2003年。以後、2009年まで毎年日本で公演を行っていた。途中、06年と08年は新ヴァージョンである『blast II』、2007年には「ブロードウェイ版」を上演するなど、マンネリを防ぐためだろう、手をかえ品を変えしていた。
わたしはこのうち03年、04年、06年、07年、09年に足を運んでいる。
→2004年公演の感想
→2006年公演の感想
→2007年公演の感想
ウェブログをはじめる前に観た2003年はともかく、09年公演の感想をどこにも書いていないのは、もう言いたいことがなくなったからだ。正直なところ、心底びっくりし感激したのは初体験の03年と翌年の公演までで、以後の公演は(もちろん楽しかったし足を運んだ価値もあったけど)最初の興奮への追憶、あるいは再確認の場だった。
2009年でもう見納めかと思っていたら、2年間の休息を経て2012年ふたたび来日公演をすると聞いて驚いた。しかもなんと、6月末から10月あたまにかけて47都道府県全てを回るというからさらに驚きだ。いわく<ブロードウェイ作品の来日公演としては史上初、49会場、102公演>とのこと。え、ということは「ブロードウェイ作品」ではない「来日公演」なら過去に例があったというわけか。いやそれでもすごいけど。
『ブラスト!』の魅力は、「生身の人間がめいっぱい身体張ってやってます感」がこれでもかと詰め込まれていることだと思う。その満足度というか満腹感はかなり高い。ショーバイとしては「あーもうちょっと見たいのに!」と寸止めを喰らわせ、何度でも来させるやりかただってあると思うけど、『ブラスト!』はそんな姑息なマネをしない。一度のステージでこれでもかこれでもかとやり尽くす。たとえば2台のスネアが決闘する<Battery Battle>がそうで、秘技の限りを延々とやる。まさに圧巻で、コラーゲンたっぷりの大盛り豚骨ラーメンを食ったあとのようにお腹いっぱいになる(それでもなお「実はまだまだ隠し技があるに違いない」とも思わせるのだが、それは彼らが高度なテクニックの数々をいとも平然とやってのけているからだろう)。
コミカルな演出で会場を沸かせていた<クラプキ巡査>などいくつかの演目が、今年は新作に置き換えられたが、全体のコンセプトや構成は従来の『ブラスト!』のままで、個人的に大好きだったシェーカー教徒の合唱曲が削られなかったのが嬉しい。この演目は<Turkey In the Straw(わらの中の七面鳥)>が加わった新演出となったが、小学校のフォークダンスでおなじみのあのメロディが朗々と感動的なまでに演じ上げられたのには笑った。ここの盛り上げ方も、やはりこってりてんこ盛りなのだった。
上に挙げた07年公演の感想文の中で、わたしは彼らを「ストイック」という言葉で表現した。敬虔な宗教家のようにひたすらショウアップに殉じる彼らを見てそう感じたのだけれど、今回のパンフレットの解説では榎本孝一郎さんが「健全」というキーワードを多用しておられて、ああ、なるほどねといろいろ腑に落ちた。
そう、『ブラスト!』はどこまでも「健全」なのだ。古典的な「健全な精神は健全なる肉体に宿る」というフレーズが、そのまま服を着て楽器を持って目の前に立っているかのようだ。
『ブラスト!』というステージ・ショウのルーツとしてアメリカのマーチング・バンド、ドラムス&ビューグル・コーがあることはこれまでのパンフレットにもたびたび書かれていたけれど、今回榎本さんはもう少し踏み込んだこともお書きである。
この健全そのもののマーチング文化は、実は青少年の非行に悩む「病めるアメリカ」から生まれた、というのは印象的だ。ヒッピー&ドラッグな60年代を経て乱れに乱れた70年代、アメリカのインディアナ州で始まったのが、管楽器と打楽器を手に、徹底的に統率された動きで満場の聴衆を魅了するマーチングだった。凶暴なエネルギーがありあまっている青少年たちを、マーチングで求められる激しく規律正しい訓練にぶちこんで鍛え直す、というアイディアは、見事な成果をあげた。(パンフレット「音と光の祭典に、ようこそ!」より引用)このあたりの細かな事情はちょっと詳しい方なら常識の範囲なのかもしれないが、マーチング文化の成立事情は調べたらいろいろ面白そうではある。ともあれ、この徹底した「健全さ」こそが、『ブラスト!』の根源なのだということはよくわかった。
大阪での公演はちょうど2012ロンドン・オリンピックの会期まっただなかで、一般紙が連日スポーツ新聞と化している最中だった。『ブラスト!』のステージを楽しみながら、わたしは「出演者ってみんなアスリートぽいなあ」などと思っていた。『ブラスト!』ってそのまんまオリンピック開会式のショウに転用できるんじゃね? とも思った。このショウじたいはアメリカ文化の精華なのだろうけど、演目にアジアやイスラム風味を加えて多文化ぽさをもう少し強調すれば<地球代表>としても通用するかもしれない。このはちきれんばかりの生命の躍動感と、徹頭徹尾「健全」な倫理観は、まさしく<スポーツの祭典>のようなイベントにこそふさわしい気がする。
(2012年08月04日 オリックス劇場)
2012 08 05 [face the music] | permalink
Tweet
「face the music」カテゴリの記事
- ブルガリアン・ヴォイスにくらくら(2018.01.28)
- 55年目のThe Chieftains(2017.11.25)
- blast meets disney!(2016.09.11)
- ホールに響く聲明(2014.11.01)
- YYSB2014『展覧会の絵』『新世界より』(2014.06.29)
trackback
スパム対策のため、すべてのトラックバックはいったん保留させていただきます。トラックバック用URL:
トラックバック一覧: 復活、blast 日本公演: