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神戸で美術展ふたつ
はしごしてきました。
●オランダ・マウリッツハイス美術館展
2012年06月30日~09月17日 東京都美術館
2012年09月29日~2013年01月06日 神戸市立博物館
本展の目玉作品はなんと言ってもフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』で、チラシやポスター、チケットの半券に至るまでこのアイコンが使われている。なのでこの作品しか見るものはないのかなあと思っていた。フェルメールは30数点しか残ってなく人気も高いので、さぞ人が多く集まるだろうともあらかじめ予想できた。なので早めに出かけようと開館30分前に現地に着いたのだけど。
ゆっくりお茶でも飲んでオープンを待つか…と思ってたらなんと会場前にはすでに行列が。うひゃあ。みんないったい何時から並んでいるんだ。
こうなるとのんびりどころではない。慌てて列に並ぶ。行列はみるみるうちに倍以上にふくれあがった。
予定の9時30分よりも少し早めに開場してくれたけど、こういうときは少しばかり殺気立ちますな。みな足早に会場に吸い込まれていき、わたしもあわあわとその流れに身を任せるだけ。いやあ、中に入るまでにすでに疲れが。
メインの『少女』はそれだけで一部屋あてがわれ、そこでもまた行列。立ち止まらずに流れてください、という係員の声に促されてあっという間に観終わってしまった。感想は…えーと。思ったより小さかった、かな。
複製写真では表面に細かなひび割れがあるのだけれど、実物の前を通り過ぎただけではそこまではわからなかった。むしろ、もっとかさかさしているのかと思ったらけっこう艶があって、画面は非常になめらかなように感じられた。アイ・キャッチと唇、左耳の大きな真珠(真珠と言うより銀製品にも見えるけど)に施されたハイライトがとても効いていて、美しい。説明では特定のモデルはいないとのことだけど、だからこその「理想の少女像」でもあるのだろう。端正な表情にはずっと眺めていたくなる、吸い込まれるような魅力があって、なるほど、人気の高さもよくわかる。
意外にも、と言うと失礼だけど、本展にはフェルメールの他にも見どころがあった。レンブラントの諸作品がそれで、『笑う男』『羽根飾りのある帽子をかぶる男のトローニー』など、画集でしか見たことのない肖像画のいくつかが拝めたのが嬉しかった。フェルメール以外には観客も比較的少なく、しっかり眺められたのもラッキー。
結局、30分並んで実滞在時間20分足らずという超駆け足鑑賞となってしまったけど、まあいいや。次行こ、次。
●バーン=ジョーンズ展 —英国19世紀末に咲いた華—
2012年06月23日〜08月19日 三菱一号館美術館
2012年09月01日〜10月14日 兵庫県立美術館
2012年10月23日〜12月09日 郡山市立美術館
電車の車内吊りやチラシを見たときは、なぜかスコットランドの画家だと思い込んでいて、会場に入ってみるとウィリアム・モリスと活動を共にした画家という説明があった。ありゃ、わたし誰と勘違いしていたんだろう。
それならモリスの名前をもっと前面に打ち出して宣伝した方がよかったんではなかろうかと会場にいるあいだ中考えていたんだけど、ウィリアム・モリスって言ってもあんまり知名度はないのかなあ。とは言え、兵庫展のキャッチ・コピー「美、上手(じょうず)。」というくだらんオヤジギャグはないでしょう。誰だ、あんなしょーもないコピーを考えたバカは(タイトルも、東京の三菱一号館美術館展では「物語の世界を描いた、英国絵画の巨匠。 バーン=ジョーンズ展 —装飾と象徴」となっていて、こちらの方がわかりやすくて良いと思う)。
肝心の作品の方はロマンチックな耽美派で、ゴスロリファッションに身を固めた女の子たちが観に来ていたのが本展の性格をよくあらわしていたと思う。にしても、150年近くも前のビジュアルや世界観が、いまだに映画や漫画、アニメやゲームなどの「ファンタジーものコンテンツ」で有効であり続けているのは凄いなあ。
バーン=ジョーンズはギリシャ・ローマ神話からアーサー王伝説まで、さまざまな「物語」をビジュアライズしていて、その多作ぶりに驚かされる。構想はあっても未完成に終わったプロジェクトも少なくないようで、真っ白なキャンバス群を前に途方に暮れている『風刺的自画像—《描かれざる傑作の群れ》』というカリカチュアが面白かった。きっとアイディアがどんどん湧いて手が追いつかない、という人だったんだろうなあ。
いくつものシリーズが展示されているが、図録表紙にもなっている『いばら姫』の連作群が白眉。さまざまなポーズで眠る美女たちに囲まれていると、なんとも不思議な気分になってくる。彼女たちは眠ることでいつまでも年をとらない。死んではいないのだけれども生きて動くわけでもない。美の永遠性についての、この作家のスタンスがよくわかる連作だった。
ウィリアム・モリスがらみでは、ケルムスコット・プレスの本がいくつか観られたのもよかった。美術展としてはどちらかというと地味な展示になるからだろう、モリス展などでもあまり紹介されないジャンルなのだが、モリスが一字一字鋳造した活字や版面のレイアウト・デザインなど見るべきポイントは多い。一部屋まるごとケルムスコットに充てられたコーナーは、ちょっと立ち去りがたい余韻を残していた。
2012 10 08 [design conscious] | permalink
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comments
はじめまして。兵庫県立美術館のバーン=ジョーンズ展を担当したKOと申します。同展にお越しいただき、誠にありがとうございました。今更ながらお礼申し上げます。ところで、「あんなしょーもないコピーを考えたバカ」は私です。今後は見知らぬ方にバカ呼ばわりされないよう努力したいと思います。失礼いたしました。
posted: KO (2012/11/15 18:52:28)
コメントありがとうございます。
バカ呼ばわりについてはお詫びします。大変失礼しました。
むかし京都国立博物館で開催された『曾我蕭白展』のキャッチコピー「丸山応挙が、なんぼのもんぢゃ!」がずいぶん強烈な批判を受けたという話を聞いたことがありますが、キャッチコピーは<どういう反応であれ>引っかけられたら成功、というジャンルでしょう。その意味ではわたしは見事に「引っかかった」わけで、少なくとも当たり障りのない(それゆえ何の印象も残さない)コピーではなかったとは言えるかと思います。自分好みのテイストではありませんが、インパクトがあったことは確かです。そもそも、記憶にも残らないようなコピーなら、わざわざブログのネタにもしませんし。
posted: とんがりやま (2012/11/15 21:01:09)
丁寧なご返答をいただき、ありがとうございます。
今回のキャッチコピーは、唯美主義の画家であるバーン=ジョーンズにぴったりなのを思いついたと一人悦に入っていたのですが、ネットでは厳しいご意見が多くて少しへこんでおりました。
謙虚に受け止めるべきところを脊髄反射的にコメントしてしまい、反省しています。
ブログで展覧会のことを取り上げていただけたことにつきましては、本当に感謝しています。
今後とも兵庫県立美術館の活動を温かく見守っていただければ幸いです。
posted: KO (2012/11/16 23:47:37)
ご無沙汰いたしております。
ウィリアム・モリスやラファエル前派、好きなんです。今年10年ぶりに英国、コッツウォルズへ行きました。でもケルムスコットは残念ながらその日臨時休業。係りの人はいたのですが、理由は教えてもらえず入れなかったのがくやしかったです。
posted: 三紗 (2012/11/18 18:08:03)
コメントありがとうございます。こちらこそ、たいへんご無沙汰しております。
現地まで出かけていって中に入れなかったのは残念ですねえ。わたしは、齋藤公江さんのDVDつき書籍『モリスの愛した村 イギリス・コッツウォルズ紀行』(晶文社、2005年)でしか知りませんが、あのマナー・ハウスはいつかはきっと訪れたい場所のひとつです。
posted: とんがりやま (2012/11/18 22:51:47)