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[exhibition]:「大」エルミタージュ展

 
Hermitage
●大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年
 2012年04月25日〜07月16日 国立新美術館
 2012年07月28日〜09月30日 名古屋市美術館
 2012年10月10日〜12月06日 京都市美術館
 
 【カタログ】
 監修:千足伸行
 デザイン・制作:美術出版社デザインセンター
 発行:日本テレビ放送網

 2012年春から東京・名古屋と巡回していた『大エルミタージュ展』、最後の会場である京都展を観てきた。人の多さは、まあ予想通りというか織り込み済みなのでそれほどストレスではなかったのだけど、ちょっと腑に落ちなかったのが、なんでタイトルが「大」なんだろ。
 世界でも有数の規模を誇る美術館/博物館、ロシア国立エルミタージュ。いわゆる美術品だけでなく、考古学的な出土品なども豊富に所蔵していて、総数300万点とかいうからオソロシイ。サンクトペテルブルグに行く用事は今のところないんだけれど、もしなにかのきっかけで訪れることがあっても、とてもじゃないが一日やそこらでは回りきれないだろう。ルーブルや大英博物館などと同様、しっかり観て回るなら最低でも一週間くらい通い詰めないとダメかもしれない。だから、こうして向こうの方からやって来てくれるのはたいへんありがたいんだけれど、残念なことに本展はそんなエルミタージュの全貌を見せてくれるものでは、ない。
 本展は副題にあきらかなように西欧絵画のみ、それも16世紀ルネサンス以降から20世紀半ばまでという非常に限定された内容で、とはいえそれでも見どころいっぱいお腹いっぱいなので文句を言う筋合いはないのだけれど、ロシア関連の展示も少しは混ぜて欲しかったなあ。
 つーか、この出品内容だと、正題と副題を入れ替えても問題ないと思うんですよね。『西欧絵画の400年〜エルミタージュ・コレクションの精華』とか、そんな感じで。冒頭に書いたようにわざわざ「大」をつけてまで<エルミタージュ押し>をするなら、世界有数のミュージアムの魅力をもっと打ち出してくれてもよかったように思う。特設ミュージアムショップではマトリョーシカ人形やチェブラーシカのキャラクターグッズなど、ロシアっぽい商品をたくさん売っていたくせに、展示会そのものではそれを一切オモテに出さないのがあざといというかなんというか、違和感ありまくりだった(余談だけどいわゆる「名画」をモチーフにしたグッズっていつの間にか莫大なアイテムが販売されるようになりましたねえ。昔はせいぜいポストカードくらいしかなかったのに。これも「キャラクター商品」の一種なんだろうけど、それだけ買い求める人が多いからこその商品化なんだろうなあ)。
 
 400年に及ぶ西欧絵画の歴史をたったひとつの展覧会で見せる、という切り口は面白い。普通に考えたらとんでもなく無茶な試みではあるのだけれど、それが可能なのがエルミタージュのエルミタージュたる所以なのだろう。美術史でよく使われる流派だの主義だのという概念を持ち出す前に、まずは100年ごとの「世紀」で章立てをする、というアイディアは(カタログ巻頭論文によれば)エルミタージュ側からの提案であったらしい。そしてその章に応じた作品セレクトも、たとえば16世紀はイタリア、17世紀はオランダとフランドル、18世紀はフランスとイギリス…という具合に場所を絞り込んでいる。これが会場の風景にすっきりとした秩序をもたらしていて、かなりわかりやすい展覧会になっていたと思う。あれもこれもと網羅するのではなく、ばっさりと刈り込むことによって骨格だけをしっかり見せる。それでヨーロッパ絵画の歴史がなんとなく理解できた気になる。このあたりは「編集の妙」と言うべきだろう、うまいなあと思った。
 各章ごとにちゃんと見せ場というか売りがあるのも良い。16世紀ではティツィアーノの『祝福するキリスト』やレオナルド・ダ・ヴィンチ派の作とされる『裸婦』(モナ・リザのポーズで上半身が裸の女性を描いたもの)あたり。17世紀ではカレル・ファン・マンデル『愛の園』が、(そこに描かれる裸体のプロポーションの奇妙さも含めて)これぞバロックと言いたくなる絢爛さだったし、レンブラント『老婦人の肖像』の、光と影が生み出すドラマティックさも見応えがあった。続く18世紀ではフランソワ・ブーシェの2点の『クピド』やゲランの『モルフェウスとイリス』などに見られる甘美な表現に釘付けになった。19世紀と残る20世紀では、セザンヌをはじめ近代絵画の有名どころがどんどん出てくるが、やはり最大の目玉は会場の出口付近に飾られたマティスの『赤い部屋』だろう。京都での公開は約30年ぶりだとかいう話だけど、わたしはたぶん初見(どうせなら、ついでに大作『ダンス』も見たかったけど)。あんな大きな作品だとは思ってもみなかったのでびっくりした。
 マティスと言えばオリエンタル趣味、ということでロシアとの関係も浅くない。エルミタージュに残るマティスは37点もあって、それについてはカタログ巻末の論文(本橋弥生『マティスとロシア—ロシア・アヴァンギャルドにおける「東方」』)に詳しく書かれていて、読み応えがあった。
 
 上記のマティスに代表されるように、イタリアやオランダやイギリスやフランドルや、その他さまざまな国と時代の美術作品がロシア・サンクトペテルブルグに集められる経緯には、それぞれの作品にそれぞれのドラマがあったことだろう。冒頭で「本展にはロシアゆかりの作品がない」と不満を述べたけれども、考えようによっては「ロシア産でない」これらの作品群が、現在「ロシアの財産」として所蔵・公開されている事実の方をこそ面白がるべきなのかもしれない。展覧会タイトルの「大」の意味も、おそらくはそこに含まれているのではないだろうか。
 

2012 11 04 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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