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今年行った展覧会・2012

 
Exhibition2012 今年もなんだかんだと美術展にはよく行った。数えてみたらおよそ20くらい。ハイペースなのかどうなのか自分ではわからない。マニアな人ならもっとたくさん通ってるだろうし。
 あっという間に退出してしまったものもあれば、何周も会場を行ったり来たりして数時間すごしたものもある。自分のペースで観たい作品だけに絞って鑑賞できるのが趣味として性に合っているのだろう。どの展覧会も1ヵ月以上はやっているから、比較的スケジュールの都合をつけやすいというのもある。
 よほどでない限り図録を買って帰るので家の本棚がどんどん圧迫されて身動きがとれない状態になるのが悩みではあるが(最近の図録は装丁もしっかりして立派になってるからねえ)、来年からは図録を買うのも少し絞った方が良いのかもしれない。
 ただ、カタログを買っておかないとその展覧会に行ったことすら忘れてしまったり、数年のちにふと思い出して「そういえば図録買ってなかったっけ」って探したときに手元にないのはストレスになったりもするのだけど。
 
 記憶の記録という意味では、図録を買うのもそうなんだけど、なるべくブログに感想文を書き残すように気をつけている。つーかそのためのブログだし。…とはいえ記事にしていない展覧会もいくつかある。ということで、今年の回顧としてまとめてメモしておきたい(別途過去記事があるものにはリンクしておきます)。

●草間彌生 永遠の永遠の永遠
 国立国際美術館/1月7日~4月8日
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 新年いちばんに出かけた展覧会。秋頃だったか、NHKでドキュメンタリーも放送されてましたねえ。人気が衰えるどころか、年々高まっているのが不思議でもある。

●ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト
 名古屋市美術館/2月11日〜3月25日
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 かねてより観たかった作家の一人なので、大満足。4〜5年後くらいにまた来て欲しいなあ。
 
●村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する
 京都国立近代美術館/4月7日〜5月13日
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 会場で購入した、村山夫妻原作のアニメーション『三匹の熊さん』(1931)DVDが面白くて何度か見返している。「モダニズム」っていつまでも古びないよなあ。
 
●今和次郎採集講義 考現学の今
 国立民族学博物館/4月26日〜6月19日
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 展覧会としては少しとっちらかった印象だったが、貴重な資料がいっぱいあって見飽きなかった。
 
●収蔵コレクション展
 大和文華館/4月15日〜5月20日、5月22日〜6月24日
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 ほぼ『松浦屏風』だけを観に行ったようなものだったが、他の展示品も面白かった…ような…ええと、実は他に何があったかぜんぜん覚えてませんすみません。
 
●南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎
 神戸市立博物館/4月21日〜6月3日
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 南蛮美術かっこいいよねー、というのを再認識した展覧会。記事にも書いたけど、世界地図屏風群がめっぽう面白かった。原寸大複製品があったら飾りたい(部屋にそんなスペースないけど)。
 
●チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち
 兵庫県立近代美術館/6月9日〜7月29日
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 限りなくチェブラーシカだけに重心が傾いていた展覧会。ロシア・アニメの最前線をもっとたっぷり味わいたかったなあ。
 
●蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち
 三重県立美術館/6月2日〜7月8日
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 同時期に近所の石水博物館でも『曾我蕭白と伊勢の近世美術』(6月1日〜7月16日)をやっていたので、はしごした。そちらは点数は少ないながら間近でじっくり眺められたのがなにより。石水博物館は、地元の政財界で活躍し茶の湯や作陶など文化人としても名を残した川喜田半泥子(1878〜1963)ゆかりの小さなミュージアムだが、こういう機会がなければおそらく一生縁がなかっただろう。記念にと思って、講談社文芸文庫版の随筆集を買って帰った。
 
●武田秀雄 個展
 京都蘭蝶/7月8日〜7月22日
 トミー・ウンゲラーの影響を云々されることの多い漫画家だが、当人の弁によるとそうではないらしい。むしろ日本文学史の用語である「無頼派」にもっとも近い作家のひとりであるかもしれないと、会場でご本人に会ったあとふと思った。漫画家として世界ではじめて大英博物館で個展をひらいた(1993年)ひとでもあります。祇園祭シーズンのクソ暑いさなかに、大汗をかきながらギャラリーに足を運んだのも今となってはいい思い出。
 
●土偶・コスモス
 MIHO MUSEUM/9月1日〜12月9日
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 結局、最終週の再訪はかなわなかったがまあいいや。主要な土偶が東日本に集中しているとは知らなかったのでびっくり。どれも貴重な出土品だからしょうがないけど、ひとつくらい実物を手にとってみたかったなあ。手触りってかなり重要だと思うし。
 
●近代洋画の開拓者 高橋由一
 京都国立近代美術館/9月7日〜10月21日
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 本展の予習のつもりで事前に読んでいた北澤憲昭『眼の神殿 「美術」受容史ノート』がまだ読み終わらない。本を読むペースがぐんと落ちたのはたぶんiPadのせい…ということにしておこう。
 
●マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
 神戸市立博物館/9月29日〜13年1月6日
●バーン・ジョーンズ展 英国19世紀に咲いた華
 兵庫県立近代美術館/9月1日〜10月14日
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 オランダ絵画ってたいていフェルメールといっしょにくっついてくるってイメージだが、静物画などにみられるリアリズムの極致のような描写はそれだけでもたいへん面白い。なのだけど、どうしたってフェルメールが主役になってしまうので、「実力派の名脇役」みたいな印象になってしまうのがくやしい。いや、わたしがくやしがる必要はどこにもないのだけど。バーン・ジョーンズさんの方は、21世紀のいま生きていてもきっと注文が殺到するに違いないと思いました、はい。
 
●山口華楊
 京都国立近代美術館/11月2日〜12月16日
 いいなと思った作品も少なくなかったし全体の上品で落ち着いたトーンも好みだったんだけど、それ以上にガラスケースの反射が気になってしまって集中しにくかったのが残念。なんとかならないものかと思ってたら、来年リニューアルオープンする東京国立博物館東洋館では低反射ガラスを採用とのこと。どの程度の威力を発揮するものかわからないけど、こういう動きはどんどん広まってほしいものです。
 
●日本の映画ポスター芸術
 京都国立近代美術館/10月31日〜12月24日
 2009年の『無声時代ソビエト映画ポスター 袋一平コレクション』につづく、東京国立近代美術館フィルムセンターとの共同企画シリーズ(2010年の『戦後フランス映画ポスターの世界』展は、京都では開催されなかった?)。たいへん興味深く鑑賞。小スペースでの展示なので、もっと観たいぞ! というところで終わりになるのが残念。ていうか“近代美術館”なら<ポスター>というテーマだけで大々的な企画展のふたつやみっつくらい、軽々とできそうなものだけどな。ポスターという表現形式はまさしく近代の産物であるはずだし。
 スペースの関係もあってか、深く掘り下げられた展覧会ではないものの、おおまかな傾向はつかむことができる。60年代終わり頃から70年代を通じて、文芸作品とかゲージュツ映画系のポスターにやたらヌードが多い(写真/イラスト問わず)のもそのひとつかな。テレビの2時間ドラマなんかでやたらにおねーちゃんの入浴シーンが流れていた時代はもう少しあとになるのかな? 時代というか、世代的な好みだったのかしらん。そんな中でも、和田誠さんのポスターは目を惹く。ノーギャラでやっていたという日活名画座や草月シネマテークのポスターは、いま見てもやっぱりかっこいいよねー。
 
●北斎 風景・美人・奇想
 大阪市立美術館/10月30日〜12月9日
 かなり充実した展覧会で、たいへん楽しかった。疲れてロビーの椅子で少し休憩が必要となった展覧会というのも久しぶり。展示の大半が版画で細かい絵が多く、ひとつひとつをしっかり見て回るのに体力が要るってこともあるのだが、やはり北斎の絵のもつパワーが大きいのだろう。また、大阪市立美術館のアンティークな建物ともよく似合っていた。
 肉筆画から版画まで、どんな形式の絵でもハッとさせるアイディアに満ちていてとても面白いのだけれど、なかでも最晩年に描かれたという掛軸『富士越龍図』には唸らされた。それまでの大衆的な(=ポップな)図柄とは違う、作家の内面がそこに在るように思えたからだ。ご本人は90歳まで生きた(1760〜1849)からじゅうぶん長寿ではあるけれど、さらに生きていたら(もしくは、あと半世紀ほど遅く生まれていたら)、近代的なロマン主義的をも我が物として飄々と表現していたかもしれない。まったく、この人こそ怪物と呼ぶにふさわしい巨人だなとあらためて思った。
 
●エル・グレコ展 EL GRECO'S VISUAL POETICS
 国立国際美術館/10月16日〜12月24日
 奇妙に引き延ばされた身体、とよく言われるけれど、このひとの最大の“奇妙さ”は青白い色彩だと思う。カラーバランスがあきらかにおかしい。なんらかの色覚異常にあったのではないかと思うくらいだが、その絶妙なトーンは他人にはなかなか真似できない…という時代も場所も違うわたしのような観客の感想はともかく、作家本人としては“至上のもの”をなんとか眼前にあらわしたかったのだろうと想像する。
 突飛な連想でアレだが、会場にいるあいだ、わたしはジョン・コルトレーンの吹くサキソフォンを思い出していた。混沌と秩序、沈鬱と歓喜、古典と前衛。両者にはどこか共通点が見いだせると思うのだがいかがだろうか。
 展示されている作品の大半は宗教画だが、既存の宗教というよりも、作家個人の内なる信仰に基づいたものと思える。たまたま作家の生きた時代環境に“キリスト教”があったからそれを利用したにすぎないのであって、エル・グレコ本人はそれを越えた別のなにかの信徒だったんじゃなかろうか。図録をあらためて眺めていて、彼の描く人物の表情——特にその眼——がどこを目指しているのか、非常に気になった。
 
●大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年
 京都市美術館/10月10日〜12月6日
 →感想はこちら
 上の記事にも書いたけど、ロシアが「ヨーロッパなるもの」を貪欲に吸収したかったというのは今回の展覧会でよくわかったので、次はぜひエルミタージュの「ロシアならでは」の側面も観てみたい。それはたとえば、およそ100年前にディアギレフが企画した「歴史的肖像画展」のようなものかもしれない。
 もちろん美術展も商業的な成功を期待される「興行」である以上、華のない展覧会など一顧だにされないし、そのためにはなにかしらの目玉作品が必要とされるのもよく分かるのだが、エルミタージュがエルミタージュである所以を「ロシア」以外のものにしか頼れないというものでもあるまい。…というか、19世紀末以降の「国際主義/ナショナリズム」の決算を、ここらでいちど確認してみたいのでありますね。21世紀のいま、誰もがどこかでケリを付けなくてはならない問題ではないかと思うので。
 
●絵本「化鳥」原画展
 泉鏡花記念館/9月29日〜13年1月20日
 →感想はこちら
 中川学さんの新作絵本『化鳥』はのちのち彼の「代表作の一つ」と目されるに違いない。魅力的なキャラクター造形、ドラマティックな構図、端正で品のある彩色。どれをとっても非常に完成度の高い作品だ。
 彼はどんな仕事においても、いつも何かしらの新鮮な驚きを見せてくれるイラストレーターであり、そのお人柄によるのだろう、まわりには魅力的な人物が自然にあつまる。そういうところも含めて、これからもずっと追いかけ続けていたいクリエイターのひとりであります。
 
●須田国太郎 没後50年に顧みる
 京都市美術館/12月1日〜13年2月3日
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 その作品をひとつだけなら見逃していたかもしれないけれど、まとめて見せられるとそれなりの重みを持ってこちらに迫ってくる。須田国太郎の作品は、わたしにとってそういう存在だ。国太郎に限らず、わたしが「回顧展」好きなのはそんな理由による。そういう意味で、本展は観に行って良かったと思えた展覧会のひとつ。こういう良質の展覧会がもっと増えて欲しいと思う反面、年にいくつもやられちゃ追いかけるのが大変だから困るのだけど、ま、贅沢な要望ではありますな。
 

2012 12 22 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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