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フィニッシュ・デザインのプロモーション展

 
Finnishdesign
●フィンランドのくらしとデザイン ムーミンが住む森の生活
 2012年04月07日〜06月03日 青森県立美術館
    06月10日〜08月26日 宇都宮美術館
    09月01日〜10月08日 静岡市美術館
    10月19日〜12月24日 長崎県美術館
 2013年01月10日〜03月10日 兵庫県立美術館
 
 【カタログ】
 企画・構成 株式会社キュレイターズ
 デザイン 大溝裕(Glanz)
      スズキユタカ(studio 029)
      宇澤佑佳(株式会社キュレイターズ)
 スリーヴ・デザイン ユホ・ヴィータサロ
 
 昨年春から1年がかりで日本各地を巡回していたこの展覧会、最終会場の兵庫展に行ってきた。他の美術館ではどういう構成になっていたのか知らないが、兵庫展ではちょうど真ん中の休憩所をはさんで、大きく「過去」と「いま」が俯瞰できる二部構成になっている。
 
 会場に入る前にフィンランドという国のアウトラインを紹介するパネルが並び、この展覧会が単に見るだけではなく「読む」ものである、というコンセプトをアピール。わたしは一瞥しただけで素通りしてしまったけど、カタログにもしっかり載っているのであとで読むつもり。というか本展のカタログは、ふつうの美術展のそれのように「眺める」ものではなく、文章量がかなり多い。ただ現物の作品を持って来ました、というだけではない、日本の観客にフィンランドを詳しく説明してやろうという強い意志が、そこかしこにあらわれているのだ。
 
 場内に入ってまず眼に飛び込むのは、デザイン作品ではなく絵画。それもフィンランドの雪景色を描いた油彩ばかり5、6点が並ぶ。ちょっと意表を突かれた感じだ。絵画の主題はやがて春を迎え、夏至祭で橋の上で踊る人々の絵でひとまず終わる。長い冬と短い夏、厳しい自然と共に暮らしている国であることを手短に紹介しているというわけだ。…どうでもいい話だが橋の上のダンス、カップルで踊っている人たちとそれを眺める人たちは描かれているけれども、楽器を奏でている人の姿が見当たらないのが不思議だった。まさか無伴奏で踊っていたわけではあるまいに。
 
 続いて、アクセリ・ガレン=カレラの自邸やエリエル・サーリネンの建築作品と並行して、フィンランドの国民的叙事詩『カレワラ』が紹介される。つまり本展の前半部は<フィンランドのナショナル・アイディンティティが成立するまで>を描いていることになる。おおまかに20世紀初頭、世界大戦前までのフィンランドだ。スウェーデンとロシア、左右の両大国に挟まれて大きく揺れ動いていた時代であり、だからこそフィンランドがフィンランドたらしめる理由づけ、つまりナショナル・アイディンティティたりうるシンボルを発見し、国民の財産として共有することが急がれていた時代でもある。サーリネンの公共建築群も、またカレワラの編纂も、そのことを目的としていたことがよくわかる構成になっている。
 カレワラ関連の展示物もかなり興味深かったが、やはりここで圧倒的なのはサーリネンだろう。繊細な建築設計図面などはずっと見ていて飽きない。いずれこのひとだけの単独の展覧会も見てみたいと思った。
 
 ここまで、絵画作品を除けば建築とインテリアが少々、あとはカレワラ関連のグラフィックのみ。はてどこが「デザイン展」なんだろうといぶかしりながら休憩所を抜けて後半部に入った。まずムーミンでおなじみのトーヴェ・ヤンソンのコーナーがあり、それを過ぎるといよいよ「フィンランド・デザイン」が展開する。ヤンソン・コーナーではおなじみムーミンのイラストの他に、彼女の若い頃の自画像と大きなテンペラ画が見られたのが良かった。
 
 
 さて本丸の「フィンランド・デザイン」。プロダクト製品は、いわゆるミッド・センチュリー以降現代までのものが集められている。椅子とランプシェード、ガラスや陶磁器製の食器類、別室に移ってテキスタイルと、公共デザインその他。品目としてはかなり絞られている印象だ。
 白く丸いランプシェードや、同じくなめらかな質感のコーヒーカップや皿を眺めていて、ここでようやく会場冒頭の雪景色に合点がいった。本展に集められた「フィンランド・デザイン」の、あれは原風景だったのだと。特に食器類に顕著な、とことんシンプルで普遍性の高いプロダクト・デザインは、降り積もれば地形の凹凸を覆い隠し、あたり一帯をなめらかな曲面にかえてしまう雪そのものではないか。
 そう思ってあらためて他のプロダクトを見てみると、椅子やオブジェも、つるんとしたサーフェイスがやたらに目立つ。フィンランドには、もっとこってりと装飾を施した食器だって多いはずだが(たとえば有名どころではアラビア社の製品)、ここではそのラインは注意深く取り除かれている。そのかわり、「大胆でカラフルな装飾」は、最後の部屋にディスプレイされたマリメッコのテキスタイル群が一手に引き受けていた。見せるポイントを絞ることでそれぞれをより効果的に印象づけようという、これは会場構成というか編集の妙と言えるだろう。
 後半部の展示で目を惹いたのは「2nd Cycle」という、家具メーカーアルテック社の取り組み。廃棄寸前の古い自社製スツールを引き取り再利用するというもので、リサイクルショップの仕事を自社で行うようなものだが、それを<年代や来歴など、それぞれの固有な情報を特定した上で>やる、というのが面白い。自社ブランドに歴史性と物語性を自ら跡づけていくようなもので、上に書いた「フィンランドのナショナル・アイディンティティ」確立のためにカレワラという物語を欲した国民精神とも通底している気がする。ナショナリズムであれ、企業ブランドであれ、それはひとつ筋の通った「物語」があってこそ成立するのだ、という図式は、ロマン主義を遠く離れたはずの21世紀の今でも、まだまだ有効な手法なのだろう。
 
 
 「デザインの国・フィンランド」というプロモーションはこの展覧会ぜんたいを通じてうまく表現されていたし、展示構成の描き方にもそつが無く、パッケージ・ソフトとしてたいへん良く考えられていたとは思う。会場出口での物産販売会場が、どのコーナーよりもいちばん混み合っていたのがその証拠でもあるだろう(会場内の説明パネル全てを丹念に読んだ人がどれだけいたかは知らないが)。
 官製の匂いがきつくてなんだか万国博覧会のパビリオンみたいな展覧会だなあという印象も受けたが、それも国を挙げてフィンランドを売り出そうという気迫のなせる技なのだろう。個人的には、物産コーナーで伝統音楽CDのひとつでも買おうかなと思ってたのに全く見当たらなくてがっかりしたが、まあデザインをPRする場だししょうがないか。次の機会に期待しよう。というか、カレワラだけとか、エリエル・サーリネンの回顧展だとかのように、「フィンランドという国」を背負った括りなのではなく、個々に特化したテーマの展覧会が、今後増えてくれることを期待したい。
 

2013 01 12 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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