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カザフのうた

 
130210
 カザフ民族の歌と音楽を聴く、という集まりに出かけてきた。会場となったのは京都市内にある扇子屋さん。いわゆる京町家づくりで、個人的にかつて祖父母が暮らしていた家を思い出すことしきりだった。
 ふつうの民家が会場なので、専用のステージがあるわけもない。1階の奥の間に座布団を敷き詰めて、30人ほどで満員になるというごく小さな空間で、もちろんマイクもスピーカーも使わない。
 
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 『遊牧と騎馬の旋律 —中央アジア・カザフの歌と器楽—』と題された今回のコンサートには、カザフスタン共和国の首都アスタナ出身のイナーラ・セリクパエバさん(上のポスター、写真右)と、モンゴル在住のリヤス・クグルシンさん(同左)のおふたりが登場。ふたりが手にする楽器はドンブラという2弦の撥弦楽器で、カザフでは老若男女が手にする国民的楽器なのだそうだ。第一部がイナーラさんの独奏、第二部がリヤスさんのうたと演奏、短い第三部では同一テーマの楽曲の弾き比べ、という構成だった。
 イナーラさんにはカザフ民謡歌手の高橋直己さんがナビゲート役で登場、一曲毎に解説が入り、さらにうたを一曲、縦笛での伴奏もつとめるなど八面六臂。一方のリヤスさんはモンゴル情報局「しゃがあ」の主宰者、西村幹也さんがナビゲート。現地の風景写真をスライドで見せながら、カザフ人の歴史を解説されていた。わたしはカザフの音楽を聴くのがはじめて、というかカザフスタンの歴史すらまったく知らなかったので、両ナビゲーターの話はどれも興味深いものばかりだった。
 
 ユーラシア大陸のほぼ中央に位置するカザフスタン共和国は、旧ソビエト圏内としてはロシアに次ぐ面積(日本の7.2倍)をもつ広大な国だ(Wikipediaによれば世界でも9番目に広い国土をもつとのこと)。古くはモンゴル帝国、19世紀にはロシアの支配下となり(森薫さんのマンガ『乙嫁語り』が、ちょうどロシアに侵攻される直前の中央アジアを舞台にしていましたっけ)、1991年のソ連崩壊にともない共和国として独立し、今に至っている。ちなみにカザフスタンの現在の首都アスタナは、黒川紀章が都市設計を手がけたんだそうだ。へええ。
 
 イナーラさんはドンブラの名手として、国立の音楽アカデミーを卒業後は民族楽器オーケストラなどでソリストとして活躍されてきたとのこと。長くソビエト連邦の一員であったカザフスタンでは、音楽教育も細かく専門化されているそうで、うたと演奏も担当がわかれる。彼女もドンブラのソロ演奏のみに特化していて、その演奏は超絶技巧と呼ぶにふさわしい、繊細で複雑なプレイだった。たった2本の弦でこれだけ多彩な音色と旋律、ハーモニーが生み出されるのはさすがとしか言いようがない。演奏された曲のうち大半は、近現代の作曲者名がはっきりしている楽曲だった。
 対するリヤスさんは、医者としての教育を受けたので、音楽の方は公的機関では習わなかった。しかしそのことがかえってプラスに働いたのだろう。耳で覚えたうたと演奏が次第に注目をあつめ、のちには文化功労者勲章を授与されるまでになる。よく通るまっすぐな歌声がすばらしく心地よかった。ともあれ、まったく対極にあるようなふたつのスタイルを一夜で聴くことができたのは面白い経験だった。
 どちらも聴き応えがあったが、わたしがとくに心を惹かれたのはリヤスさんのうた。遊牧民としての暮らしを長く続けていたカザフ人だったが、ある日とつぜん目の前に国境線が引かれいくつかの「国」に分割されてしまう。リヤスさんはモンゴル国内でもっとも多くカザフ人の住む地域のひとで、つまりは「国境のあちら側」に住むことになってしまった人々の末裔ということになる。そういうバックグラウンドをもつひとの歌声である。
 カザフ人の、遊牧民族としての神話や歴史や物語は、うたを含む口承文学として後世に伝えられてきたことは容易に想像できる。この夜のコンサートも、カザフの歴史をうたで綴っていく、というものだった。かつては民族の離散や弾圧などといった大きな事件もうたわれたに違いないだろう。しかし、社会主義圏内に入ってしまってからは、その種のうたは、少なくともおおっぴらには歌われることができなくなったことだろう。コンサートで歌われた内容は多くが望郷をテーマにしたものだったが、かつてはシベリアから黒海まで、中央アジアを縦横無尽に駆け巡っていたカザフ民族の歴史をレクチュアされながらそれらのうたを聴くと、よりいっそう胸に染みてくるものがある。
 
 コンサート終了後に懇親会があり、質疑応答タイムも用意されて、もっと突っ込んだ話が聞けるとのことだったが時間の都合でわたしはパス。後ろ髪を引かれつつ会場をあとにした。いつかまた、こういう機会があるといいな。
 

2013 02 11 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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