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真夏の展覧会めぐり・2013
暑中お見舞い申し上げます。
2013年の夏、滋賀と京都の美術館で開催中の展覧会をいくつか回ってきたので簡単に感想文など。
◆遊びをせんとや。
●特別展観 遊び
2013年07月13日〜08月25日 京都国立博物館
京博が収蔵する作品を「遊び」というキーワードで編集した展覧会。こういうのはいいな。常設展示品ってそっけない紹介のされ方をされがちだし、それでなくても長いあいだ新館の工事中で、しばらく常設展示に接する機会がなかったし(だいぶ完成に近づいてたようで来春?のオープンが楽しみ。敷地面積としては東博に及ばないのはしょうがないけど、そのぶん中身に期待)。なにより、「遊び」というキーワードを得て学芸員さんたちがめいっぱい遊んで、楽しんでいる様子がうかがえて、こちらも楽しくなってくるのがいい。
神々の遊びから庶民の娯楽まで、「遊び」を九つの章に分けて展示している。館収蔵品とはいえたぶん初めて見るんじゃないかという品も多く、たいへん楽しめた(初公開品もひとつふたつあった)。なかでもスゲーと思ったのは、江戸時代後半、18〜19世紀頃に作られたというゲームグッズ(第8章 室内の競技)。たとえば『吉野蒔絵三組盤』は香を聞き分けて遊ぶ「組香(くみこう)」という競技のためのゲームボードで、「競馬香」「名所香」「矢数香」というみっつのゲームがこれひとつで楽しめる、らしい。ルールがわからないのでなんのこっちゃなんだけど、ミニチュアの乗馬フィギュアが駒になっていて、当たったら前進、外れたら後退するとかいうものらしい。蒔絵の見事な装飾が気品があって、「たかが遊び(つーても賭の対象にはなってたろうけど)の道具」にかける情熱にほとほと感心する。こういうミニチュアの他にも「見立て」やら「もじり」やら「からくり」やら、江戸時代の細工物にはびっくりするばかりだ。
上の写真は館外に用意された「顔ハメ」で、ふたつあるうちのひとつ。一月ちょっとの展覧会用にしてはずいぶんしっかり頑丈に作られているように見受けられたが、展覧会が終わったら解体されちゃうのかな? ちなみにこの顔ハメ看板の元絵は17世紀の中国で作られた作品で、楊貴妃がポロをしているという図。ポロシャツは着てませんが。
くり返しになるけど、担当者が楽しんで編集しているな、というのが随所に見られて、観ていてたいへん面白い展覧会だった。大規模な企画展ももちろん楽しみだが、こういった自主編集モノは他の美術館でもどんどんやってほしいな。まあ、豊富な収蔵品を誇る京博ならでは、ってとこもあるだろうけど。
◆里帰り。
●江戸絵画の奇跡 ファインバーグ・コレクション展
2013年05月21日〜07月15日 江戸東京博物館
2013年07月20日〜08月18日 MIHO MUSEUM
2013年10月05日〜11月10日 鳥取県博物館
三カ所の巡回展で、わたしが観てきたのは滋賀のMIHO MUSEUM。アメリカ人コレクター、ファインバーグ夫妻のコレクションのはじめての里帰り展で、江戸時代の絵画、それも狩野派や土佐派などいわゆる「御用絵師」のものは少なく、民間の画派が中心だという。
ということで若冲や簫白といったおなじみの作家が多いんだけど、ことさらに奇抜奇妙な絵はほとんど見当たらず、総じて品の良い装飾的な作品ばかり、という印象だった。これはひとえにコレクターの好みなのだろうけど、ここ何年かに開催されてきた、同じようなアメリカ人コレクターの日本絵画展(たとえば06年のプライス・コレクション展や10年のギッター・コレクション展など)と比べてもひときわ落ち着きがある。悪く言えば地味ということなんだけど、別に派手なだけが江戸期の日本絵画でもないしねえ。
文人画の大家、池大雅の作品がいくつかあって、中でもわたしが足をとめてしばらく動けなかったのは『孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風』。池大雅が描く絵ってどうもちまちましているイメージがあって、上手だとは思うもののあまり好きになれなかったんだけど(こう言っちゃなんだけど小賢しさが鼻についていたんです)、この屏風はたいへん大らかで観ている者をふわっと包み込むユーモアが楽しい。特に右隻、いわゆる「日の丸構図」と言うのかな、画面のどまんなかに人物が描かれているんだけど、身体の輪郭を丸く縁取るだけで中はぽっかり空白になっている。けれども省略してるなかにいろいろ大事なものが詰まっているようにも見えて、わたしはそのへんの知識がまるでないんだけどああこれが禅画というものだろうか、などと思いながら眺めていた。
苔寺からほど近い池大雅美術館にはむかし一度行ったきりなので、久しぶりにもう一回行ってみようかな…と思ったら、ん? 平成24年12月から休館しているって?
◆ナンセンスマンガの系譜。
●佐々木マキ見本帖
2013年07月06日〜09月01日 滋賀県立近代美術館
武蔵野の吉祥寺美術館(4月6日〜6月23日)、7月からの滋賀近美ときて、このあとも各地を巡回するようなので、詳細はメディアリンクス・ジャパンのサイトをチェックしてください、とのこと。
佐々木マキさんが京都市在住ということをはじめて知った。会場にはここ数年に彼が撮った街角スナップ写真の展示があって(図録には載っていない)、見覚えのある風景がたいへん多い。ひょっとすると知らないうちにどこかですれ違っていたかも…てなことを想像するとがぜん親近感が湧いてきますね。
2011年に出版された自選マンガ集『うみべのまち』(太田出版/ISBN978-4-7783-2143-7)のあとがきによれば<ちなみに私の税金申告書の職業欄は一九六九年から現在まで〈マンガ家〉のままである>とのこと。今となっては絵本作家かイラストレーターとしてのイメージが強いけど、本人的にはマンガ家であり続けたいんだろうな、というのがわかるような気がする、そんな展覧会だった。
佐々木マキというと、村上春樹の初期の単行本の装画で知られる…のかな? お年を召した方なら60年代のガロや朝日ジャーナルってことになるんだろうけど。わたし個人でいえば絵本『やっぱりおおかみ』や『ムッシュ・ムニエル』あたりかなあ。とはいえ特に熱心に追いかけたということはない。いつその名前をはっきり意識したかという記憶がなく、いつのまにか名前とその作品が刷り込まれていた…そういう作家のひとりであります。
絵本やマンガ作品の原画が数多く展示されているが、カラー原画は印刷物よりも発色がキレイで、描線もたいへん美しい。マンガ家時代の代表作『うみべのまち』の原画は全ページ展示されているんだけど、ホワイトによる修正がないのはもとより、かなり古い原稿のはずなのに用紙に日焼けした様子がみられないのにも驚いた。作品こそジャズのインプロビゼーションのような、イメージが自在に奔放するマンガだからその勢いに任せて大胆に描かれたもののように思っていたけど、想像以上に丁寧に仕上げられていて、なおかつ印刷所から帰ってきてからもずっと大切に保管されてきたことがよくわかる。
同じように、絵本原画の数々もとても美しい。カラーインクや水彩、グワッシュなど技法は多岐に及んでいると思われるが、どれもとても丁寧だ。描線はペンかロットリングかマーカーか、時期によりいろいろ使い分けていると思うんだけど、どの線もきっちりと引かれている。職人だなあ、プロだなあ、とただだた溜息をつきながら会場を回っていた。絵本の原画展は西宮市の大谷記念美術館で定期的に開催されているけど(今年は8月17日から9月23日まで)、絵本作家の描く絵って一種独特の繊細さがあると思う。これって額縁に入った絵画と違い、本になって間近でじろじろ見られるための絵だからこそ、なのかな。
このひとの作品はときに西洋の古い解説図ふうの図柄が出てきたり、かと思えば杉浦茂のパロディのようなキャラが出てきたりと、つかみ所のない作風だなあと思っていたんだけど、上にも挙げた自選マンガ集のあとがきや本展図録後半のインタビュー集などを読むと、やはり杉浦茂からの影響がかなり大きいようだ。そういう目であらためて展示物を眺めると、どの作品もみんな杉浦マンガのようにも思えてくる。佐々木マキの持つアナーキーなナンセンスさの源泉は、子供のころ夢中で読んだというマンガにあったのか。三つ子の魂百まで、なんだなあ。
2013 07 28 [design conscious] | permalink Tweet
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