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ウーマン・オブ・アイルランド in JAPAN

 
Woi
●ウーマン・オブ・アイルランド JAPAN First Tour 2013
 写真は公式プログラム(デザイン:武田祐輔/中山絵美子(タエラグラフィックス)
 
 2009年にスタートした、アイルランドのうたやダンスを紹介するショウ『ウーマン・オブ・アイルランド』。初の日本ツアーは2013年7月12日の福岡公演を皮切りに、24日まで9会場で11公演が行われる。わたしは7月14日の大阪公演(NHKホール)に行ってきました。以下覚え書き。
 
 * * *
 
 初めて見る舞台はなるべく予備知識を持たずに出かけることにしている。今回も事前に予習はせず、どんな内容なのかほとんどなにも知らない状態で客席についた。もっとも、3月のセント・パトリックス・ディ関連のイベントで、ダンサー2人とフィドラーがプロモーション来日をしていて、そのステージは観ていた(というかそれで知った)んだけれども。
 タイトル通り、出演者のほとんどが女性で占められている。ヴォーカルが4名、ダンサーは男性ひとりで他は全員女性。ダンス隊はプログラムで確認すると総勢12人だが、そんなに大勢だったっけ。
 ミュージシャンは8名、うちメインで目立っていたのがフィドルのニーヴ・ギャラハーで、彼女を盛り立てていたバンドは大半が男性で、楽器はドラム/パーカッション、ベース、ギター、サックス(アルトとソプラノ)/イリアン・パイプス、アコーディオン、ティン・ホイッスル…だったと思う。ショウの途中で1曲、フィドルと一緒に踊りながらフルートを吹いていた女性がいたが、あれはミュージシャン組だったのか、ダンサー組だったのか。よく確認できないまま終わってしまった。それと、リズム対決でバウロンを叩いていた人はアコーディオンのひとだったっけ?
 
 
 日本向けに特にそういう内容のものを選んでいるのかもしれないが、アイルランド発のこの手のショウは、かの国のナショナル・イメージを強く訴えるものが多い気がする。『リヴァーダンス』はアイルランドが好景気の追い風に乗り<ケルティック・タイガー>と呼ばれていた時期のイケイケの雰囲気をよく伝えていたし、今年も12月に公演が予定されている『ラグース』もバブル後のアイルランドの気分をうまく表現していたように思う。ことさら意識してはいないのかもしれないが、これらアイルランド産のダンス・ショウは<アイルランド>という国のイメージを国外にアピールするための、格好のビジネスツールにもなっているのだ。ステージ・ショウにかぎらず、「アイルランドの音楽やダンスを紹介する」ビデオを購入したら、演奏シーンそっちのけで延々とアイルランドの自然や遺跡が映っていた…という経験もある。ケルト紋様も含めて、アイルランドのこういう「イメージの刷り込み」は昔から徹底していると思う。
 『ウーマン・オブ・アイルランド』もまた…いや、これまで以上により強力に、アイリッシュ・イメージのブランド化を意図しているつくりになっていた。なにせレンスター、マンスター、コナハト、アルスターの4地方の旗は出てくるわアイルランド伝統曲ではない『イマジン』や『ワン・ティン・ソルジャー』のような曲を取り上げて平和主義・反戦主義をアピールするわで、こう言っちゃ悪いがまるで政府広報番組かなにかを見ているかのようでもある。
 
 おなじみ『ダニー・ボーイ』からケルティック・ウーマンのヒット曲『ユー・レイズ・ミー・アップ』まで、どんな世代の観客にも受けやすい選曲。アレンジは思い切りポップで、先の『ワン・ティン・ソルジャー』や『ブラック・イズ・カラー』なんかは特にかっこいい(三姉妹のヴォーカル・グループ「オニール・シスターズ」がいい味出してます)。プレゼンとしてはホント隙がないなあ、と感心することしきりだった。音楽コンサートとしてみれば非常によくできた「アイルランドの歌謡ショウ」で、エンターテインメントとしてそつがない。
 本作はさらにダンスが加わるのだが、そのパートも新機軸を打ち出すべくさまざまなアイディアが駆使されている。
 アクロバティックな宙づりをやってみたり、バレエのエッセンスを取り入れてみたり、アフリカン・テイストのアレンジを加えてみたりとかつてないほど多彩なダンスが登場。<アイリッシュ・ダンス>のイメージを刷新しようという意志がそこかしこに見られたのだが、なによりわたしが驚いたのは「うたと一緒にやってる!」
 
 
 どういう理由があるのか詳しくは知らないけれど、従来アイルランドでは「うたはうた」「ダンスはダンス」で、それぞれ分けて演じられてきた。先にあげた『リヴァーダンス』や『ラグース』はもちろん、アメリカン・アイリッシュの『トリニティ』や、同じくアメリカ出身のマイケル・フラットレーの諸作(『ロード・オブ・ザ・ダンス』から『ケルティック・タイガー』まで)でもその<ルール>は堅く守られてきた。派手なダンスがあって、そのあとシンガーが出てきてうたい、歌手が退場してまたダンスが始まる…という構成だ。
 他の国ではうたをバックに踊ることなどごくあたりまえなんだけど、ことアイルランドでは両者のパートはきっちり区別されてきたのだ。それだけ<うた>というものに特別な意味を持っている国民性なのだろう、と思っていた。
 ところが本作では、あえてその「聖域」を崩しにかかっている。ヴォーカルの横でダンサーが踊り、あるいはダンスの一群のうしろ、ダンサーと同じ隊列にヴォーカリストが並んでうたっている。演奏とうたとダンスがまさに「三位一体」となって演じられている。
 
 とにかく新しいことをやるぞ、アイルランドの新しいイメージを創出するぞという、なんというか気迫のようなものがたぎっている。わたしにはそう感じられた。それはダンスだけのナンバーでも同じで、シャン・ノース・ダンスの定番であるブラシを使ったシーケンスは、ダンスのステップだけ取り出せばまんまオールド・スタイルなんだけど、バックで演奏される音楽が思い切り派手なロックだったりするのが面白い。この落差を楽しんでくれ、とでもいわんばかりの演出だ。
 
 
 …というふうに、マニアックなアイリッシュ好きからアイルランドってどこにあるのかよく知らないふつうの人まで、あらゆる層にアピールする構成と演出になっていて、よく考えられているなあとただただ感心しながらステージを眺めていた。正味2時間、途中20分の休憩があるから2時間20分ほどなのだけど、たっぷり最後まで飽きさせない工夫が至るところに発見できる(まだツアーは始まったばかりなのでこれ以上のネタバレは避けるけど、実はさらにあっと驚くナンバーも用意されていて、これがまたしみじみと良かった)。
 
 公演パンフには「Japan First Tour」と記されている。今回の初来日公演の結果次第だろうけど、今後定期的に日本にやってくる可能性は充分にある。少なくとも『リヴァーダンス』なきいま、『トリニティ』や『ラグース』を越える<日本におけるアイリッシュ・ダンス・ショウの定番>の座を虎視眈々と狙っているのはまず間違いないだろう。一世を風靡した『リヴァーダンス』の後継を担おう、というかそれを大きく乗り越えようとする気概に満ちた、そんなステージだと感じた。
 さて、この先<アイルランドを代表するエンターテインメント>と呼ばれるほどにまで成長できるかどうか。なんにせよ楽しみであります。
 

2013 07 15 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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