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ニューヨーク・シティ・バレエ日本公演2013

 
Nycb2013
●ニューヨーク・シティ・バレエ2013
 東京公演 2013年10月21日〜23日 Bunkamuraオーチャードホール
 大阪公演 2013年10月26日・27日 フェスティバルホール
 
 この春リニューアルオープンしたフェスティバルホールには、なかなか行く機会がなかったんだけど、NYCBの公演があるというのでいそいそと出かけていった。今回の日本公演にはプログラムがふたつ用意されていて、わたしが観たのは全作ジョージ・バランシン振付の「プログラムB」。Aプロの方はジェローム・ロビンスの「ウエスト・サイド・ストーリー組曲」が目玉で、そちらにも心惹かれたんだけど、さすがに両日行くわけにもいかなかったので、あえてBを選んだというわけ。ずっと観たかった「シンフォニー・イン・C」がBプロに入っていたことも大きい。
 前売り券はAプロの方が早く売り切れていたようで(やっぱり「ウエスト・サイド」効果なんだろうなあ)、日曜日のBプロ公演は直前まで「まだ残席ありまっせいかがっすかメール」が来ていたのだ(当日会場をざっと見渡した限りではほぼ満席だったみたいだけど)。しかし、27日のステージを観たあと、無理をしてでもAプロの方も観ておくんだった、と激しく後悔した。それくらい、想像していた以上にすばらしいステージだったのだ。
 プログラムBの演目はみっつ。それぞれ30分ちょいくらいの比較的コンパクトな演目で、飽きさせないし、こちらも肩の力を抜いてゆったり観られる。バランシンの振付はクラシック・バレエのイディオムを使うオーソドックスなスタイルなので安心感があるし、それでいてロマンティック・バレエのように「物語」に過度に依存しない、むしろ物語性を排除したダンスだから純粋にバレエの美しさを堪能できる。さらに言えば、幾何学的なフォーメーションを特徴としているので見た目の面白さも十二分にある。たいへんわかりやすく、親しみやすいバレエと言えるだろう。パンフレットによれば2000年以降4度目の来日公演とのことだが、観終わった今、早くも次の来日を心待ちにしている。他の作品もぜひ観てみたい。
 
●白鳥の湖
 チャイコフスキー作曲の名作もバランシンの手にかかればこうなるのか。おお、そう来るか、という楽しさに満ちた一編だった。通常3幕から4幕ほどかかる長編を、宮廷でのあれやこれやをばっさりカットし、全1幕のコンパクトな物語に再編した舞台で、初演は1951年だが日本での公演は今回が初とのこと。
 湖畔での、王子とオデット姫との出会いから別れまでだけを描いていて、しかしこれだけで「白鳥」の本質はじゅうぶん表現されている。特筆すべきは白鳥はオデットのみで、他の群舞は全員黒鳥のコスチュームだったこと(バランシン存命中はみな白い衣装だったが、黒鳥で演じるという構想は彼が亡くなる前にすでにあたためられていたそうだ)。若いふたりの淡い恋を遮るのがロットバルトただひとりではなく、回りの鳥たちも加わっているという解釈が面白い。そのオデットすら、弓を構える王子から身を挺してロットバルトを守っており、彼女にとってこの悪魔は逃れることのできない自身の運命と覚っているかのようだった。原作から大胆にストーリーを削ぎ落としたことにより、かえって悲劇の本質がすっと浮き出てくるような、そんな演出だった。
 
●フォー・テンパメンツ
 ヒンデミット作曲。初演は1946年。白と黒のレオタード姿で踊られ、本日の公演のなかではもっともモダンぽい舞台だった。男女ペアで踊る短い演技が三つ続き、徐々に登場人物が増えて気がつけば30人くらいのダンサーが舞台を埋め尽くしている。この日観た三つの演目に共通しているが、とにかく大人数を動かすときの采配がたいへん面白い。バランシンの振付はシンメトリーを基本とする幾何学的な構図をとることが多いので、どれだけ多数のダンサーがいてもすっきりとわかりやすく整理されていて、しかも大人数ならではの迫力もたっぷりなので、観ていて疲れないのがいい。
 
●シンフォニー・イン・C
 ビゼー作曲。1947年初演。ずいぶん昔、まだNHKのBS放送が本格的に始まった直後くらいだったろうか、バランシンの生涯を紹介するドキュメンタリー番組があって、そのときにこの演目の一部も紹介されていた。わたしはこれでバランシンに興味を持ったんだけど、今回ようやくナマのステージを観ることができた。長い間楽しみにしていた甲斐があった。いやあ面白い面白い。
 全4楽章、ビゼーの音楽もたいへん素晴らしいのだが、音楽をストレートに視覚化するとこういうダンスになるんだろうな、ということをみんなやってくれるからたまらない。もちろん、古典バレエのイディオムに則って、という縛りはあるのだけれど(だから突飛で過激なポーズは一切出てこない。様々な実験的ダンスを経た現在からすれば、いまさらバランシンなんて保守的で物足りないという向きもあるだろうとは思うけど)、後半に向けてどんどん盛り上がるスペクタクルは、エンターテインメントとして実によくできていて、興奮しっぱなしだった。第三楽章ではカドリーユ風カップル・ダンスの優雅なアレンジも出てきて、そんなあたりも興味深かった。
 
 スター・ダンサーであるプリンシパルのみが突出していて群舞は残念、というバレエ公演はよくあるが、このカンパニーの特筆すべきところは登場する全員の粒が非常にそろっているところだろう。また、世界的に有名なカンパニーでも、どっすんばったんとせっかくの優雅な舞を台なしにするような着地音を響かせることが多いが、NYCBはそこも実に優れている。ダンス以外の雑多なことに邪魔をされることがなく、だから純粋にバレエに集中できる。観ていてじつに気持ちが良い。アメリカンらしいシャープで快活な動きはいかにもアスリートぽいけれども、バレリーナらしい優雅さを損なわない程度にとどまっているので、スポーツ競技を眺めているような違和感は感じない(それにしても足さばきの鮮やかなこと。なんであんなに素早く動かせるんだ)。比較的若い団員が多いのだろう、初々しさだって随所に感じられる。
 フレッシュでよく動き、ほどよく上品で、コンパクトにまとまりつつもメリハリの効いた振付と構成。こんなステージを観せられて気分が悪くなるはずはない。いいものを見せてもらった、という満足感でいっぱいだった。で、冒頭の、「ああ、もうひとつのプログラムも観ておくんだった」という後悔につながるというわけだ。次回は絶対に見逃さないようにしなくては。
 そうそう、忘れてた、新装フェスティバルホールもよかった。場内の見やすさや音の良さはそのままに、ロビーなど外回りの空間が心地くデザインされていた。ひとつだけ難を言えば以前よりも少しばかり迷いやすい構造になってしまったことかな。まあ、何度か行けばすぐに慣れるだろうけど。ビル内の飲食店が充実したので、公演前後の楽しみが増えたことも大きい。
 

2013 10 28 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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