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[Exhibition]:竹内栖鳳展

 
Seihou
●竹内栖鳳展 近代日本画の巨人
 東京展 2013年09月03日〜10月14日 東京国立近代美術館
 京都展 2013年10月22日〜12月01日 京都市美術館
 
 【図録】
 発行/日本経済新聞社・NHK・NHKプロモーション
 デザイン/梯耕治
 
 上のカタログの表紙にもなっている「班猫(1924年・重要文化財)」は、京都展では後期(11月12日〜)の展示となっている。会場前のポスターにその旨注意書きがあり、チケットを買うときに口頭でも「この作品は12日からですけど、いいですか」とわざわざ確認してきた。にもかかわらず、全部観終わった出口付近で「あら、そういえば猫の絵ってどこにあったかしら」「そうねえ、見落としたのかしら」などと会話している御婦人方がいた。この猫、どんだけ注目の的やねん。
 
 竹内栖鳳というと、個人的には京都市美術館が所蔵している「絵になる最初(1913年)」の印象が強い。美術館の収蔵コレクション展で何度も目にしているのと、たしかオリジナルグッズ(一筆箋やクリアファイルとか)も作ってなかったっけ。京市美の収蔵品のなかでもイチ押しで、実際かなりの人気作なんだろう。
 ということもあって、わたしは栖鳳を「美人画の作家」だとばかり思っていた時期があった。実際は彼の人物画はきわめて少ないのだけれど、その勘違いの責任の一端は、京都市美術館にある…ということにしておこう(汗)。
 
 これほどの有名どころにかかわらず、画業を回顧する展覧会を観るのは今回がはじめてだ。個々の作品を断片的に観ていてはわからなかったこと、まったく知らなかったことなどについていくつもの発見があるので、こういう企画はたいへんありがたい。
 
Seihou_shitae とくに、これは京都展だけの特別企画なんだろうか、栖鳳の下絵や膨大なスケッチ群だけを集めた『下絵を読み解く』展が別室で開催されており、こんな機会でもなければおよそ拝むことのできない素描や写生などをまとめて見られたのはよかった。本展の方にもそれなりに多くの素描が展示されているにもかかわらず、だ。
 完成作品よりも試行錯誤のあとがうかがえる下絵やスケッチ中の眼の動きが辿れるような素描の方が見ていて飽きないことが多く、また図録などには掲載されなかったりされても小さいモノクロ図版が多かったりするので、これは貴重なひとときだった(本展よりも観客が少なめだったので、落ち着いて観られたことも大きい)。
 
 少年時代の写生帖が、会場に入って最初に置かれている。それはもう実に達者なもので、ああ、才能のあるひとというのはそもそもの出発点から違うんだなあということがよくわかる。彼は13歳のときに四条派の画家に絵を学ぶが、すぐにあきたらなくなり、17歳で同じく四条派の幸野楳嶺に入門。ここでさまざまな技法を教わり、めきめきと頭角をあらわしていく。余談だけど、場内に展示されていた年譜に生家の住所が記されていて「御池通油小路西入ル…あ〜あの辺かあ」とみなくちぐちに言い合っていたのがなんだか面白かった。栖鳳が生まれたのは明治維新まえの1864年。今では街の様相はすっかり変わっているはずなんだけど、地名や通りの名前がそのままだから、なんとなく地続きの感覚があるんですね。なのでみなさん、歴史上の偉人というよりも、もう少し親近感をもった視線で鑑賞していたような気がする。
 
 …とはいうものの、途中あたりまでは、実はちょっと辟易していた。上手すぎる、というか自分の絵が上手であることを本人もよく知り抜いていて、それを堂々と見せつけられるものだから、うへえという感じ。どや顔、ってんでしょうか。いや、別に画家本人が威張りながら描いていたわけではないだろうし、むしろいろいろと悩み苦しみながらひとつひとつの作品に挑戦していったこととは思うんだけど、できあがった作品がどれも隙がないというかあまりに見事で。とくに、ライオンを描いた屏風が集められたコーナーなんかは、圧倒させられまくりだった。金屏風に墨一色の獅子。あるいは象。構図は完璧、筆あとは気迫があり、濃淡の付け方もどうしようかと思うくらい素晴らしい。あまりのパーフェクトぶりにイヤになってくるほどだった。
 
 
 竹内栖鳳は1942年に78歳で亡くなるのだけど、晩年の十数年は病に伏せりがちであったらしい。若い頃から年代順に作品を追っていくと、ちょうどそのあたりから絵がすっと軽くなっていくのがわかる。老大家になって渋みを増していくのかと思ったら、この人の場合、むしろうんとフレッシュになったような、そんな気がした。いやもちろん年相応の渋い絵も遺されているのだけど、最後の部屋で特にわたしが魅入られたのは「若き家鴨(1937年)」と「雄風(1940年)」のふたつの屏風が並べられた一角だった。「家鴨」は、餌をついばむ何十羽もの鴨が簡潔かつ的確な描線で描かれており、絵の描かれていない余白部分には一面に金箔片がちりばめられている。淡水画のようなあっさりとした色彩と、きらきら輝く金箔片が効果的に呼応していて、まぶしい日差しをそのまま屏風に写し込んだかのような、非常に明るい作品だ。「雄風」の方は二匹の虎を描いているが、かつての獅子や象のような重々しい筆ではなく、とても軽やかな筆致で描かれている。背景には「家鴨」と同じく金箔を使いたかったそうだが時局柄かなわず——と図録の解説にあるけれど、かわりに画家が選んだ色がとてもいい。ごく淡い浅葱色、とでもいうのかな、日本の色名にはとんと疎いので自分でももどかしいんだけれど、ともかくその配色のセンスがとてもオシャレで若々しいと思った(ついでながら、やはり図録のような印刷物だとその色は再現しきれていない。こればかりは実物を観るに限る)。
 
 * * *
 
 『下絵展』とあわせて、当初の予定よりもずっと長く美術館の中にいたので少々くたびれたけど、久しぶりに絵をたっぷり観たという充実感の方が大きかった。さすがに<過去最大規模の回顧展>と謳うだけのことはありますな。
 

2013 11 02 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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