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パリ時代のフジタ
●藤田嗣治渡仏100周年記念 レオナール・フジタとパリ 1913-1931
静岡展 2013年04月20日〜06月23日 静岡市美術館
熊本展 2013年07月02日〜08月25日 熊本県立美術館
北九州展 2013年08月31日〜10月20日 北九州市立美術館
京都展 2013年10月25日〜12月01日 美術館[えき]KYOTO
秋田展 2013年12月07日〜2014年02月02日 秋田県立美術館
岡山展 2014年02月21日〜04月06日 岡山県立美術館
【図録】
発行:「レオナール・フジタとパリ 1913-1931」カタログ委員会
デザイン:梯耕治
カタログから巡回記録を引き写していて気がついたんだけど、この手の展覧会にしては首都圏での開催がないのがちょっと珍しいと思った。まあ、東京のみで地方には回ってこない企画の方が多いだろうし、別にいいんだけど。欲をいえば京都展のあの会場は、このブログでもたびたび触れてるように、そんなに広くないのが不満であります。カタログには載ってるのに京都展には回ってきていない作品も多かったようで、もしも会場のスペースが理由なんだったらヤだなあ。
* * *
本展は、藤田嗣治の最初の渡仏(1913年)から南米へ渡るまで(1931年)のおよそ20年間に絞ってその活動の軌跡をたどるというもの。これまでの大規模なフジタ展では、画風を確立し売れっ子になって以降の作品が中心だったのに対し、ここでは渡仏直後やはじめての個展への出品作など<フジタ前期>の作品が多く観られたのがありがたかった。特に2006年に東京・京都・広島の3会場で開催された大規模な藤田嗣治展(生誕120年記念展)の出品作とはほとんど重複しておらず、初見のものがたくさんあって楽しめた。
会場では5、6章にセクション分けしているが、構成は渡仏前からフランスにわたって独自の画風を掴むまでと、一躍パリの寵児となって以降、というふたつに大別できるだろう。さらにオマケとして、フジタと親交のあった同時代の美術家たちの作品がいくつか展示されている。
前半、大ブレイク前の作品群はどこか一時期の竹久夢二を連想させるような…というか、その時代の流行スタイルをなぞったような、つまりは洒落てはいるけれども既視感のある作品群だ。この手のレトロなスタイルは、今でも雑誌や広告のイラストレーションとしてじゅうぶん使えそうな気がする。
続いてあの輝く乳白色、フジタと言われて誰もがすぐにイメージできる作品が登場する。彼が時代の申し子として注目を浴びたのはこの時以降で、なんというか、ひとつひとつの作品から発せられるオーラが違う。こちらもただただ感心して眺めるほかない。
先に展示会場の不満を述べたけど、「美術館[えき]KYOTO」にひとつ良い点があるとすれば、対象作品との距離がうんと近いことが挙げられるだろうか。他の会場のような、だだっ広い公立美術館ではおそらく許されないかもしれない距離まで近づいて、じっくり絵をなめ回すように観察することだって可能だ。なので、面相筆を使って描かれたというその描線の繊細さを、今回は存分に堪能できたのが嬉しい。フジタの絵って使用している画材こそ油絵の具なのかもしれないけれど、技法というかスタイルは日本画のそれだよなあ、ということを実感した。それでいて彼の肌の描き方は日本画よりも肉感的で生々しく、裸婦像の官能性にはまったくぞくぞくする。
裸体画ではないけれど、「ロジータ・ド・ガネイ伯爵夫人の肖像(1923年)」の繊細さにはしびれた。凛とした気品があってたいへん美しい。今回もっとも長く滞在した絵のひとつかもしれない。
「…風に」と題された一連の連作もとても面白かった。これは当時の妻ユキのために描いたごくプライヴェートな作品で、当時の著名画家たちの作風を真似て描いたスケッチ。取り上げられた作家はレジェ、ゴーギャン、ユトリロ、ブラック、ピサロ、マティス、ローランサン、デュフィ、コクトーなど盛りだくさんで、レンブラント風とかルノワール風というのもあった。さすがに特徴を捉えるのが上手いけれども、そこに皮肉や諷刺の意図はなく、純粋にいろんな画家のスタイルを描き分けることを楽しんでいるようなので、観ているこちらもついにやにやしてしまうシリーズだった。「キース・ヴァン・ドンゲン風に」がもっとも多く、3枚もあったけど、よほど真似しやすかったのかなあ。いやはや楽しい楽しい。
* * *
売店には図録や各種グッズに混じって、大部の画集があった。
●LÉONARD FOUJITA { INÉDITS PAR SYLVIE BUISSON
À l'encle rouge-Archives Artistiques, 2007
ISBN 978-2-917330-00-5
今回の図録の巻頭論文を執筆している、パリ在住の美術史家シルヴィー・ビュイッソンによるフジタの研究書。タイトルは「未発表」という意味だがどういうことなんだろう。仏アマゾンを検索してみると同著者によるフジタ関連本は他にいくつもあるようだ(フジタ作品の総合カタログも著している由)。
本書はもちろん全編フランス語で書かれているんだけど、日動美術財団が編集に協力していて、日本語訳がところどころについているのがありがたい(抄訳だろうけど、他に英語もあり)。
第一級の専門家による詳細な評伝が読めるのはさておいても、なにより図版の美しさに惹かれてつい購入してしまった。全ページ光沢のあるアート紙で、それがフジタの作風にとてもよく似合ってるように感じたのだ。アート紙は指紋が付着しやすいので敬遠されるのか、最近の図録はほとんど全てと言っていいほどマットコート紙が使われていて、発色はまあまあなんだけど色が沈むのでどうしても少しくすみがちになるのが玉に瑕なのだ(図録だけでなく大判の画集なんかでもマット系が主流じゃなかろうか)。そんな中、艶のある高級アート紙で作られたこの本には眼を奪われてしまった。…と、内容ではなく本の体裁のことばかり語ってしまったが、もちろん中身も楽しみ。1920年代のシャンソンを聴きながら、休日にゆっくり楽しみたい一冊であります。
2013 11 03 [design conscious] | permalink Tweet
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