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ラグース2013



 
 2006年の初来日公演以来5度目となるラグース ragús 日本公演。今年は11月29日の東京・オーチャードホールを皮切りに、12月15日の姫路文化センターまで12会場14公演が行われた(うち1回はクリスマス用の特別プログラム)。わたしは12月14日の兵庫県立芸術文化センター公演を観てきたのでその感想をつらつらと。
 ちなみに当ブログでのラグース関連の過去記事は↓こちら。
ragúsのこと (2006年3月)
進化か変容か〜ragúsのこと・ふたたび〜 (2007年7月)
ラグース2009 (2009年11月)
ラグース2011 (2011年11月)
(※初来日公演の感想は当ブログではなく、メールマガジン『クラン・コラ』2006年7月号に寄稿しております)
 
 過去に何度も触れているけれど、ラグースはやっぱり「観るたび新しい」。
 そもそも『ラグース』という同じタイトルを冠していながら、内容が毎回ごろごろ変化していくステージ・ショウというのはけっこう変わりダネだろう。頻繁にアップデートを繰り返すパソコンソフトのようなもの、とでも言えばいいだろうか。結果、スタートアップ当初と現在とではかなり違ってきているのだ。
 ラグースは1998年初演。わたしは2001年にダブリンでのステージを収録したDVDを持っているけど、もはや別物と言ってもいいくらい、演目もアレンジも異なっている。人なつこいフレンドリーさの面影は残したまま、よりシャープでインパクトのあるショウに変貌を遂げている。今年の公演内容はあえて言えば2011年版に近いのだけど、ソリストのメンバーが替わっているから演じられる中身が微妙に違い、その差が全体の雰囲気の違いを生んでいる。
 これは「同じストーリーを違う主役で楽しむ」類のショウではなく、個々のパフォーマーの個性や特徴をできるだけ生かそうとするコンセプトがあるためで、たとえば2009年と11年に参加していたフィドル/バウロンのファーガル・スカヒルの代わりに、今回はデイヴィッド・ドーシーがフィドルを担当しているのだが、彼はバウロンは叩かないけど客席を練り歩いて日本のうた(〈上を向いて歩こう〉や〈となりのトトロ〉など)を即興で奏でるなど、なかなかのエンターテイナーぶりで会場を沸かせていた。ダンスのソリストも同じで、今回は09年/11年のパトリック・ギャラガーではなくショーン・ケリーが超絶技巧の素早いタップを連発、迫力充分のダンスを披露していた。
Ragus2013
 さらに言えば公演場所によってステージの造りすらまったく違うモノにしてしまうフレキシブルさも<ラグース>ならではかもしれない。たとえばロビーで売っていたDVD-R(上の写真右)は2013年10月のオランダ公演を収録した最新版のものだったが、そこではステージが2階建てになっていて、舞台左右の階段を使うなど立体的な演出が施されている。振付は同じでもずいぶん違う印象をもたらすものだ。このように、演目から演出までさまざまに異なるヴァリエーションを生み出しながら、それでも同じ<ラグース>であり続けるのはひとえに“大将”ファーガル・オー・マルクルそのひとの存在感によるところが大きい。
 
 * * *
 
 とはいえ、実は今回の最大の見どころは、ゲスト・ダンサーのエマ・オサリバン Emma O'Sullivan だろう。彼女は2009年のエラハタスでシャン・ノース部門の最優秀賞を獲得しており、いまもっとも人気のあるダンサーのひとり。YouTubeには彼女のパフォーマンスがいくつもアップされているけれど、ここではそのうちのひとつ、アイルランドの放送局RTEが制作した番組<All Ireland Talent Show>決勝回を引用しておく(ダンスは2分過ぎ頃から始まります)。

 本公演でのエマは、シャン・ノース・ダンスでおなじみデッキ・ブラシを使ったソロを第一部で披露、第二部では上記動画にも出てくる樽の上のステップやフライパンに乗ったダンス(!)など、トリッキーなパフォーマンスをたっぷり披露してくれた。先週のシャロン・シャノンのライブで観たステファニー・カドマンといい、ソロ・ダンスの至芸が日本に居ながらにして存分に味わえるのは、なにより嬉しい限りだ。
 
 『ラグース』は、この夏に観た『ウーマン・オブ・アイルランド(わたしの感想はこちら)』と重なる部分も多く(たとえば人気楽曲〈ダニーボーイ〉や〈ユー・レイズ・ミー・アップ〉はどちらも使っていた)、出演者個人の技倆に応じた見せ場の作り方など演出面でも共通する要素は多い。どちらかというと『ウーマン・オブ〜』の方が、選曲/ダンスともによりコンテンポラリーというかポップ路線で、『ラグース』はよりトラディショナル指向ではある。
 とはいえ5人のミュージシャンのうちギターのパトリック・ドーシーとキーボードのキアラン・マーデリング(キアランは09年公演以来3度目の参加)の演奏は時にブルージィ、時にジャジィなリズムを刻んでいて、かなりユニークな色彩を放っていた。特にキーボードのキアランは、肘うちもぶっ放すワイルドなプレイスタイルだったけど、昔からこんなに派手だったっけ…?
 
 ホールのような大きな会場での観劇は、今年はこのラグースでうちどめ(…たぶん)。一年のしめくくりにいいものを見せてもらいました。さて、来年はどんなステージに出会えるかな。
 

2013 12 15 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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