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[exhibition]:獅子と狛犬
神社の入り口に鎮座ましましている狛犬のルーツを探るという、けっこう興味深い展覧会に行ってきました。
●秋季特別展 獅子と狛犬—神獣が来たはるかな道—
2014年09月02日〜12月14日 MIHO MUSEUM
左右で一対の「狛犬」ですが、一角獣のようなツノを持つのが「狛犬」(上の写真でいうと左側)、もう一方が「獅子」なんだそうで、そこまでは知りませんでした。神社にお参りしてもほとんど見過ごしているか、眺めていてもそんな違いにはあまり気にとめていなかったからなあ。せいぜい阿吽、つまり口を開けているか閉じているか程度の違いかと思っていたんですが、そもそもこの2体って別の「種族」だったのか。へええ。
龍や鳳凰と同じように、「獅子」も「狛犬」も想像上の生物です。いや、獅子とは一般的にはライオンのことではあるんですけど、とはいいながら、獅子とライオンはちょっと違うってことがよくわかりました。
本展は、「獅子」のルーツを求めてはるか紀元前6世紀頃の、世界最古と言われる古代リュディアの銀貨の展示から始まります。ここにはライオンの頭部が刻まれているんですね。
ペルシャ朝の器や古代ローマ時代の彫刻に残されているライオンは、牛に噛みつき全てを凌駕する、まさに「百獣の王」の名にふさわしい堂々たる存在として表現されています。しかし、やがてその「王」を倒す人間こそが最強である、という風に変わっていきます。いつしかライオンは人間を守護する存在へと成り果て(たとえばエジプトのスフィンクス)、中国から高麗を経て日本に伝来するころには「獅子」として神社の境内を護るような存在に。ユーラシア大陸を横断する、そんな流れを一気に見せる展覧会でした。
Wikipediaによれば、ライオンは1万5千年前にはヨーロッパにも生息、5千年前には少なくともギリシャにもいたとのこと。メソポタミアやペルシャなど、古代の文明人にとってはなじみの深い動物だったことでしょう。会場で展示されていた前1〜後1世紀頃の作とみられる青銅製のライオン像は、わたしたちが思い浮かべるライオンそのものずばりの、非常にリアリティのある、生き生きとした彫像です。しかしその図像が東アジアに伝播するにつれ、次第にその姿は“想像上の生物”へと姿を変えていきます。その過程が実にスリリングで面白い。
ペルシャやインドに遺された“それ”の姿は、いかにも猫科の生物らしいしなやかな肢体を備えています。しかし唐に辿り着いてから後は、その姿はなんだかワケのわからないものに変貌していきます。なるほどライオンそのものを見たことのない人々が伝承していったんだなあ、ということがよくわかります。実在の「ライオン」は、このあたりで想像上の神獣である「獅子」になるんですね。東アジアにライオンがいれば、もう少し違うことになっていたんでしょうけど…もっとも、すでに古代ギリシャで鷲の頭と翼をもち、胴体がライオンという神獣「グリフィン」が生まれているので、この空想化は必ずしも東アジアの独創というわけではないですが…。
ともあれ、龍といい、鳳凰といい、そしてこの獅子といい、<実在の動物をベースにした想像上の生物>の造形の、古代人の想像力の豊かさには本当に驚かされます。
面白いことに、展示されている作例を見る限りでは、唐に渡ってからの「獅子」像は、次第に猫科からどうみても犬か狼、あるいは牛のようなどっしりとした体躯になっていくんですね。つまりは当時の人々にとって「獅子」はまさか猫の仲間だとは、思いもよらなかったんでしょう。
身近にライオンを知らないのだからまあ当たり前。自分たちが知るもっとも獰猛な野獣をお手本にするとなると、そうなるんでしょう。というわけで、たとえば「獅子舞」など芸能方面に見られる「獅子」の頭は、あくまで<想像上の神獣>という扱いで、顔のまわりを装飾する毛を抜いてしまえば、ほとんど龍のようなかたちに造られています。
* * *
仏像や神像はともかく、こういった狛犬や獅子については美術史でもまだまだ未踏の分野なんだそうで、各地に残された狛犬もその制作年代や来歴はわからない事の方が多いとのこと。おのおのの造形についても仏像に比べるとあまりにフリースタイル、というか時代ごとの際だった共通性がよくわかっていないのが実情なんだとか。神社のお堂の中でなく、境内に安置されると長い年月のうちに風化していき、今となっては元の姿がよくわからない像も多いらしい。
エアポケットのように長いあいだ見過ごされていたジャンルだからこそ、かえってロマン溢れる存在ということもできるでしょう。本展に並べられた各種の獅子像は、同じものがふたつとない、それぞれにユニークな造形で見飽きません。
取り上げる地域も年代も非常に幅広く、人類の文明史の一端を垣間見るかのような壮大な展覧会ではあったんですけど、それだけに、悪く言えば大雑把とも言えるかもしれません。たとえば沖縄のシーサーに関しては展示はもちろん、解説文中にさえ一切触れられていません。そのあたりが不満といえば不満なので、いつの日か第二弾が企画されることを期待したいものです。
2014 09 07 [design conscious] | permalink
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