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国宝 鳥獣戯画と高山寺展

 
Choujugiga
●特別展覧会 修理完成記念 国宝 鳥獣戯画と高山寺
 2014年10月07日〜11月24日 京都国立博物館 明治古都館
 
 先月リニューアルオープンしたばかりの京博新館(平成知新館)の開館記念展では、館が収蔵する重文・国宝級の名品がこれでもかとばかりに並んで圧巻でした。本展は高山寺というたったひとつのお寺を紹介するものなんですが、こちらも重要文化財や国宝がずらり。いやあ凄い凄い。寺じたいが世界文化遺産に登録されているのもうなずけます。
 
 上の画像は館内ロビーに飾ってあるスタンディで、自由に記念撮影ができるというものですが、「鳥獣戯画(鳥獣人物戯画)」と言われて真っ先に思い浮かぶのはやはりこのシーンですね。別柄のスタンディが京博の庭のあちこちに飾られていて、記念撮影する家族連れで賑わってました。
 なんでもこの絵巻物は、昨年までの4年間にわたって修理をしていたとかで、本展はその完成お披露目会でもあります。単体ずつなら以前にも見たことがありますが、全4巻が一堂に会するというのは極めて珍しい(たとえば、甲巻と乙巻だけなら2006年京博での『大絵巻展』にも出展されています。その時の感想は→こちら)。わたしが訪れた日は天気のいい休日だったこともあって大盛況で、全部観終わるのに4時間以上もかかってしまいました。上記の大絵巻展の時よりさらに酷かったかも。場内は長時間並ばされたせいで係員にぐちぐちといつまでも文句を言ってるオッサンがいたり、並んでいるうちに倒れてしまって救急車で運ばれるご老人がいたりと、なかなかに殺伐とした雰囲気ではありました。結局お昼ごはんも食べ損ねたし。落ち着いて鑑賞したいなら、平日の開館直後か閉館間際あたりが狙い目なんでしょうかねえ。
 
 絵巻の修理は明治14年(1881)以来だそう。具体的に何をするのかというと、裏打ち紙を剥がして新しく打ち直したり、表面の毛羽立ちを抑えたりといったたいへん繊細な作業で、なるほどお披露目されたそれはシワひとつないきれいなもの。さしずめ古い映画のノイズを取り去ったデジタル・リマスター版っていったところでしょうか。たしかにキレイになってはいるんですが、ノイズ(シワ)がすっかり取り除かれてしまうと、それはそれで若干の違和感も感じました。まあ絵巻物なんだし、巻いたり開いたりを繰り返してるうちにいずれまたシワができてくるんでしょうけど。
 
 鳥獣人物戯画絵巻は甲・乙・丙・丁の全4巻。作者も製作年代も異なっているし本来どういう形だったかも不明など謎の多い作品でもあります。なかでも甲巻がもっとも有名かつすぐれていて、画集などでも甲巻以外はあまり見なかったりしますが、こういう機会なので全巻じっくり眺めました。意外にも、というのは変ですが、丁巻が思いのほか楽しかった。これまでは、他の巻に比べるとかなりタッチが粗くてなんだか下手くそな絵だなあとか思っていたんですよ。でも実物を眺めてみると、確かにラフに描かれてはいるものの筆遣いには淀みもなく、そうとう手慣れているように思いました。ヘタなんじゃなくて、上手い人がものすごく早い時間で描いたという感じ。題材こそリアルな目の前の光景をスケッチしただけなんでしょうけど、画面から立ちのぼってくるユーモラスな味わいでは甲巻にもひけをとりません。むしろ、丁巻がもっとも日常生活に近い、ごく身近な「笑い」に満ちています。この巻をゆっくり眺められただけでも観に来た甲斐があったというものです。
 
 
 その他の展示品も興味深いものがたくさんあります。たとえば、重要文化財に指定されている『将軍塚絵巻』(13世紀)。アブストラクトか自動筆記かというほど自在闊達な描線が見事と言うほかありません。これもさきほどの丁巻と同様、きわめて短時間に描かれたものに違いなさそうですが、筆遣いのひとつひとつを追ってまったく飽きないんですね。ただ、展覧会図録にはごく一部分しか掲載されていないのが非常に残念です。鳥獣戯画と違って目にする機会が少ない作品だからこそ、図録には小さくてもいいからきっちり載せておいて欲しかったなあ。
 またたとえば日本人の手に成るものとしては現存最古の漢字字典、とされている国宝『篆隷万象名義』(12世紀)。字典らしくきっちりとした字で書かれているのでわたしでも読める(もちろん、現代では使われていない漢字もたくさんありましたが)のが嬉しい一品で、これも飽かず眺めてました。漢字を部首別に分類する手法などは、すでにこの頃から使われていたんですね。
 それから、これも国宝の『華厳宗祖師絵伝 義湘絵』(13世紀)という絵巻。高僧義湘に恋心を抱いた善妙という女人が、義湘の乗った船を護るため海に飛び込み龍となるという筋書きも凄いんですが、登場人物のセリフが画中の人物横にそれぞれ付けられている(フキダシこそありませんが)あたりなんかは現代のマンガっぽくて面白い。
 
 栂尾・高山寺そのものには学生時代に一度行ったきり。ひっそりとした静かなお寺だったという印象だけが残っていますが、今だと観光客もずいぶん増えているんだろうなあ。折を見て、またいずれ訪れてみたいものです。
 

2014 10 19 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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