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湯浅政明トークライブ
2014年11月15日、イマジネーション豊かな作風で知られるアニメーター/アニメ監督湯浅政明さんのトークライブイベントが、ロフトプラスワンウエスト(大阪市)で行われるというので出かけてきました。
●湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects
飛鳥新社刊/2014年9月26日初版
ISBN978-4-86410-319-0
ブックデザイン:櫻井浩+三瓶可南子(⑥ Design)
今回のトークライブは上掲書の発売記念イベントで、本書担当編集者の赤城さんをお相手に、これまでご自身が手がけてきた作品(収録されているなかでもっとも古い『映画ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌(1992)』からクラウドファンディングで資金を集めたことでも話題になった短編作品『KICK HEART(2012)』まで)を縦横無尽に語っていくというもの。大阪でのイベントだし、さらにはスペシャルゲストに『マインド・ゲーム(原作は1995〜96、アニメは2004)』原作者のロビン西さんが登場するということもあって、この作品への言及はわりと多めでした。かわりにテレビシリーズ作品としてはいちばん新しい『ピンポン THE ANIMATION(2014)』や第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を得た『四畳半神話大系(2010)』にはまったく触れずという具合に、言及具合に濃淡があったのはしょうがないかな。その分、わたしがこれまでまったく知らなかった作品もたくさん教えてもらいましたが。
『マインド・ゲーム』といえば、わたしが気になっていたのはそのラスト。原作マンガの方は思いっきり未来志向というか世界に対して超ポジティブなハッピーエンドなんですが、映画版では脱出したあとは登場人物たちそれぞれの過去のイメージがコラージュされ、パッチワークのようになってます。そのへんの違いについては、より映画的な方法論をとったからこういう構成になった、とのこと。
「(主要登場人物のひとりであるおじいさんは原作と違って)アニメだとわりと早めに出てきちゃうんで、じいさんの(閉じ込められた)30年というのがいまいち感じられないなあと。なので頭にじいさんのバックストーリーを流したんですね。でもそうすると(観客には)なんのことなのかわかんないですよね。でも最後まで観ると、もしかしたらこういうことなのかなとちょっと見えてくる。(主人公の)西君が世の中に対して何も見えていなかったのが、最後に<世の中が好き>ってなると(隠されていた)つながりが見えてくるっていうのを、映画を観ている人も体験できるかなって思って、そういう構成にしました」
うーん、メモを元になるべくわかりやすいように発言を再構成してみたんですが少し分かりづらいかな。とりあえず、映画の最後と最初がリンクする円環構造は、主人公の<体験>を観客にも同時に体験させたい、という意図のもとにかなり明確に意識して作られていたものだった、ということは言えるかと思います。そういえばこういう「過去の関係性」を描くっていうのはテレビアニメシリーズの『ピンポン』でも随所に出ていましたね。
「それと、(鯨の)中が楽しければ、そこが嘘でも本人が幸せなら出て行かなくてもいいじゃん、という意見が若いスタッフからあって、それでもうちょっと、やっぱり(現実の)世の中が楽しいってことをもう少し描かなきゃいけないなというのがあって、人のつながりとか出逢いとかってやっぱ面白いんだなってことを西君が感じるようになれば、外に出る理由のひとつになるなあと」
このあたりは『四畳半神話大系』で主人公が閉じ込められた部屋から脱出するというクライマックスシーンとも重なりますね。ロビン西さんも「一番好きなシーン」と言っていたように、たしかに鯨の中から脱出するシーンは『マインド・ゲーム』の白眉でした。
他にも「(天才と呼ばれることに対して)僕は努力家なんですよ。努力したあとを見せないよう努力しているんです」「細部のつじつま合わせではなくその場の気分の勢いを優先していますね。だからスタッフへの指示出しがちょっと大変なんですけど」「(映画を作るときは)生涯最高の一本を!ていうんじゃなくって、<今週の俺!>みたいな感じで作ってます」…などなど、名言がいっぱい飛び出したトークライブでした。
なかでももっとも印象に残ったのは次の発言。この人の、映像作家としての特質がもっともよく示されてることばだと思いました。
「(僕の映画の見方は)展開があれば観ていられるんだけど、逆にストーリーがなければ観れない人がいるってのがあって。意外にストーリーを観ている人が多いんだなって。ストーリーよりも構造っていうか最初の設定みたいなものを観てるのかな。予告編観ると設定がわかるじゃないですか。あ、こんな話なんだって。で、映画館行ったらそれはもう観たことなんでつまんないわけですよ。だから僕はそれ以外のところを観てるんです」(※発言そのままではなく、メモをもとに再構成してます)
湯浅さんの作品のいくつかはYouTubeでも観られます。開演前に流れていたPVもYouTubeをリピートしてました↓
本の方は会場でサイン入りで販売されていて、さすがに飛ぶように売れてました。事前に買っていた人も持って来てくれたら抽選でサインを入れます、ということだったので重い本をえんやこら担いで行ったんですが、みごと抽選に外れてがっくり。いずれまたチャンスが来ればいいなあ。
2014 11 16 [design conscious] | permalink Tweet
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