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放心状態のゴールデンウィーク
「はぁ〜。終わったなあ」
「ついに終わっちゃったねえ、2015年怒濤の観劇月間」
「7年ぶりのリヴァーダンス来日公演にマリア・パヘス舞踊団の待望の新作公演が重なっちゃって。よりによって同時期かよ! って」
「4月は近年になくハイテンションだったよね。チケット代に交通費と宿泊代、ぜんぶで何回観て総額いくら遣ったの?」
「え、いやまあそれはそのう…そうそう、東京遠征した2週が2週とも、統一地方選挙の投票日と重なって」
「前後に分けずに一度にしろよ! とぶつくさ言いながら期日前投票に行ってたよね」
「わざわざ分けた意味がいまだにわかんないんだけど、アレ」
「まあまあ。それはおいといて…で、振り返ってどうだった?」
「短期間にいくつものホールを回るのって滅多にないことなんで、面白かったな」
「やっぱホールの個性とかあった?」
「や、もちろん公演内容とかさ、あと客席のどこに座るかによっても印象なんて変わると思うし、あくまで今回の自分の経験上、って話ではあるんだけど」
「うん」
「マリア・パヘスでBunkamuraオーチャードホールと兵庫県立芸術文化センター。リヴァーダンスで東急シアターオーブとフェスティバルホールに行ったんだよな」
「はい」
「ダントツで音が良かったのはなんと言ってもフェスティバルだな」
「へえ」
「第一幕ラストのタイトルナンバー〈Riverdance〉で、ティン・ホイッスルの繊細な音色がはっきり聞こえた時には感動したなあ。あと、ぜんたいに重低音がずっしり響いて。なんて言うんだろ、音が耳に入ってくるレベルじゃなく、音楽がまるごと身体に染みこんでゆくというか」
「そういや以前の公演に比べてタップ音が控えめじゃなかった?」
「それは感じたな。もうちょっと靴音が高らかに鳴り響いてもいいんじゃないか、と思った箇所もなくはなかったけど、バランス的にはあんなものだろうな」
「ダンスのキメどころでいちいちシンバルがビシャーン! と響くのにはちょっと笑ったけど」
「あの演出はたしか2008年公演でもすでにやっていたんじゃないかな」
「あ、そうだったっけ」
「で、フェスティバルホールでは、オーブよか前の方に座ったにもかかわらず、ちゃんと足もとまでバッチリ見えたし」
「オーブはその点、ちょっとストレスだったよね」
「シアターオーブはホワイエの構造も複雑で、緊急避難時にどうすんだろとも思ったなあ」
「渋谷駅直結だからとっても便利ではあるんだけどねえ」
「あと、ステージ面積も。奥行きはともかく、左右幅はやっぱり狭いよあそこ」
「オーチャードはそのあたり、バランスが取れてる?」
「うーん…ごく個人的な感想なんだけど、どうもあそこは昔から好きになれないんだよなあ。どうしてだかよくわかんないんだけど」
「でも舞台の見やすさはかなり良いでしょ」
「てか音がなあ。なんかいつも薄皮一枚かぶっているような感じがするの。兵庫芸文だともっとクリアというか音の粒が立ってると思う」
「まあ、この中ではもっとも古い建物なんだし」
「あ、それはあるかもな。ちょっとオールドスタイルというか。ホワイエの構造とかはシンプルでわかりやすいんだけどな」
「でも評価軸は“音”なんだね」
「うん。“音”は大事。ダンス作品だからこそっていうか、マリア・パヘスにしろリヴァーダンスにしろ“音”には細心の注意を払ってる作品だしな」
「同じ公演に何度も行ってると、微妙な差異とかも気になる?」
「マリア・パヘス公演ではそのへんはあまり感じなかったな。さすがはマリア・パヘス。いつでもどこでも一定のクオリティを維持してるよな」
「リヴァーダンスの方が細部に違いがあったと」
「まあ、出演者の数もぜんぜん違うからな」
「わかりやすいところでは〈Trading Taps〉だね。Dhamesh Patelさんのタップは毎回遊んでいてすごく楽しかったね」
「歴代のタッパーのなかでも印象に残る方だよな」
「歴代の、といえばフラメンコの…」
「Marita Martinez-Reyさん! いやあホント素晴らしかった。しなやかで良く動く手足、指先。それにあの鮮やかなスカートさばきも絶品だったなあ」
「別の機会で来日公演があったらぜひまた観たいダンサーだね」
「うん。名前を覚えておこう」
「ソリストというか全出演者中、もっとも異色だったのはCiara Sextonさん」
「まずショートヘアのプリンシパルってのが初めてだったし、そのダンス・スタイルも一目で他と違いがわかったな。とにかく目を惹く」
「でも大阪公演最終日には昼・夜とも姿が見えなかったのが残念だったね」
「あとで知ったんだけど、ソリストをつとめた1日公演の途中で、何かしらアクシデントがあったそうで。大事になってなきゃいいんだけどなあ」
「それだけに、東京で観られたのはラッキーだったよね」
「まさに“舞台は生き物”だよな。目に見えないハプニングだっていっぱいあるんだろうしなあ」
「そういや12日の昼公演だっけ、オープニングからロー・ホイッスルのMatt Bashfordさんが姿を見せなくて」
「そうそう。1曲目〈Reel Around the Sun〉の音楽は録音済みの音源を使ったのかな、でも〈The Countess Cathleen〉が始まる前にはしれっと現れて、そのまま何事もなかったかのように最後まで」
「しれっと(笑)」
「Mattさんは直後の〈Caoineadh Chú Chulainn〉で大事なソロ演奏があるから、もし不在ならどうすんだろ、とハラハラしながら観てたな」
「もうひとつ、千穐楽の2日夜はスモークをほとんど焚かなかったよね」
「1曲目が終わってすぐ、スタッフが床をタオルで拭いていたな。水漏れかなにかだったのかな。でもおかげで〈Shivna〉がスモーク無しで観られたのは嬉しかった。あのナンバー、いつもスモーク焚きすぎだよなあと思っていたので」
「まあそういういろんなハプニングやアクシデントを乗り越えて20年もショーを続けてきたわけで。まさに百戦錬磨ですよ」
「千穐楽といえば、観客の盛り上がりがホント凄かったねえ」
「あんなに自然なスタンディング・オベーションは滅多に観られるものじゃないよな。ふだんは前の人が立ったからそれに連られてよっこらしょ、って感じで立つ人もいるけど、あのときはほぼ全員が同時に立ち上がったんじゃないかな、たぶん」
「手拍子、歓声、指笛、どれも最高潮だったよね」
「千穐楽特有の、出演者がわのテンションの高さっていうのもあるし、それはもちろん客席側にもある。相互の相乗効果だな」
「〈Russian Dervish〉で、いつもなら甲高い指笛を合図に登場するのが、男性の野太い雄叫びで始まるというのも初めてだった」
「それと、リヴァーダンスはフィナーレまできっちり作り込んでいるからカーテンコールには応じないのが通例だけど、千穐楽では2度もあったのも嬉しかったなあ」
「伝説の“15分間のカーテンコール”の再現か!? とかちょっと期待しちゃったけどね」
「でも客電が点いたときにちらっと時計をみたら、ほぼいつも通りの終了時間だったんだよな」
「あれそうなの? もっと延々と手拍子していたような気がしていたけど」
「観客席にマジックを振りかけるのが舞台作品の魅力、時間の感覚を忘れさせられるのは良いステージだった証拠だろ」
「リヴァーダンスをよく知っているリピーターも多かっただろうけど、今日はじめて観た、という人だってかなりいたはずだよね」
「開演前とか休憩中の、まわりの話し声とか聞いてるとそう思ったな。アイリッシュ・ダンスのショーだとばかり思ってたらモダン・バレエはあるしフラメンコは出てくるしでちょっと混乱していた方もいたけど」
「予習もなしか! てかその人、観に来たきっかけは何だったんでしょ」
「よりストレートなアイリッシュだったら秋に来るラグースをオススメしておきたかったな」
「そうそう、あちらも今から楽しみだよね」
「あと、すぐ近くに初見と覚しき若い女性グループがいて、大技のひとつひとつにいちいち反応していたのが楽しかったな」
「そういう好反応って、まわりにも伝播するよねえ」
「出演者にもちゃんと届いていたと思うよ。そういうのがあってこその大喝采であり、カーテンコールだったわけだしな」
「マリア・パヘスはたぶん2年後として、リヴァーダンスはまた来るの?」
「いやそれはまだ分からないけどさ。反響はスタッフ側もしっかり把握してると思うんだけどな」
「あれ、アンケート記入してないの?」
「ごめん、最近あの手のアンケートはぜんぜん出してないな。まあ次があるにせよないにせよ、いつだって一期一会、その瞬間をどれだけ楽しめるか、だと思うよ」
「そうだね、それこそが舞台作品の最大の魅力だしね」
2015 05 04 [dance around] | permalink Tweet
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