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[Exhibition]若冲と蕪村
●生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村
東京展 2015年03月18日〜05月10日 サントリー美術館
滋賀展 2015年07月04日〜08月30日 MIHO MUSEUM
近畿地方に梅雨明けが発表された日の朝、滋賀県は信楽の山中へとバイクでひとっ走り。山の中腹に建てられた美術館、MIHO MUSEUMまで行ってきました。午前10時の開館に合わせて大勢の人だかりができていて、さすがは若冲と蕪村という2大スターの競演だなあ。もっとも、この二人がともに1716年生まれの同世代人だとは今回初めて知ったんですけど(ちなみに琳派を代表する画家、尾形光琳が亡くなったのもこの年とのこと)。
伊藤若冲(1800年没)は京都に生まれ、生涯を同地で過ごしました。対する与謝蕪村(1783年没)は大阪生まれで若くして江戸へ、その後各地を転々として京に住まいを移すのは40歳頃から。ふたりの住居は距離にして徒歩数分のご近所さんだったにもかかわらず、現存する資料では両者の交流を示す手がかりが何も残っていないとのことです。池大雅や円山応挙をはじめ両者に共通する友人・知人が何人もいたことは分かっているけれども、ふたりの直接的な交際は認められないというのはなかなか興味深い話ではありますね。強烈なライヴァル意識があったのか、それとも無視黙殺するほど互いに関心がなかったのか。若冲は画のひと、蕪村は俳諧など文のひとなのでジャンルが違うし、専門分野が違えばそれはそれで気軽に交際できそうではあるんですけどねえ。あくまで勝手な想像ですが、生粋の京都人である若冲は、他所から流れてきた蕪村のことを軽く見ていたんじゃないかという気はします。なんとなく。
展覧会はそんなふたりが生きた18世紀の京都の紹介からはじまり、それぞれの生涯をゆっくり辿っていくというもの。東京展オンリーの展示品がそこそこあり、滋賀展でも会期中に入れ替えが4度もあるなど、展示品の全てが一度で全部観られるというものではないのが残念です(図録がやたら分厚いのにびっくりしたけど、なるほど今回の会場で観られた作品「以外」がそれだけ多かったということか、とあとで合点がいった)。冒頭の「18世紀の京都の紹介」っつーのもなんだか中途半端な気が…。まあ、時代背景なんかはあとで自分で勉強するとして。
伊藤若冲に関しては過去にいくつか大きめの展覧会に足を運んでいるので、さすがに見覚えのある作品がかなりあります。一方、与謝蕪村の方はほとんどが初見なので(2008年にMIHOで大きな蕪村展があったけど、残念ながらわたしは見逃してます)新鮮でした。なかでも度肝を抜かれたのは金地に墨一色で描かれた《老松図屏風》(1781)と、そのすぐ隣に並べられた銀地の《山水図屏風》(1782)というふたつの大作。金と銀というだけでも他の作品とは一線を画していてそこだけ異様な雰囲気があったし、描かれている松や山水図の、緻密でありながらすごく力に満ちた描線がずんずん迫ってくる画面に圧倒されました。画面いっぱいに金箔が貼られた屏風なんかは安土桃山時代以降よく見かけますが、一面銀色ってのは珍しいのかな。昏い情念とでも言えば良いのでしょうか、この世と思えぬ光景が目の前に広がって、また違った趣がありますね。
上のような本格的な大作も悪くはないんですが、文人画家の描く絵の魅力といえばやはり軽みのあるスケッチではないでしょうか。略画というかマンガ風というか、文章が主体のなかで挿絵として挿入されるイラストの、なんと楽しげなことか。若冲にもそういったユーモラスな作品は多いんですが、ことこの分野では蕪村の方がより滋味があるように思います。会場で掉尾をを飾っていた《奥の細道図巻》(1778)や、個人宛書簡の余白に描かれたイラストなんかは眺めていてまったく見飽きません。まあ、個人的に<もともと画力のある人が手すさびで肩の力を抜いて軽く描いた絵>ってのにヨワい、ってのはありますが(書いていて今気付きましたが、要は<元祖ヘタウマ>ってことなのかな)。まあそれはともかく、圧倒的画力を見せつける作品と、どこか人を食ったようなとぼけた味わいをもった作品の、どちらも難なくこなせるという点では若冲も蕪村も甲乙付けがたいでしょう。
や、それを言ったらたいていの画家に当てはまるかも知れないんですけどね、たとえば尾形光琳なんかはやはり「本格派」でしょうし、同時代のたとえば円山応挙にしてもどちらかというと「真面目派一本槍」って印象が強いと思うんですよね。若冲や簫白あたりは両刀遣いだけどかなり意識的にスタイルを作ってる感じがするのに対し、蕪村や大雅のような文人画家はその辺ごく自然体って気がする——って、まあかなり身勝手なイメージなんですけど、そんな印象を持っているんですが、いかがなものでしょ?
2015 07 20 [design conscious] | permalink Tweet
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